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第49話 念願の箱庭


「きゃあ!引っ張っちゃいや!!」


『早く歩け!!急げ!』


「わ……わぁ……」


 庭に着いた早々ヘルキャットはメディトークに尻尾を鷲掴みされ背中を下にして引きずられていた。

 ザリザリザリザリと音がなりにゃーにゃー騒いでいてガガディ達も立ち止まり二人を見ていた。


「……着いて行った方がいい、よね」


「離してぇー!背中がガサガサになってしまうわぁ!!あ!!羊!羊の群れ!美味しそう美味しそう!美味しい!!」


『うるせぇ!少し黙ってろ!あと食ってねぇだろ!!』


「やーだぁぁぁぁ!!」


「……そういえば、あの猫喋れてる」


 メディトークとの大きな違いに気付き思わず声に出すが叫ぶ2人には気付かれていないようだ。

 ずりりり……と引き摺られながら羊を見て口元を涎でびちゃびちゃにしている巨大猫、それを引きずり怒鳴るのが巨大蟻。

 なにこれ、怪獣大戦争的なやつかな。


『セイシルリード!』


「いらっしゃいませ……おや、これはどうしたんですか?」


『出資者を捕まえた。1番いい箱庭にしてくれ』


「ちょっとまって下さい!まだ詳しい内容決めていませんよ!あぁぁ!ねぇぇぇ!私の話を聞いてぇぇ」


 尻尾を掴んだままセイシルリードと話をするメディトーク。

 先程言ってた羊5匹の調達も含めて話をしているようだ。

 どのような箱庭にするか、既に芽依も置いてきぼりである。


「………………えっと」


『こい!ほら!』


 黒光りする足を持ち上げそこに座らされた芽依は開かれたパンフレットを見るように差し出される。

 前よりも増えている気がした。


「……えっと、季節で変わる着せ替え箱庭」


「それが1番人気ですよ。季節によって採取する食材に加護や豊穣と収穫の恩恵2倍とかの飛び抜けた才を所有している箱庭ですね」


『これにしよう、な、これがいい』


「今までに無い熱い推しを感じる……」


 他のも一応見てみるが、それぞれに良いポイントが沢山あり、ひとつを選ぶのは難しそうである。

 それなら一緒に世話をしてくれるメディトークが気に入る庭にした方が気分も上がりヤル気も上がり更に収穫率アップ。


「…………いい」


 自分にとってプラスになる物だらけだと理解した芽依は、すぐに顔を上げて指を指した。


「これでお願いします!」


 セイシルリードを見てワクワクしながら言うと、覗き込むように確認してきたヘルキャットがあら……と呟いた。


「まあ、それは最新の箱庭ですわね。かなり人気で売り切れ続出と聞いていましたよ?」


「再入荷した所なのでありますよ」


『これで頼むわ』


 なに1つ迷う様子も見せない真っ黒な瞳でセイシルリードに言うメディトークの必死さにヘルキャットも好きにしていいですわよ、と頷いた。

 芽依も文句ない為頷くと、先払いです。と微笑むセイシルリードに言わた。


「尻尾を離して!もう、レディの尻尾を掴むなんて無作法なのよ?」


 もう、と言いながら箱庭代金をカウンターに置いた。

 財布どこに閉まってたの?と思うくらいサラッと出しておしまいである。

 それは間違いなく大金で、メディトークは目を見開き出された大金に釘付けになる。


「さあ、では羊を頼みますわよ!お願いよ!!忘れないで!!羊!!」


 びたん!と地面に尻尾を打ち付けて体を左右に揺らす巨大猫は羊を見ては舌なめずりをしている。羊コールが止まない。


「…………セイシルリードさん、羊追加購入と、毎月定期的に買いたいです」


「そうですね、ヘルキャットさんへの分と市場に流す分とでしたら……」



 こうして追加購入の手はずやヘルキャットへの等価交換として譲る羊や今後についてを話し合った。

 現段階でまだ羊は成熟されていなくまだ出荷できる状態ではないためそれまでは待つという。

 そして、ヘルキャットには月に5頭の羊を生きたまま提供、更に肉は優先的に売買をする事に決まった。

 優先的とは言え、売り切ってしまわない為ヘルキャットが買えるボーダーラインは決めておいた。

 そうしないと無限に買い込んでしまうからだ。

 こうして念願だった箱庭を手に入れた。


 じつは、出資者の中で巨大猫は珍しくないらしい。

 羊をこよなく愛するヘルキャットたちは、肉になった羊を食べるのも好きだが、生きたままガブッ!とするのもすごく好きらしい。

 しかし、市場に一頭買いを満足できるほどは流通していなく、見つけても他の巨大猫同士喧嘩が耐えないのだとか。

 その為、成長する可能性のある庭持ちに出資する事で定期的に羊を貰うようにしている巨大猫は多いのだとか。

 とくに人気になりつつある芽依には既に何人かの巨大猫が目をつけ始めていて、取られないうちにとヘルキャットが飛び付いて来たのだ。

 結果的に急いで庭契約をしたヘルキャットのおかげで本格的な冬になる前に箱庭を手に入れた。

 さらに、通常よりも安い等価交換だったのにヘルキャットが羊5頭とお肉優先販売で手を打ってくれた事は僥倖である。


「でもいいの?箱庭の等価交換が羊5頭って少ないよね」


「いいのです。欲をかいて羊15頭にした猫族の話は有名なのですよ。多めに設定した羊の用意が出来なくなった庭の持ち主は困ってしまって、羊は渡せなくなったと素直に相談すると怒った猫族が庭の持ち主を殺してしまったのですって。でも、庭の持ち主は人気だったから、それを悲しみ怒ったお客様達が出資者の猫をなぶり殺しにしてしまったの」


『ああ、有名だな。庭の持ち主もわざとじゃねぇが価交換を反故したからには文句も言えねぇんだがな。持ち主が周りに愛されていたから逆恨みに出資者が標的になった。まぁ、仲良くやれよっていう教訓みてぇなもんだ』


「ええ、こわっ!ヘルキャットさん!羊は必ず準備するから安心してね」


「ええ!勿論!期待して待ってますわ!」


 ベロリと舌なめずりして言うヘルキャットに、用意しなかったら私が食べられそう……と冷や汗をかいたのだった。



「では、準備と設定に1日頂きますのでしばらくお待ちください」


「お願いします!」


 ワクワクが止まらなくソワソワする芽依はメディトークにそそそ……と近付き足にぎゅっ!とくっついた。


『あ?どうした』


「楽しみすぎてどうしよう!」


『おー、俺もだ』


 にっ!と笑ったメディトークに更にテンションを上げた芽依はその場で足をバタバタとさせた。





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