「大丈夫ですかメロディアスナイト!」
「………………メロディアスナイト?」
「間違った、メロディアさん!……大丈夫じゃなさそう」
「どういう間違い方してるの?」
綺麗なドレス姿で四つん這いになっているメロディア。
今日は緩やかに巻いて右に寄せているピンクと白の混ざった髪は真っ白なドレス姿に映えてとても綺麗だった。
抜群のスタイルは海外の女優さんみたいで、そのプロポーションにあった体のラインを強調したドレスだが、芽依と同じく素肌は出さないシンプルで上品なものだ。
逆にユキヒラはキラリと光る靴やタイピンだったりエスニック調の柄が薄く入ったシャツだったり遊び心を存分に入れたお洒落な装いで、畏まったパーティでワインを飲んでいそうだが、如何せんユキヒラは日本人丸出しの容姿なので服に着せられてる感が強い。
チラリと後ろを見た臙脂色のツーピースにオフホワイトなシャツ、あえてしてないネクタイに紐がぶら下がり宝石の飾りが付いた帽子ときっちりし過ぎずお洒落に纏めたスマートイケメンのセルジオ。
立ってるだけで華があり、磨き抜かれた革靴から広がる床の波紋すらお洒落の一環にしてしまう。
「……やっぱり日本人向けの服じゃないんだ、ここのセンスは」
「あー…………大丈夫、芽依ちゃんはよく似合ってるよ」
苦笑して自分の格好を見るユキヒラにごめんなさいと素直に謝ったのだが、似合わないのは分かるからいいんだよ、メロディアの趣味だからと笑顔だ。
「……いい花婿さん捕まえましたねメロディアさん。自分の好みの服を着てくれる男性は貴重ですよ?」
パチンと目配せしてからメロディアに話しかけると、そろそろと顔を上げた。
泣いている訳では無いため、目元を赤らめたり腫れ上がったりはしていないようだ。
ホッとして笑みを見せると、眉を八の字にしてまん丸のタレ目で見つめるメロディア。
「………………ええ、私には勿体ない人だわ」
物凄く暗い顔をしたメロディアに、思わず闇堕ち!と声が出かかったが、既の所で口を塞ぎ深呼吸して落ち着いた。
「…………………………どうしたのユキヒラさん!メロディアさんヤバヤバですよ!」
「よくわかんないんだよ!!なんか突然こうなって」
「その前後になんか無かったんですか!?」
「別の移民の民とその伴侶にたまたま会って話をしたりはしたけど、特別何か違うことが合ったとするならそれくらいだよ!」
「いやもう!絶対それでしょ!」
微笑みをメロディアに見せていた芽依はメロディアが瞬きの瞬間にバッ!とユキヒラを見て突撃する勢いで前に行き話を聞こうとするが、まるで人形のように首を横に振るユキヒラ。
2人でコソコソ話しているのを見たメロディアが余計に暗くなった。
「ああぁぁぁ!メロディアさん!ほら今日は素敵なクリスマス!!ね?ハッピークリスマス!!」
「あーっと!カナンクル、こっちではカナンクル!」
「そうだった!……えーっと、私たちの元の場所ではクリスマスは家族や親しい友達、恋人と過ごす特別な日なので、そんな特別な日に悲しい顔していたらユキヒラさんも悲しくなっちゃいますよ」
「……………………」
「なにか、あったんですか?」
「………………ねえ、貴方たち移民の民がもっと話したいって言ったから私これでも努力してきたのよ」
ユキヒラが椅子を持ってきて座り込んでいたメロディアを立たせている。
素直に立ち上がり椅子に座ったメロディアに、芽依は近くにあった飲み物、多分果実水だろう、を渡すと、コクリと1口飲み込んだ。
「はい、ありがとうございます。メロディアさんは沢山話してくれますから私も嬉しいです」
「……わたしも貴方と話すのは好きよ?ユキヒラに人間や妖精、精霊が近付いて話しかけても、敵意が無いならある程度は許すわ。でも……あの女は、駄目。あれは本当に駄目よ。アウローラ、どうしてあんなのを選んだの」
ギリ……と歯ぎしりして一点を見るメロディア。
その先にはセルジオに話しかける真っ白なドレスを着た女の子の姿があって、話を聞いては居るがセルジオの視線は冷たい。
「ふ……ふふ、あの子はセルジオ様の好みには当てはまらなかったみたい……いい気味だわ」
仄暗い笑みで言うメロディアに、やばい!闇堕ちの前兆だ!とユキヒラと顔を合わせた。
「……い、一体なにがあったの……」
メロディアが睨みつけているのは、この待機室に最初に入ってきた女の子だ。
プリーツスカートをフリフリとさせてセルジオの真横に立つその子は目元を赤く染めてはにかんでいる。
芸術作品のように整ったセルジオの横にお人形さんのような女の子の姿は確かに絵画のように美しいのだが、周りに人がいる中でセルジオしか見ないその女の子に違和感を感じる。
「……あの子ね、元の世界に居なかった人外者に興味があるらしいわよ」
「え?でも……」
セルジオの周りにはメディトークもブランシェットもいるのだ。
それなのに一心不乱にセルジオをロックオンして話しかけ、すぐ隣に女性の人外者がオロオロとしている。
「セルジオ様にしか話に行ってないって事よね?男性体の人外者にしか興味ないらしいわ」
「………………えー、でも伴侶って女性なんじゃ?」
「アウローラ……あの精霊の事ね。アウローラによれば、妖精や精霊に会いたいから来ただけであって貴方に興味はないって言って来たらしいわよ」
「…………クソ野郎じゃないか」
「ンンっ!」
「…………あら、失礼」
芽依の率直な感想に思わず吹き出すユキヒラ。
芽依も、取り繕うが既に口から出てしまった言葉はどうやっても引っ込めることは出来ないのだ。
「……それで、メロディアさんは何か言われたの?」
「見た目だけ取り繕ったおばあちゃんなんですねって嘲笑ったのよ、あの子」
「………………は」
「仲良くしてってアリステアからも言われてたし、1番新しく来た移民の民だからと思って声掛けたら、私を上から下まで舐め回すかのように見て鼻で笑って……」
「…………えぇ」
「確かにあなた達の感覚だとおばあちゃんどころか化石だろうけどね……」
「いやいやいやいや!メロディアは綺麗なお姉さんだよ!」
「…………あなたみたいなおばあちゃんと結婚させられてユキヒラが可哀想って言われたの」
落ち込んで俯いているメロディアにユキヒラは驚いていた。
初耳だったらしく、え……なにそれ、と呟いているのが聞こえてきた。
「……メロディアさんメロディアさん。そんな嫌味を言う人の話なんて聞かなくていいんですよ。それよりも目の前の心配そうにしてるユキヒラさんを見てあげてくださいよ、心配で心配でハラハラしてますよ」
「……………………ユキヒラ」
やっとまともにユキヒラを見たメロディアは、心配そうに眉を寄せている姿を見て目が覚めたような思いをした。
そろそろと手を伸ばしてユキヒラの袖を握るメロディアの乙女全開に、どこがおばあちゃんだ!と憤慨する。
しかし、これで闇堕ちメロディアが浮上しただろうか、と芽依は笑った。
多分何回も聞いて手を尽くしてきたユキヒラだが、当事者だからこそ拒絶されるのが怖くて、おばあちゃんと言われたのが恥ずかしくて、何も言えなかったのだろう。
第三者であり、近くも遠くもない存在の芽依だからこそ言えたのかもしれない。
「よかったよかった」
そう安心したのもつかの間、芽依はあれ?と首を傾げる。
1番新しい移民の民と言わなかっただろうか。
確か年始の祝賀に他国と話す庭持ちの移民の民が1番新しい人だと言ってなかっただろうか。
「……え!?あの子!?」
セルジオの腕を掴んでいる女の子を見て、芽依は盛大に顔を歪めた。
「………………え。いやなんだけど」
「ん?なにが?」
「年始でなんか、他の国から来る人と話すのに1番新しく来た子と一緒にって…………」
「………………………………」
「………………………………」
3人は無言で女の子を見ると、セルジオがイライラしながら立ち上がりアリステアの方に向かうところだった。
後を追いかけようとしたがアウローラに止められ頬を膨らませた。
「……………………嫌なんだけど」
「……………………………………ちょっと待ってて、メロディアと相談するから」
ガックリ肩を落とすユキヒラとへにょりと眉を下げたメロディアは顔を見合せてから溜息を吐き出した。