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第46話 課外授業 2


 無言で頭を叩かれてから1時間が経過。

 却下されたのだろうとしょんぼりしたが、街中を案内されて周りを見て回る芽依のテンションはジワジワと上がっていった。


「やっば!妖精!精霊!!わあ!…………煉瓦が連なって歩いてる」


 ふわりと空を飛ぶ妖精がキラリと何かを撒いていたような気がして目を細めると、セルジオに顔を覆われ隠された。


「むむ……」


「見るな、あれは妖精の涙だ。惑わされるぞ」


「惑わす……」


『呪ったりする前にああやって惑わし動かしやすくすんだ。いいか?涙を流す妖精には近付くなよ』


「……綺麗な妖精は注意が必要でした」


 なんて世知辛い世界なんだ、綺麗なものを自由に見る事すら出来ないなんて……と強く手を握り何故かメディトークの黒光りボディをポスポスを叩く。


『なんだよ』


「世の無常を儚んでいるのだよ、相棒」


「食に対する渇望以外にもお前が儚くなるのがあるのか……はっ」


「なんで鼻で笑った!?なんたる侮辱!なんたる侮辱!!」


 地団駄したが、お洒落ワンピースとコートに隠れてかろうじて周りにはわからなかった芽依の抵抗にもセルジオは鼻で笑い余裕綽々である。

 ほら、行くぞ!とメディトークに誘導されて歩き出すと、メディトークのような巨体を揺らして歩く幻獣も珍しくない。

 逆に小さな姿の毛玉だったり、列車の形をした玩具が木の足を生やして買い物をしている様子もある。

 上手に値引き交渉をしているらしく3割引にした列車はガッツポーズをして帰っていった。


「………………玩具が値引き交渉」


「なんか言ったか?」


「なんでもないです」


 フルフルと首を振ってから先を歩くメディトークの後を追った。


 どうやら、買い物をする場所は即売会場に今歩いている露店。これは商店街みたいなもののようだ。

 あとは、メディトークが卸先にしている他品目を売り出す店ガーディナー。所謂スーパーである。


『これが大体の一般向け買い付け先だな』


「ふむふむ……ん?教会なんてあるんだ」


『……まあな、シーフォルムっつー教会だ、詳しくは後で教えるからここでは話をすんなよ』


「……わかった」


 なにやら雰囲気が悪くなった。

 セルジオもチラリと周りを見ているからあまり芽依には宜しくない状況なのではなかろうか。


 促されて向かったのは街の外れで、大きく囲われた城壁が見える。

 城壁の中に街があるから街の外れに来たら城壁があるのは当然なのだが。


「ファーリアのほとんどの領はこうやって城壁で区切られている。入場料や制限を掛けたり、夜間に門が閉まり外敵から身を守る為に外壁は厚く作られている」


「転移で入れるんじゃないですか?」


『転移と言っても誰でも出来るわけじゃねぇし、距離の問題もある。なにより外部からの転移防止の魔術が敷かれてるからな、入れねぇよ。外部者は入場の時に滞在札っつーのを渡されるんだが、それがねぇと買い物から何からなんも出来ねぇよ』


「そうなんだ……色々あるんだね」


『なんでもかんでも素通り出来たら世話ないだろ……まあ、高位になりゃ魔術基盤を弄って無理矢理入れたりするんだがなぁ』


「不届き者がいるのかー」


「ここはファーリアでもでかい領だし、比較的豊かだからな。土地を狙うヤツも多いし政治的にも狙われやすいんだ」


「そっか、戦ったりするんだね」


 ファンタジーな世界でキラキラした人外者が周りにいて楽しい事ばかり見ていたけど、それも一部の側面だけなんだ。

 守られた場所から1歩外に出ると殺伐としたものがゴロゴロ転がっている。


「……怖いか」


「怖い……んだと思います」


『大丈夫だ、ちゃんと守るからよ』


「イケメン……」


 蟻にときめく女、芽依。

 まだ戦いの何たるかを知らないが、後に嫌という程巻き込まれるのをこの時はまだ気付いていなかった。



『でだ、街中にいる場合はこの城壁に張られた魔術によって外敵の侵入を抑えているが、外に出たらまた話しは変わってくる』


 壁沿いに歩いていくと、巨大な門が出てきて、四方に連なる門が設置されていた。

 外から来る者は行きたい街や方角によって通る門が変わるらしく、広い領地に迷わず行ける様に転移門を用意している。

 その奥に外へと続く外門があった。

 5人の護衛兵とすぐ隣には巨大な塔があり、衛兵の駐屯地のようになっているみたいだ。

 ここなら緊急時に領主館へと直通で連絡を取れるのだ。


『で、お前が言ってたスライムはこの外門の外にいるんだがな。庭での飼育や買取には買い付けと狩りの2種類がある。お前はなぁ、戦えないから買い付け一択にしてたが……スライムかぁ』


 うーん、と悩むメディトークを見てからセルジオを見ると、タイがずれたのか直しているセルジオが視線に気付いた。


「……なんだ」


「狩り?」


「ああ、ガガディやディなんかは野生化していて群れで生活しているヤツらも多い。買い付けを抑えて自分で狩りに来て飼育する庭持ちも居るが、狩りには実力がないと死ぬからな、お前には無理だ。それに、長期戦になればその分庭の手入れが出来ないのも考えなくてはいけない事だな」


 なるほど、買い付けの金額をギリギリまで減らして売上で黒地経済うはうはになる訳だ。


『ただ買い付けの時みたいな品質保証はされてないから品質はまあまあ……悪い時もあったりな』


「いい事と悪い事もどっちもあるんだね」


 ふむふむ、と内容を覚えている時メディトークに背中を押されて無意識に足が動く。

 向かう方向は外門の方で外に出ようとしているようだ。

 背中を押され素直に歩く芽依をセルジオは後ろから黙って見ていた。





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