同性の移民の民を迎えたアウローラは光の精霊である。
兼ねてより自分の伴侶を欲しがり何度も何度も異世界を覗き込んでいた。
自らの魔力を吸い出し扉を作って覗き込むのだが、中々の魔力消費をする為中位の精霊であるアウローラにはそう頻繁に扉は開けれなかった。
魔力が無いと魔術を展開できない。その魔力自体を扉に吸収させて作る為、時間をかけて魔力を溜め込み扉を作るのだ。
そうしてやっと見つけたのが同性である少女、鈴木美佳であった。
美佳は現在17歳の高校生で、どこにでもいる学生である。
ただ、つい先程彼氏に二股で振られたばかりだった。
向こうから付き合ってって言って1年付き合ったのに、あっさり部活の後輩に寝盗られていたのに気付きもしなかった。
あっちがいつの間にか本命になっていたと言われ、盛大に往復ビンタをしその場で帰宅したのだ。
デートで新しく買ったばかりのワンピースだったのに!嫌な思い出しか残らない!と泣きながら帰った。
「……ねえ貴方、そう、貴方よ」
「……え?私?」
「ええ、私はアウローラ。嫌な事があったこの世界なんかより、私の伴侶になって幸せに暮らさない?」
家に帰り、部屋でグズグズ泣いていた美佳の前に現れた絶世の美女。
美しい金髪が背中まで流れていて、微笑んで美佳を見るアウローラにパチクリと瞬きをした。
「…………なに?だれ!?不法侵入!?」
「シー、大きな声は出さないで。私はこの世界じゃない別な所から来たの。精霊よ」
美佳の唇に人差し指を当てるアウローラは蕩けるような眼差しで美佳を見た。
微笑む姿は誰もが目を見張る程の美しさだったのだが、美佳は惹かれる事無く眉を寄せるだけ。
「どうかしら、私のできる限り貴方の願いを叶えるわ。だから私の伴侶になって一緒に行きましょう。貴方の世界と私の世界とは色々違うことがあるからゆっくり覚えて貰わないといけないけれど」
「…………伴侶って、確か結婚相手って事だよね。貴方女でしょ」
「ええ、それがどうかしたの?」
「どうかって……私そんな趣味ないから」
「……………………そんな趣味?」
泣きながらアウローラを睨む美佳だったが、ピタリと止まり口元を手で覆って悩み出す。
「…………なんでも叶えてくれるんだよね」
「ええ勿論よ。ただ、この世界に戻してって言うのは無理よ」
「それはいいよ。お父さんもお母さんも将来の為に勉強しろとしか最近言わなくてウザイし、彼氏は有り得ないし。私の言う事聞くならいいよ」
「………………嬉しい、嬉しいわ!どうしましょう。私の花嫁だわ!」
この時、アウローラは言わなくてはいけないことを言わずなんでも願いを叶えてあげると言ってしまった。
花嫁として迎えるにあたり、浮気や、他者と繋がることは厳禁。貴方は私を見続けること。
この約束を必ず守って。
そう、伝える必要があったのだ。
出来る限り貴方の願いをかなえる。その変わり、貴方の全てを私に明け渡し私の物になること。
これが異世界へ連れていく最初の契約になる筈だったのだ。
扉を2人で通る事でこの契約が魂に刻まれ結ばれる。
しかし、アウローラはこれをせず歪んだ美佳主体の契約となってしまった為、美佳を縛る強い強制力が無くなってしまった。
だから、美佳の最初の目的であった元彼よりもかっこいい彼氏を作る事を楽しみに異世界に渡ったのだ。
そして、ある程度この世界の話を聞き他の人外者や人間と話してはいけないとキツく言われた美佳は怒りアウローラに当たり散らした。
「私は彼氏を作りに来たの!イケメンの彼氏を!願いを叶えてくれるって言ったから来たのに!」
「彼氏って貴方は私の花嫁なのよ?」
「私そんな趣味ないって言ったよね!?恋愛対象として見るわけないじゃん!」
「……そんなの許せるわけないでしょ?」
静かに言い聞かせるように言うアウローラだが、美佳は聞く耳を持たなかった。
ギャーギャーと喚き散らし、騒ぐ美佳にアウローラも困ったわ……と呟く。
そして、自分だけを見ると言う契約をしていないことに気付いたアウローラは愕然とした。
「……………………まずいわ、とても」
野良の移民の民となる事も考えてはいたが、この状況でアウローラの話を聞かない美佳に何かがあった時守り切れるか……。
アウローラは中位のその中でも下の方だ。
守り切れる気がしなくなり、仕方なしに急ぎアリステアへの繋ぎを頼んだ。
面会し、保護を頼む。強くない人外者が花嫁を守る為にも有効な手段である。
「…………なるほどわかった。では、保護申請を受諾しよう。ようこそドラムストへ」
微笑み言った綺麗なアリステアを前に美佳は顔を赤らめはにかんだ。
こんな綺麗な人見た事ないと。
しかし、次に部屋へ来たセルジオを見た時美佳は雷に撃たれたような衝撃を受けた。
「っ!!ヤバいヤバいヤバいヤバい、かっこいい」
「…………ミカ?」
「なにあれカッコよすぎ」
明らかに惚れた様子の美佳にアウローラはギクリとした。
自分だけを見て今後は幸せになるはずだったのにと、アウローラの人生設計が崩れていく。
帰宅時にもシャルドネや他の人外者を見て興奮する美佳にアウローラの表情はどんどん影っていった。
移民の民は自分の伴侶としてそばに居る。
そのはずだったのに、どうしてミカは私を見ないの?
そう思うアウローラは、普段から作り続けた庭の一角にミカを閉じこめるようになった。
自分の用意した服を着せて自分の作った食事を与えて、四六時中そばに居る。
そんな歪んだ愛を美佳に捧げだし、美佳は怒り狂った。
「出してよ!セルジオさんに会いに行くんだから!早く!!」
「…………ダメよ、あなたは直ぐに浮気をするのだもの。貴方は私のモノなのよ?いい加減わかって」
「わかるもんか!私の言う事聞くんでしょ!?なら早くセルジオさんに会わせてよ!」
床に座り込み髪を振り乱して叫ぶ美佳に優しく微笑み両手でアウローラは美佳の頬を手で覆うのだが、その目は真っ黒で美佳はビクリと体を跳ねさせた。
「…………………………貴方は本当にわがままね、私の伴侶になるという契約の元こちらに来て可能な限り願いを叶えると言ったでしょ?それを違えてはいけないわ…………………………約束は契約よ、この世界は等価交換なの。貴方の願いを叶えるならば貴方も私だけを見るという約束を守らなくてはいけないの。ねぇ可愛い人、貴方は誰のもの?貴方が従うのは誰かしら?…………可愛いわがままならいいけれど浮気はダメよ、許せない。ね?だからそんなわがままは言わないで、私だけを見て私だけを感じて、私だけに触れていればいいの。」
まるで呪詛のように言い聞かせるアウローラに、泣き喚き抵抗していたはずの美佳は疲れ果て何も言わなくなった。
そんな日が、あの芽依がいる定例会議の日まで続くのだった。
こうして始まった異世界での生活、美佳は沢山の見たことない美しく綺麗な人間や人外者を見た。
人間でもいい、でも人外者の方が強いって聞いたから、それなら人外者を私の彼氏にしよう、それがいい。
あの二股して捨てたヤツよりも良い彼氏を作るんだ。
そう意気込んでいたのに、気に入った人外者は別の女の人に付きっきりで、私には笑いもしないのにお世話とかしてる。
後から来た白い綺麗な人も、小さな可愛い男の子もみんなその女の人を見てる。
よくある小説みたいに呼ばれた私は、特別な存在で凄い事が出来る人なんだ。
そう思ってたのに、なんでこんなに思い通りにいかないのよ。
ギリィ……と歯ぎしりをして少しも思い通りにならない現状に美佳はイライラとしたのだった。