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第53話 自動販売機は鉄板だよね


 箱庭を無事使いこなして来た頃、本格的な冬に突入した。

 毎日凍てつくような寒さで、布団に入っていても朝寒さで目が覚める。

 本来なら魔術を敷いて部屋の温度を均一にする筈だったのだが、まさかの暫定食の日にかぼちゃの量が足りず呪いがかかった人や人外者が数人居たらしい。

 寄りにもよって次の暫定食の日まで魔術封印で、しかも領主館の周りの温度調節を得意とする者ばかりであった。

 残りの人族の魔術部隊で温度調節をおこなったのだが、何故かその後腹痛に見舞われるという不幸が続いていた。

 無事に温度調節は出来たものの複雑で繊細な魔術は慣れていないと失敗しやすい。

 従って、1番冷え込みやすい朝晩は温まらず極寒を1ヶ月耐える必要があるのだ。

 人外者については自らを温度調節してしまい特別問題がない為ノータッチだ。頼むと対価が発生する為こちらも気軽に頼めない。


 アリステア以外のお偉いさん達は寒さに尋常じゃないくらいの怒りを見せていたが、それこそ知らん、とあの優しいアリステアが微笑んだまま取り次ぎをしなかったようだ。


「…………あったかい」


「野菜のポタージュは好きだろうか」


「あまり食べた事無かったんだけど、じんわり暖かくなって体がホカホカしますね」


 んー……と目を瞑って美味さに震えている芽依にアリステアは微笑んでいた。

 移民の民と同じ領主館で暮らし毎日顔を合わせて食事を一緒に取る日々にアリステアも親しみを持ってきた。

 芽依に対する態度が軟化し、前よりも穏やかに話をしている。


「最近はどうだ?箱庭は順調か?」


「順調ですよ、農作物も作り出して野菜の販売を初めました。思ったよりも収穫量が増えてるので2日に1回は難しいかもしれませんが冬の間も定期的に売り出せそうです」


「そうか!それはいい事を聞いた。実は大雪の影響で根野菜が冷害にあっていてな。もし出来るなら根野菜を中心に作ってくれないか」


「んぐっ…………大丈夫です。じゃあ今日追加で購入して育てますね」


 パンを食べながら話す芽依に怒ることもしないアリステアの安心した様子に、量を増やすか……と考え込んだ。



 庭にも雪が積もってきていてこちらも冷害の被害がない訳ではない。

 だが、ハウスを立てなるべく雪の侵入を防いだ冬仕様の庭はいつでも手が出せる箱庭の安心サポートで昼夜芽依が目を光らせ冷害から大事な食料を守っていた。

 それは水に弱いぶどうも同じだ。

 不思議なことに適切な手入れさえすればどの作物も年中育てる事が出来、収穫可能なのだ。

 しかし、育てにくい環境になると、育てるスピードを促進させ実りを多くする必要がある為、実際に出来るのは恩恵を持つ者に勝敗が決まってしまう。さらに、出来上がりも小ぶりだったり品質が低下していたりと冬が旬の野菜ですら育たせるのは難しいのだ。


「…………この世界の食事情って本当に過酷だよね」


 畑に水を撒き葉の様子を確かめる芽依。

 今は肉類をメディトークが、野菜果実を芽依が見ている分担制になっていた。

 もちろんお手伝いはするし、制作や品質保持のための努力は二人でやっているが。

 どうしてもメディトークの体格には畑仕事の場所が狭くなるらしい。


「……とは言ってもだからこそ自分の食い扶持は自分でって庭を持ったんだろうけど」


 沢山の庭持ちが居て、自分が食べるギリギリの量を作っている人もいれば、広大な庭を毎日楽しく作っている人もいる。

 まだ即売会ではそんなに交流をしていないが、瑞々しい野菜や大ぶりの果物だったりと様々あり気になっている芽依。

 しかしそれも冬が近づくにつれて大きさや品質が下がっているのはすぐに分かり、こんなに早く一斉に品質が落ちるんだ……と驚いた。


「ねえメディさん」


『なんだ?お、いい出来だな』


 太さも大きさも十分な大根を抱えて来た芽依を褒めるメディトーク。

 やったね!と1度跳ねてから、ダンボールに大根を丁寧に並べて入れた。


「前に見たカタログにさ、自動販売機あったよね」


『ああ、あったな』


「あれさ、露店に置けないかな」


『…………露店?なんでだ?』


「うん、この間露店に行ったんだけど、冬になると野菜売りさんたちが軒並みカテリーデンやガーディナーに行くって言うの。それで、露店で出しているお姉さん達が買えなくなって大変なんだって。特に雪深くなるとカテリーデンやガーディナーはあの場所から逆方向だから大変らしい。生野菜とか肉がその日の天候によって買えないって言ってたよ」


 アリステアの領地には4つの都市があり、それぞれに即売会やスーパー相当のもの、そして露店があるそうだ。

 うち2つは頑張ればスーパーなどに行ける距離だが芽依達がいる場所等は距離が遠く買いに行く事自体が大変らしい。


「そもそもなんで野菜売りさん達は場所を移動するの?」


『寒さに野菜がダメになったり肉が凍ったりと売れる状態じゃなくなるんだよ。野菜ひとつずつに魔術を敷いた袋に入れて状態保持する事も出来るがな、それなら手間も無くなり経費も掛からないカテリーデンやガーディナーに行った方がずっと安い』


「…………うーん、そうかぁ……お姉さん達がガーディナーとかに行けないの?」


『ああ、販売規約に引っかかるんだ』


「販売規約」


 なんでも建物内で販売をする場合、その場での調理や袋に入っていないものは販売出来ないらしい。衛生面に引っかかるのだとか。

 露店で売り出しているのはまるでお祭りのようなその場で作ったり、壺のような物の側面に貼り付け温めてそのまま売り出す饅頭みたいなとか。

 どうしても建物内で売れる形状ではない。

 しかも、相当の悪天候でない限り店を出す豪胆ぶりである。

 お姉さん達曰く、売らないと旦那の稼ぎだけじゃ足りないのさ!と笑って言っていた。


「そんなお姉さん向けに冬のあいだだけでもいいから自動販売機置きたくて」


『……まあ、自動販売機は悪くねぇ。設置さえしちまえば後は庭からでも補充出来るからな』


「え、何それ」


『なんだ、知らねぇで言ったのか』


 芽依の世界にあった自動販売機を考えていた芽依。

 現地に行って補充して、だから1日数回は行く必要があるのか、悪天候はしんどいなぁと思っていた所だ。

 ところが、この世界には魔術が有り転移や転送が可能なのだ。


「メディさん、私魔術使えません!」


『知ってるわ』


 ちなみに、転移とは魔術を使う人が移動する事で転送は物だけを移動させる事を言う。

 今回は売り物を自動販売機に動かす為転送である。


『わざわざ転送しなくても箱庭があんだろ。自動販売機を買ったらカテゴリが出てきて何を売り出すか、残り個数と売上表示出るぞ。あとは自分で好きなの売りゃいいだろ』


「……………………まじか」


 ウズウズする芽依はチラチラとメディトークを見ている。早くセイシルリードの所に行きたいと目が語っている。


『…………まだ終わってねーだろ、終わらせてからだ』


「ノーーーー」


 渋々農作物を見に行き収穫が出来そうな物は軒並み収穫していった。

 箱庭を貰って1番嬉しいのは収穫したものを箱庭に収納出来るから!わざわざ収納する為の建物を買う必要がないのだ。

 そう、メディトークに時間停止の大掛かりな魔術を敷いてもらわなくて良い。

 メディトークの負担が多いので気にしていたのだ。


「自販機自販機!色々売れちゃう自販機……あれ、惣菜も売れる?」


 人参を抜きながらピタリと止まった芽依は、収穫した野菜などを見ていく。

 様々な種類が増えたがまだ十分ではないラインナップに、芽依はニヤァ……と笑う。


「そうだよね、直売所じゃ無くても自販機でも食べ物売れるじゃーん」


 ニヤニヤしながら人参を抜き大根を抜きと端から攻めてる芽依の不気味な笑い声に鳥の首を締めているメディトークは引き攣った顔を隠しもしなかった。






「自動販売機ですか」


 セイシルリードの話を前のめりで聞く芽依。

 メディトークが何度も注意しているにも関わらずテンションが上がりっぱなしな芽依は頭突きでもしそうな距離だ。


「そうですね、野菜や肉等なんでも入れれるこちらをおすすめ致しましょう。大きさを変えられますので大きな食材を数個入れる事も、小さ目な野菜を沢山入れる事も出来ますよ」


「ほおぉぉぉぉ」


 すこし大きめ自動販売機のパンフレットを見せてくれた。 なかなかいいものらしい。

 自動販売機自体に時間停止がかかっていて、出した時に新鮮な野菜や肉が買えるらしい。

 商品を置く台座に時間停止の魔術印が書かれている為大きさを変更しても大丈夫らしい。


「…………これって調理済みのも入れれますか?」


「調理済みですか」


『まさか、自動販売機で惣菜を売るのか?』


「うん、お姉さん達仕事終わった後買い物したり帰宅してご飯準備って休む暇無いって愚痴ってたから1品でも買えたら楽かなって」

『………………試してみるか。自動販売機だったらそんなに個数は必要ねぇだろ。売り切れたらまた野菜や肉を売りゃいいさ』


「お試し、楽しみだな」


 こうして自動販売機を購入した芽依達は搬入した日、すぐにあの露店に設置した。

 急に現れた何も販売されてない自動販売機に露店のお姉さんたちはとても驚き、近くによって見ていると、芽依が販売する時に袋に貼ってあるシールの模様が自動販売機の側面に浮かび上がり、芽依達の自動販売機だとわかるようになった。



「……えーと、これがこうで、これが……こうか」


 芽依は庭でメディトークと箱庭を弄り商品の陳列をしていた。

 箱庭の中で順番に野菜や肉をドラッグして入れていくので芽依達もわざわざ商品を持って転送する必要がない。

 増えて在庫の多い物から入れていき、乳製品やゼリーも入れていく。

 そして、メディトークが作った惣菜はまず3種類入れて売上を見ていく事にした。


「……いいかな」


『いいんじゃねぇか』


 自動販売機の入力個数は1種類につき30個

 つまり、30個売り切れたら完売になるので中身を入れ替える。勿論売れ行きを見て売り切れる前に入れ替えも出来る。


「じゃあ、販売開始!」


 ドキドキしながら販売開始のボタンを押すと箱庭の自動販売機が光だし使用中と出た。

 売っている品物とその下に個数が書かれ、売れたら数が減っていく。

 売り出し商品は鳥もも肉、胸肉、豚こま肉、牛肉ステーキ、乳製品数個にワイン。そして惣菜では煮込みハンバーグにハム巻きボテトサラダ、そしてサラダだ。

 金額は直売所と同じで、惣菜も低めに設定して買いやすくしてみた。

 売れ行きを見て大丈夫そうならセット売りも面白そうだ。


「うん、楽しそうだね」


 こうして自動販売機を開始した芽依達。

 野菜だけだったり、肉だけだったりと偏った自動販売機が多い中、芽依達の自動販売機は様々なものを売り出し、その豊富な種類と品質の良さは露店ですぐに噂になり初日完売は無理だったが、3日後には数回の補充や中身の変更をしてこちらも順調に買われていった。


「不安だったお惣菜も完売!さらに補充しても完売!!……あの試食で出したメディさんのご飯の減り方が尋常じゃなかったから売れそうだと思ったんだよね」


 特に露店で働くお姉さんの為に用意した自動販売機。

 露店のお姉さん達はかなりの人数が居るので無くならないようになるべくいっぱい入れておこう!と気持ちを新たにした。


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