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第52話 芽依の休日


 今日は休日、朝からまったりと過ごすと決めていた芽依は珍しく朝寝坊をした。

 朝食は既に下げられていて、お腹の虫がなっている。

 特に食べ物を持っている訳でも無く、かと言って常に作ってもらったものを食べる芽依は厨房の場所すら知らない事実に愕然とした。


「なら、ちょっと探検するのもいいよね」


 まずは日課の箱庭を確認。広がり出した畑やぶどう。それにメディトークが手入れしている肉類や乳製品。ちょこまかと動くコミカルなメディトークも癒しのひとつだ。

 箱庭内の季節は冬でチラチラと雪が降っている。

 雪山ができてソリも置いてあり遊び放題なのは、箱庭で設置したのがリアルに反映されたからだ。

 ちょっとだけメディトークに怒られた。


 この箱庭は、毎日ガチャがあり引くと当たり外れはあるがオブジェクトが貰える。

 いらなかったら売り飛ばすことも可能だがストレージがガラガラの為放置している。

 雪山を作ったスコップも、ソリもガチャで当てていた。

 そんな箱庭の別な遊び方は沢山あって、どれもが特典だったりプレゼントだったり。

 でも、失敗したら呪いも貰えちゃうお茶目な箱庭である。

 前に貰った呪いが作物の1部がスライムに変わるという呪いで、ぶどうがスライムになった時は阿鼻叫喚である。主に芽依が。


「いやぁぁぁ!!ぶどうが!私のワインがぁぁ」


「……………………」


 たまたま来ていたセルジオがステッキで1回地面コツンで終わらせてくれて、黒い玉に変わった元スライムは座った目をした芽依によってゼリーに変えられていた。

 勿論スライムに変わったぶどうが戻ることなく半分禿山のようになって咽び泣き、セイシルリードに泣きついたのだった。


「……ぶどうはまた最初からだけど復活出来る……だからと言って悲しみが無くなる訳では無いのでぇぇ」


「…………これをやるから泣き止め」


「……え!?」


 そこにはぶどうゼリーと味が違うぶどうのクラッシュゼリーが層になっていて、果肉をこれでもかと乗せた芽依が作りたかったお洒落ゼリー様がいらっしゃるではないか。

 セルジオが細長いグラスを持ち、一緒に長さのあるスプーンも持っている。

 まさかの出会いに狂喜乱舞した芽依はセルジオに感謝のしがみつきを1回お見舞いした後、貰ったゼリーを美味しく頂いたのだった。


「……すごいわお母様、デザートも作って下さるなんて。私尊敬してしまいますわ」


「気持ちの悪い言い方をするな」


「………………最上級の感謝」


 むぅ……と口をへの字にしつつ美味しいゼリーを平らげた。



「……あったなぁそんなこと。あれからたまに差し入れで来るぶどうゼリーが幸せすぎて、ぶどうを買いに来てくれる度に邪な期待をしてしまう」


 箱庭を触りガチャを回したが今日はハズレ。

 1回分の栄養剤だが使用箇所は果樹に限るらしい、足りないだろうけどぶどうに使おう。

 ……使えるよね?


 全体のチェックを済ませメディトークを撫でたあと箱庭を鍵に戻して首から下げらる。

 これには落とした時ように所有者に戻る魔術をセルジオが敷いてくれた。さらに強度を高めて壊れないように。高価なものだから。


「……よし、じゃあ何からしようかなぁ」


 芽依は立ち上がりまずは腹ごしらえだ!と部屋を飛び出して行った。


 結果的に厨房は見つけられなかった。

 食堂に行っても誰もいない。

 それもそうだ、もう10時半を回っているのだから。

 この世界は芽依と同じく1日24時間で1日3食食べる世界だった。

 ただ、1年を15ヶ月、ひと月32日となっていてそこはだいぶ違う。

 色々同じだったり違ったりが混ざりあっているのだろうか、食文化は違うけど食材や料理は同じものが多い。


「じゃあ……ご飯を求めて」


 芽依は何時もの外套を羽織り、しっかり手袋を付けてから外へと出ていった。

 冬仕様になった為、コートに紛れて冬用の外套は目立たない。


「……今日はいつもより寒い気がする」


 ブルリと身体を震わせてから颯爽と歩き出した。

 降り積もる雪を踏むギュッギュッという音が心地いい。


「どこから行こうかな」


 前に3人で初めて外出してから芽依は仕事の合間にまた行きたいと思っていた。

 しかし、心配性のアリステアや、完璧母親と化したセルジオに猛反対されていて断念していたのだ。

 だが今日は違う。

 アリステアは仕事で教会へ行き、ブランシェットと数人の騎士はその付き添い。

 セルジオも仕事で今日1日は外に出ているらしく芽依との遭遇率は極めて低いのだ。

 ならばと芽依は昨日から休みは今日しかない!と短絡的に決めて仕事を終えたメディトークに明日休む!と伝えに行ったくらいだ。


「これ、1個ください!」


「はいよ!まいどあり!」


 露店に並ぶ肉まんのようなものを1つ頼む。

 元気の良い店員はにかりと笑って1つ袋に入れてくれた。


「わあ、おいしそう」


「おー、うまいぞー」


 いただきます、と挨拶してからかぶりつくと肉汁が溢れ出て熱いやら美味いやらが合わさりバクハツした。


「はふはふ……んまぁぁ」


 見ると歩きながら食べてる人が多い。

 なるほど、買い食いは多いのか。


「小腹満たすくらいの大きさ、これなら売れるんだ。確かに金額もお手頃」


 ふーん、と商品を見ていく。

 どこも2~3口程で食べ切れるくらいの大きさの物が多い。

 さらに、経費削減なのか保温カップは使わず販売している為時間が経つと売れ残りは値引きされて行く。

 貧しい家庭なのか、掘り出し物が好きなのか、半額目当てで集まってくる客も多いのだ。


「……貧困家庭には素晴らしい制作だけど店側には大ダメージじゃないのかな」


 ふむ?と首を傾げながらもまた他の露店に顔を出す芽依。

 並んでいるのはやはり1口サイズで食べやすそうなお団子である。

 笹の葉のようなお皿に串のないお団子が並んでいる。

 味は一種類なのか皆同じようだ。


「……お団子、白玉粉があるのかな」


 ひとつ貰い食べるともっちりとした食感に甘辛いタレがかけられ小さいのに食べ応えがある。


「うま……でもやっぱりお惣菜関係はないね」


 この露店には調理された1口サイズの食べ物が多いみたいだ。

 たまに野菜や肉が売られていて、売れ行きも良さそうだが冬になると軒並み撤退してしまうらしい。

 暖かな1口サイズの食べ物のみとなるらしいのだ。

 冬の収穫は少ないため、露店ではなくスーパーのような場所ガーディナーか、即売会場のカテリーデンに移動するらしい。暖かいし。

 ただ必ずガーディナーやカテリーデンで売れと言う訳ではなく、皆が集まっているからじゃあ……という集団心理である。


「……ねえ冬にここで野菜とか売ってたら嬉しい?」


 お団子屋さんな売り子である女性に聞くと困ったように笑う。


「そりゃ嬉しいさね。私たちの家からガーディナーやカテリーデンはちょっと遠いからね。でも、行かないと食い物なくなっちまうし。子供たちは食べ盛りだからね買い物しても1週間持たないんだよ」


 たぶん、お母さんなんだろう。

 困ったもんだよと家族の心配もしていて、せめてもう少し近かったらねぇとしみじみ言っている。

 今ここにいる野菜売りや肉屋等が居なくなったら困ってしまうのだろうが決めるのは野菜売りや肉屋なのでどうにもならないだろう。


「そう、ありがとう」


 芽依もお礼を言いちょっとだけチップを持たせてから離れた。


「……やっぱり、アレした方がいいな。メディさんに早めに相談しよう」


 真剣に悩んでいるが口には白玉の餡が付いていて、締まらない芽依であった。

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