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第54話 野菜を作ろう


 自動販売機を置いてから売上は上昇傾向。

 数日後に直接見に行き様子を見に行ったらみんな喜んでいて一安心だ。

 ただ芽依はこの自動販売機を置いた理由などを話した結果、1人で外に出歩いた事がバレて、酷くセルジオとメディトークには怒られ、アリステアにはもう泣かれそうだ。

 謝ってその場は落ち着いたが、芽依は反省はしても後悔はしていない。

 またなにか仕出かしそうだとセルジオとメディトークは目を光らせてたが、芽依は疲れ果てているアリステアの背中を撫で、ぶどうゼリーを箱庭から出し食べさせている。

 最近他国から祝祭の日程やその内容についてファーリアに色々と注文を付けているらしくアリステアはそちらにつきっきりらしい。

 領地には今の所なにかある訳では無いのだが、他領の領主と共に城に呼ばれ難しい話をしているようだ。

 芽依には分からないことの為、背中を叩いてゼリーをあげるくらいしか出来ない。

 泣きそうになりながらゼリーを食べるアリステアが不憫だ。



「よし、カボチャにじゃがいも、人参、大根、玉ねぎ、那須にトマト、ピーマン、もやし、葉物野菜も作ったし……あとはどうしよう。結構作ったよねぇ、キノコ類も作ったし……あ、ミョウガとかもつくるか……スナップエンドウとか枝豆……あとは」


 色々作り、あとはどうしよう……と悩む芽依。

 元の世界よりも作り方は簡単みたいでプリプリと大きな野菜が沢山実っている。

 しかし、他はこうでは無いらしい。

 やはり不作のようで、更に冬だから成長も遅いらしい。

 市場に流れる食材の量が見るからに減っていき痩せ細った小さな野菜ばかりが並んでいる。

 芽依が必死に作るが供給が間に合わないようだ。

 毎年恒例らしいのだが、売り物を巡って喧騒が激しく、乱闘も多いようだ。

 そして今、その標的となっているのが芽依達が作るものらしい。

 大ぶりで品質もよく数も豊富にある。

 しかし、勿論全員分を賄う量は無い為、即売会に行ったら1時間もしないで売り切れているようだ。


 乱闘がある可能性がある為、最近の芽依は庭に閉じこもり。

 畑を増やして作物を量産し、メディトークがいない間はガガディ達の世話も見つつ自動販売機も補充。

 やることは多いがそこは箱庭がある為むしろ時間が余るくらいだ。

 単調な毎日に飽きてきた頃新しい果樹でも植えるか……とパンフレットを開いた時だった。


「…………あれ?今なんか音しなかった?」


 庭に出ている椅子に座り暖かいミルクティーをのむ芽依は顔を上げる。

 侵入者が多い為セルジオとメディトーク2人がかりで周りの守備を強化してもらったので、そう簡単に入ることは出来ない。

 フェンネルですら入れず頬を膨らましてチャイムをならしているくらいだが、あの妖精はきっとまた抜け道を見つけて不法侵入しそうだ。すと


「………………気の所為だよね」


 しかしこの時、数人の人間が芽依の畑に入ろうとしてセルジオとメディトークが敷いた侵入禁止の魔術によって阻まれていたのだ。

 芽依達が作った野菜等を買い付け出来ず直接庭を探して買わせて欲しいと言う人が増えている。

 花嫁である移民の民が行う庭の為、良心的な人は来ないが、切羽詰まった人は構うことなく入ってくる、それくらい冬は過酷なのだ。

 即売会に連れていかず芽依を1人で残す事に不安だったのも、これを予期してだった。


 芽依は立ち上がり端まで行く。

 不可侵となっている庭から外を見ることは出来るが、外から庭を見ることは出来ない。

 庭がある場所は限られていて何処でも自由に庭を作ることが出来る訳ではなくて、指定してある場所を買い上げて初めて自分の庭を持つことが出来るのだ。

 芽依はアリステアが買い上げてくれたから場所の指定はしていないが、かなりいい場所にしてくれたらしく広さもさらに広げられるらしい。

 今後の更なる庭広大を希望して良い場所を買ったのだろう。

 望む所だ!と決意を新たにする物の外には相変わらず中に入って来ようとする不届き者の姿がある。

 場所の特定は全員ができる訳では無い。

 フェンネルのようなストーキングに長けた能力があったり、はたまた見通す能力を持っていたりと、能力に特化した人しか出来ない。

 従って、



「くそっ!ここも無理だ!違う所に行こうぜ!」


 数人がかりでなんとか侵入者しようとしていた不届き者の大半は数打ちゃ当たるの感覚で庭侵入者を企んでいるのだ。

 もう場所のわからない芽依じゃなくていい、どこか入れたら食い物盗もうぜ!の勢いになっている。

 勿論犯罪だから、定期的に兵士が見回りに来て引き摺られて行ってるのを芽依も見ている。


「……せめて自分で育てたらいいのに」


 壁になっている不可侵の魔術に触れながら呟く。

 見渡す限りこの良い場所にもかなりの畑が有る事を不可侵魔術が沢山展開しているから分かるのだ。

 せめて自分が食べる分だけでも……そう思うのだがお金もかかる事だしそんなに簡単なことでは無いのだろう。

 芽依だって、領主アリステアというスポンサーが居たからこそスタートダッシュが出来たのだから。


「………………食料危機か」


 芽依が元々いた場所に食料危機はなかったし、今沢山の物を作る芽依には周りがそんなに困っているのかを肌で感じてもいない。

 アリステア達がどんなに頑張って動き回っていてもこの緩い箱庭から出ない芽依には本当に所の危機感が何も無いのだ。


「………………よし」


 顔を上げて箱庭の中を見る。

 そこには1人でセイシルリードと話ができない芽依の為に用意された沢山の苗や種、肥料など、新しく畑を広げる為の物が収納されていた。


「……よし、量を増やそう。沢山作って沢山売ろう」


 さらに畑を増やし沢山植える限度を知らない芽依は帰ってきたメディトークの頭痛の種になるのだがそれは今知らなくていい事である。


「…………お、自動販売機完売だ。追加しよう、野菜ここら辺は在庫があるから売れるでしょ、あとは……」






 そんな自動販売機の中身を芽依が選んでいる頃、即売会に来ていたメディトークは困った客の対応を行っていた。


『出来ないと言っているだろう』


「出来ないではない、やるのだ。我が主ヨーグレリア伯爵からの命であるぞ。なんとも名誉な事をなぜ分からんのだ、この幻獣風情が」


『………………あ?』


 今回来たのは街の外れに位置する場所に屋敷を構えるヨーグレリア伯爵家に使える家来のようだ。

 薄っぺらな体にフリルたっぷりのブラウスを着て威厳を見せているようだが、如何せん存在自体が小物感満載なのだ。


「…………ねえ、買わないなら避けてよ、僕ぶどうが欲しいんだから」


「なんだと!?…………む」


「……ぶどう関係全種類2個ずつ頂戴。あ、ワイン以外……お姉さん最近見ないけど元気?」


『まいどあり……ああ、元気だ』


「そう、よろしく伝えてね。ゼリー美味しかったって言っといて」


『ああ、喜ぶ』


 割り込んで来た少年にイラッとした家来だったが、相手が人外者とわかり渋々場所を避けた。

 人間にとって人外者の力は驚異である。

 だからなるべく親しくない人外者は自分が消されないように距離をとる。

 この男もそうで、少年が来たから少し離れたのだが、厳しい眼差しをメディトークに向けていた。

 人間の1部には何故かその畏怖の対処が人外者なのに幻獣を含まない奴らがいるのだ。

 人型ではなく言葉を発しないからそう思うのかわからないが、この家来もメディトークへの対応は横柄だ。

 またね、と手を振って離れた少年を見送ってからあの小物な家来は丸々としたトマトを掴む。


「こんなに出来のいい野菜や肉は、我ら貴族の方々が食べるべきなのだ。専属に契約をしろと言っているだろう」


『それをする理由が俺には無いし、この庭の持ち主は俺じゃねぇ』


「なら持ち主に会わせてもらおうか!なぁに、それなりの等価交換はするから心配はしなくていいぞ」


 あまりに身勝手な話にメディトークだけじゃなくて周りもザワザワと騒ぎ出した。

 今回偶然だがメロディアにユキヒラと、フェンネルも近くにいるのだ。

 芽依にまで手を伸ばす発言をしたこの男に3人の強い眼差しが向けられる。

 先に動いたのはフェンネルで、冷たい粉雪が周りに降り始めた。


「…………ねぇ、ここの庭の持ち主は花嫁だけど、それをわかって言ってるのかな?俺たちとも交流のある子なんだけど」


「まあ、あの子に手を出すの?それは聞き捨てならないわね?」


 家来の男の後ろに2人が立ち、同時に肩に手を置いた。

 それにビクリ!と肩を跳ねさせた家来は青ざめた顔で振り向くと極上の笑みを称える美男美女。

 ただし、目に光が無くじっと見てくる2人には恐怖しか与えないだろう。


「っ…………きょ……今日のところは帰る!また来るかなら!!」


 バタバタと走って逃げていくその男を見送ったメディトークはハァ、と息を吐いた。


「変なのに引っかかったわね」


 腰に手を当てて走り去る男を見送ったメロディアはいやぁーね、と言いながら手を振りシッシッ!と追い出すようにした。


「まあ、たしかにあの子の野菜や肉は凄い大きいしプリプリだし果物も乳製品もあるし、わかるけど、だからってこれはないよねー……あれ、すごいラインナップ」


 あ、狙われてもおかしくないかぁとフェンネルも頷く。

 それくらいに今の冬における食材の豊富さが段違いなのだ。

 それが、今回の引き金になったのも

 致し方ない事なのだろう。
















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