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第44話 欲しい材料は自力で採取


 床に頭を付けて土下座し謝ってから1週間が経過した。

 フェンネルあむあむかき氷事件は3人の秘密にして誰にも知られないようにと固く口を閉ざし、フェンネルにはお詫びと口封じに牛乳プリンをケースで差し出すと小躍りして喜んでいた。

 そんな姿ですら綺麗で、服を指先で摘みクルクル回って微笑む麗しき麗人に見えるのだから、美しいは罪である。と芽依は1人腕を組んで頷いていた。


『で、なにがしたいんだ』


「いやねメディさん、私前の即売会の時に見つけたのよ、ゼリーを」


「……ゼリーか」


「そう、ゼリー。ぶどうがあるんだからぶどうゼリー作ろう」


 芽依が作りたいのはゴロゴロとした蜜漬けになっているぶどうを使ったぶどうゼリー。

 しかもクラッシュゼリーと普通のを混ぜたお洒落ゼリーを作りたいのだ。

 しかし、ここでメディトークの表情が陰った。


「……どうしたメディさん」


『……それは無理だな』


「何故に!? お洒落は嫌だった!?」


『そうじゃねぇよ、元々デザートは苦手なんだ』


「あんなに素晴らしい牛乳プリンを作っておいて!?」


 まさかの驚きに搾乳中のガガディの乳を思いっきり握りぶぎゃぁぁぁぁああおん!!と泣かれた。

 優しく賢いガガディは激痛にも関わらず暴れずに黙って立ち尽くしていた。足がプルプルしているが。


「ご、ごめん!ごめんね!」


 慌てて離し撫でるがガガディはプルプルして必死に痛みを逃がしていて、ぶ……ぶぎゃ……と小さく泣いた。


『お前、可哀想だろ……』


「あまりの衝撃にびっくりしちゃって……」


『牛乳プリンは……お前が初めて搾乳して飲んだ時に、この牛乳で作った美味いプリンが食いたいって言ったからだろ』


「っ!…………尊いメディさん」


 バタッと倒れた芽依をチラッとだけ見たメディトークは代わりに搾乳を終わらせて芽依を抱き上げノシノシと歩いていった。


「…………そうかあ、ぶどうゼリーどうしようか。せっかくだから作りたいんだけど、だれか居ないかな」


『ただ作るだけなら工場で出来る事は出来るが、そう手を混んだヤツだとな……場所取るし』


「そうなんだよね、元々ぶどう加工の工場だけどワインに特化させちゃったしなぁ」


 背中に乗っている芽依は空を見上げてぶどうぶどう……と呟いている。

 メディトークは牛乳プリン作成がかなり大変だったららしく、もうやんねぇ!と言い切ったので期待は薄い。


「……私が作ったらブリッブリの固いゼリーになるだけだし」


『料理致命的だもんな』


「……面目無い」


 実は料理はどちらかと言うと苦手な部類の芽依。

 作れなくは無い、ただ美味しくない。

 食べれる、だが美味しくない。

 メディトークに作った唐揚げを無言でタルタルソースまみれにされたくらいに美味くないのだ。

 お母さん、芽依はどこまでも家事が出来ません……と小さく呟いたくらいだ。




『おまえは豊穣と採取量の増加、品質向上で十分だ。あとは触んじゃねぇ』


「…………面目無い」


 再度注意を受けた芽依だったが、どちらにしても沢山実るぶどうの加工にゼリーを作りたいのは変わらず、ゼラチン相当の物を入手する必要があった。


「……………………スライム?」


『ああ』


「…………あの、スライム?よくアニメやゲームに出てくる」


『ソイツがなんだかわからんが、スライムがゼリーを作る材料になるな』


「聞いていい?それって幻獣……?」


『ああ、むしろ幻獣以外にいないだろ』


 不思議そうに聞いてくるメディトークに芽依はあれ?と首を傾げる。

 ここは御伽噺みたいなファンタジーの世界で、妖精や精霊がいて、人の体をしていないのが幻獣で…………。

 敵もいるんだよね?モンスター的な。


「メディさん、スライムってモンスターじゃないの?」


『モンスター?なんだそれ』 


「…………まさかのファンタジーな世界にモンスターが居ないとは」


『お前がいた場所には居たのかよ、そのモンスターってやつ』


「いや!そんなの居たら1日で世界滅亡するよ」


『……そんなすげぇヤツなのか、モンスター』


 ゲームや物語等で出てくるモンスターや魔物、魔獣のイメージが強い芽依と、人間と人外者である精霊、妖精に幻獣しか居ないこの世界しか知らないメディトーク。

 そもそもモンスターという生物を知らないから、1日で世界滅亡させるヤツとかどんな厄災なんだ……と考え込んでいる。

 芽依の言うスライムも分類されるだなんて想像もつかないだろう。


「メディさんや、魅惑のウサギ肉に変わってくれる兎も幻獣なんだよね」


『人型以外は幻獣だ。高位以上は人型とれるの忘れんなよ』


「うむむ……精霊、妖精が羽ある綺麗な外見、人型じゃ無いのが幻獣、あとは普通の人間」


『……まあ、大体そうだな』


 少し考え込んでいる様子ではあるが肯定したメディトークに頷いた。


「ねえメディさん街からでたらモンスター……えーと、なに?獣?なんか襲ってくるヤツ?が居るイメージだったんだけど、そんなのは居ないのかな?子供が1人で街を出ても安全な感じ?」


『……お前、ヤバい事言うな。そうか、知らないってすげぇな、お前1人で外行くなよ』


 はぁぁぁぁ、と深く息を吐き出した。そうか、そこらも知らねぇよな、とブツブツ言うメディトーク。

 もう何を話していて何を言ってないのか分からなくなって来ているのだが、芽依の生活に直結する事を話していて、そういえば遠出とかしてなかったな……と頷く。

 呆れか、はたまた残念な女を見る目か。

 メディトークはやれやれと首を横に振て芽依を見た。


『幻獣ってのはな、俺たちみたいな意識があって言葉で意思疎通出来るヤツらもいれば、獣みたいなヤツらもいる。更に外にいるヤツらはな野生化っつってよ凶暴化すんだわ』


「凶暴化……」


『よし。お前明日は課外授業な』


 芽依をピッと指さして言ったのだが、初の外出に浮かれだした芽依はぴょこぴょことジャンプした。メディトークの背中の上で。


「外出!外出!」


『課外授業。でも服装は普段着でいいぞ、明日は街とかの散策と買い物だ』


「買い物!!酒!?」


『ちげぇ』


「なんでもいい、楽しみだね」 


 ここに来て数ヶ月、既に季節は秋を通り過ぎ冬になっていた。

 ひとつの季節を通り過ぎた期間生活をしていたのに、芽依は直売所以外の外出を一切していない。

 これに関して芽依から外出の話が無かったわけでは無いのだが、まだこの世界に慣れない芽依を守る為にとアリステアから止められていた。

 だが、本当の理由は芽依が現れてからの2ヶ月は収穫量が激減されると言われた時期でもあったので芽依には庭での収穫に従事して欲しい気持ちが1番に強かったのだ。

 それについても、アリステアは芽依の移民の民への態度の矯正を見て芽依の意思を蔑ろにする行為だったと恥じた。


 どんな相手にも誠意を持たなくては、私は領主で守る立場なのだから。


 そう謝りながらも言ってくれたアリステアに芽依は嬉しくなって笑った。

 別の世界の人で人外者の伴侶になる以前に感情のある人だと言うことを忘れては駄目だな、と等価交換で繋がった人ならではの認識の違いやその常識を改めてくれた柔軟な領主がいる場所に来れて良かった。






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