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第69話 白は神聖なものの証


 煌びやかな衣装を身にまとった領民や人外者達が領主館からそれなりに距離のある、ペントランに集まりだした。

 ドラムスト領にある4つの街の中でも行事のメインに使われやすいのが領主館から1番近いカシュベルがなのだが、教会の大きさはペントランの方が大きい。

 その為ミサを行うのはペントランとなっていて、他の3つの街カシュベル、ガヤとシャリダンからは転移門を使用して参加する事になるのだ。


 芽依たちもキラキラ輝く衣装を着たまま領主館から転移門をしようしてペントランヘ向かった。


「ここがペントラン」


 転移門の繋がる先は街に入るすぐ横に設置してあり、その前後には外の門と中の門がある。

 街に入るには2つの門番からの身分確認など数個の確認作業がある。安全性を高める為だ。

 カシュベルから左右には平坦な砂地と森に分かれていて、転移門を使用せず来た場合は外の門で身分の確認、さらに中の門で罪状の無い者かを調べ街に入る事が出来る。

 転移門の使用には身分や領民である事、また他領や他国から来た場合はその身分を提示してからの使用となる為身分提示の義務は発生しないのだ。


「領主様」


 ミサの準備もあり早めにペントランへと訪れたアリステアに皆時間を合わせていた為大所帯で転移門から現れた芽依達。

 転移門は領主館から庭に行くのと同じように行けるのだが、専用の転移門広場があり、そこからかなりの人数を一気にまとめて転移出来る仕組みのようだ。


「仕事中すまない、ミサの準備の為に早めに来たのだ。確認をしてくれるか」


「ようこそいらっしゃいました領主様、皆さま。ただいま確認致します」


 腹部より少し上の位置に拳を握った手を当てて頭を軽く下げる門番から確認と称される魔術をかけられる。


「…………確認終了いたしました。どうぞお通り下さい」


「ありがとう」


 ギルベルトや、あの緑の髪の人外者も一緒に転移門を通ってきて、ミサの時間が迫りギルベルトはソワソワとしている。

 そういえば、あの人外者が何者でなんという名前なのか聞いていなかったなと思い出したが、アリステアですら紹介をしなかった為、気にしない方向で行くものかと芽依も大人しくする事にした。


「……凄い、街中が飾り付けられてる」


 街中にある建物や、この日の為に用意されているのだろう道沿いに植えてある大小様々なオージンという名の巨大な木。

 それに沢山のオーナメントや飾り、まだ明かりの灯っていない小さな電飾が風に揺れている。

 まだ日のある時間帯の為明かりは灯っていないが、ついたら街中がキラキラと輝くのだろう。

 流石カナンクル当日にミサを行う街である。


「ミサはどんな事をするんですか?」


「基本的な内容は一緒だ。聖歌を歌い祈りを捧げ供物として捧げる食料を食べる。普段はパンと少量のワインだが、カナンクルでは他にも軽食と様々な酒が用意されているぞ。きっとメイも楽しめると思う」


「お酒!!」


「……あとは、シーフォルムが保護し管理している移民の民の中から厳選された数名は祈り子様々なと呼ばれ、大々的に行うミサに現れる。今回ドラムスト領のミサに出席すると聞いているから会えるんじゃないかな」


「い……祈り子様……ゲームみたい」


 そのワードは前の世界にあったゲームに出てきそうなネーミングセンスである。

 芽依はテンプレ通りなら何か特別な子なのかなと思った。

 とても可愛い子供の姿だったり、純粋無垢な子だったりと特別感があるのかと少しワクワクしていたのだ。

 しかし、30分後本物の祈り子様を見た芽依は乾いた笑みを発していたのだった。





 街中を案内されながら到着した教会はとても大きく厳かだった。

 白と言うよりクリームがかった色合いの教会は年季が入っているが丁寧に整備、修復され大事に使っているのがひと目でわかった。

 中に入りピカピカに磨かれた広い通路を通りに抜けると両開きの巨大な扉がある。多人数もそうだが巨人族も余裕を持って教会に来れるよう設計されているのだろう。

 既に中では準備に追われているのだろう人の気配がしてザワついていた。

 アリステアが自ら扉を開けると、付近にいた人達は皆振り向く。

 全員が白の礼服を来ていて薄手に見えるが室温調整がされているのだろう、寒がる人は誰もいない。


「ようこそいらっしゃいました」


 奥で準備をしていた司祭がアリステアに気付き朗らかに笑いながら近付いてきた。

 モーセの如く人が左右に別れて道を作り、全員が胸の前で両手を交差し、

て右足を少し下げ腰を落とし頭を垂れた。

 司祭もアリステアの前に行くと同じ行動をしていて、どうやらシーフォルムでの挨拶のようだ。

 アリステアはただ頭を下げるだけで挨拶を返す。


「司祭、今日のミサよろしくお願いします」


「こちらこそ!良いミサに致しましょう!大体の準備は完了しています」


 白い歯を出し笑う司祭は手で中に入るように促すと、全員が頭を下げて中に入っていった。

 入ってすぐ大広間があり、まるでクリスマスパーティが始まるような飾り付けに多種類のパンと軽食やお酒の数々。何か焚いているのだろう、ふくよかな香りが料理の香りと混ざってなんとも言えない心地好い香りとなっている。

 立派なオージンが正面に飾られ星やオーブ、傘や飴に電飾など飾りは大体同じなのだが、クリスマスリースは無いようだ。

 その変わり、逆さに吊るされた花束が壁に飾ってある。

 宝石やリボン、オーガンジーなどで飾られた花束は等間隔で飾られ広場を華やかにしていた。


「いかがですか今年の会場は」


「素晴らしいですね、美しい飾り付けに料理も素晴らしい」


 アリステアの言葉に満足そうに頷いた司祭は、おや?と扉に顔を向けると、続々と移民の民とその伴侶が現れた。

 全員が芽依みたいな真っ白な衣装に、ほんの少しだけ差し色の刺繍をしている。

 女性はふわりと動きに合わせて揺れる軽やかなドレスで、ドレスは様々だがどの人も禁欲的で素肌はなるべく見えないデザインだった。

 男性は真っ白なツーピースやスリーピーススーツで、華やかさは中のシャツをフリルにしたり、ネクタイやタイピンでお洒落をしている。

 香り消しの白い帽子にも様々なお洒落を取り入れそれぞれにあった服装をしていた。

 しかし、真っ白な衣装をしているのは移民の民とその伴侶、そして教会関係者だけのようだ。


「……みんなまっしろ」


「はい、移民の民やその伴侶は神聖なものですからな、今日の祝祭には白い衣装でお願いしているんですよ」


 芽依の言葉を聞いた司祭が誇らしげに言い、笑って芽依を見てから集まった移民の民へと挨拶に向かっていった。


「移民の民とその伴侶だけ……」


『毎年白のみの指定が入んだよ。教会関係者も白一色だからな、移民の民とその伴侶も教会に属しているっつー主張もあんじゃねーの』


「属してない」


『わかってる』 


「…………宗教かぁ、別に個人の自由だけど私あんまり好きじゃないんだよね」


「そうなのか?」


「元々無宗教なもんで、宗教自体に興味が湧かないんです。イメージですけど高額なお布施やら、あれ買えこれ買えって言われそうで」


「酒が買えなくなるからか」


『こいつは本当に酒ばかりだな』


「私の8割は酒で出来ています」


「水だろ、そこは」


『人は辞めんじゃねぇよ』


 チラチラとテーブルに並ぶ酒を見比べ、どれが美味しいのか精査している。

 まだこの世界の酒は1部しか飲んでいないとギラつく思考を隠しもせずテーブルを見ているのを、信徒たちは見ていた。

 同じ白の衣装を纏った人外者は他に居ない、伴侶はどうしたんだろう……まさか……

 話はしないが目配せしている信徒にアリステアは気付き、セルジオを見上げると頷いている。


「すまない、時間まで部屋を借りていいか」


「あ、畏まりました。こちらへどうぞ」


 信徒の1人に声をかけ部屋へと案内して貰うアリステア達。

 芽依はその真ん中にいてセルジオとメディトークに挟まれ信徒に話しかけられない場所をキープしたのだが、部屋に着いた早々芽依をまっすぐに見た。


「伴侶様は後程来られます?」


『俺が代わりを務める』


「……代わり、ですか。では、片翼様ですか」


「片翼……?」


「それは教会に伝える義務は無いはずだ」


「……失礼致しました。それではまた後程」


 頭を軽く下げて部屋を出ていった信徒に、アリステアは小さく息を吐き出し、用意されていた水差しから薔薇水を注いだ。


「アリステア、私にも下さらないかしら」


「ああ、待ってくれ」


 ブランシェットが近づき注いでいる薔薇色の水を受け取り1口、口に含むと丁度セルジオによって椅子に座らされた芽依の隣に座った。


「片翼って何?」


『……あー、伴侶を失った移民の民の事だ。様々な要因で伴侶が死ぬと、国の管理はさらに厳重になる。今のお前みたいに領主館で1時預かりなんかも過去にあったぞ』


 ズシリと芽依の隣の床に座ったメディトーク。

 それでもまだ目線はメディトークの方が高い。


「伴侶と人外者の戦いだったり、不慮の事故や寿命だったり……理由は一概には言えんが一定数片翼になる花嫁や花婿がいるのだ」


「そうなった移民の民は狙われやすいから、国の保護を厚くしたり、公式の場で代替の人外者を用意する…………ん?ああ、片翼と言うのは移民の民を呼ぶ人外者の7~8割が精霊や妖精で婚姻を結ぶと二人は一つとした契約が結ばれる事になる。だから、人外者が死んだ時羽を片方毟られたという表現をするんだ。そして移民の民は人外者から少なからず力を貰うのだが、伴侶の死亡でその能力は受け継がれるので、その力の希少性も狙わるって事だ」


「……また知らない事実に出会いましたよ、メディさん」


『お前はまだ教育途中で全部一気に頭に詰めれないだろうが』


「はい先生、私無事に生きていけるかまた心配になってきました……」


「大丈夫だろ」


 芽依の座る椅子に軽く腰掛けたセルジオが、少し崩れた髪型を丁寧に直してくれる。

 伏せられた鋭い眼差しが陰り芽依の流れる髪を見たあと目を合わせる。


「…………俺達がお前を1人にはしないだろ」


「くぅ……………………」


「お、おい……どうした」


「この世界の人達ってどうしてこうイケメン爆発してるの……これはヤバい子絶対いたはず……」


「何を言っているんだ」


 セルジオといいメディトークといいフェンネルといい、なぜこの世界の人はここぞと言う時に心臓を握りつぶさん勢いでキラキラ倍増のイケメンになるのだろうか。

 これがこの世界の通常仕様であるならば、移民の民は鬱になるだけでなく素敵な勘違いをする子もいたのでは無いだろうか。

 今後移民の民への対応が変わるのなら素敵な勘違い製造機が出来そうだとこっそり思っていたのだが、どうやら既に危険指数が飛び抜けそうな子がこの後すぐに現れるのを芽依はまだ知らない。






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