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第41話 私の大好きな栽培と悲しい禁酒


 定例会議から2週間が経過した。

 芽依は自分の庭にあるものを増やす決意をしてドキドキしながらセイシルリードの前に佇んでいる。


「では、こちらを購入でよろしいですね」


 相変わらずなダンディさ加減に見惚れながらも芽依は頷き肯定した。

 実は、今ここにメディトークはいない。

 芽依1人でセイシルリードの扉を開けれないのだが、1人残される芽依を心配して……いや、牛乳プリンを求めてやってきたフェンネルに開けてもらいこの交渉をしてるのだ。


「あとこちらはこちらですね。庭と関係の無いものだから割引が効かないので少し値が張りますが良いですかな?」


「大丈夫です!」


「はい、では設置します。近くがいいですよね?」


「はい!!」


 芽依はワクワクと建物が現れるのを振り向き待っていた。

 そして現れた建物と新たに増えた庭の作物にニヤニヤとしてしまう。

 これは、メディトークがお土産に持ってきてくれてから決めていたのだ。絶対に作るって。 


「っきたー!!どうしよう、これで作れる!念願のーー!!ワイン!!」


 まるでぶどう狩りが出来るほどの広さの露地栽培に、その隣には葡萄を加工する工場が出来た。

 葡萄栽培は庭の仕事内だが、ワイン工場は庭にあるものではない。

 それを相談しセイシルリードになんとか融通してもらって自動で加工できる工場を探してもらった。

 それはもう、凄く高くて高くて手が震える金額なのだが、売上を投げうってでも自分で作る極上のワイン製造をしたかったのだ。


「………………メディさん、怒るかなぁ」


「おやおや」


「なに、言ってないの?」


「独断と偏見で購入しました……」


「……その割には高い買い物しちゃったねぇ」


「へへ……」


 遠い目をしながら笑う芽依に、まあ嫌いじゃないけどねとフェンネルがウィンクする。

 それに気を取り直してセイシルリードとバイバイした芽依はさっそく葡萄を見に行った。

 まだ実をつけていない葡萄を早く大きくなぁれ!とワクワクしてしまう。


「そして美味しいワインになぁれ」


「欲望ダダ漏れだねー」


「出来たらワインパーティしようね」


 へへっ!と笑った芽依にうん!と頷く真っ白な妖精だったが、すぐに表情を引きしめた。

 ん?と首を傾げた時こめかみに走る鋭い痛みに悲鳴を上げた。


「きゃぁぁぁあああ!いったぁぁぁぁ!!」


『お、ま、え、は、なぁぁぁにを勝手に買いやがった!?俺が売り歩いてる間に何をしてやがる!!フェンネル!勝手に扉を開けやがったな!!煩悩のままに買いまくるだろうが!』


 後ろにいる為わざわざ文字を芽依の前まで動かしギザギザとした文字で表現するメディトークの怒りにビクッ!と飛び上がる。

 沢山ある足の1本がフェンネルの後頭部をパシンと叩き、いた!と叫んでいた。


「ごめんなさい!でもメディさんが買ってくれた葡萄が美味しすぎて!それでお酒作ったら美味しくて止まらなくて良い気持ちに酔えるんじゃないかと思ってー!ほら!人手不足を補える素敵な工場も探してもらったんだよ!!」


『阿呆が!!それは後からでも出来るだろ!!なんぼ金を使いやがった!!』


「…………それは、その……ですね……嗜む程度に……」


『なにを嗜むと……?』


「ひぃ!!!」


 既に共同経営者のようになっているメディトークの怒りに触れた芽依は必死に静まるように謝り尽くすのだがそれでも静まる気配は無い。

 ひぃん!と落ち込む芽依と、その横に仲良く正座して怒られるフェンネルは小さく僕の方が位高いのに……と呟くがメディトークはそれがなんだ?と怒り狂っている。


『……今日から暫くデザートと酒はなしだ』


「そ……そんな」


「死んじゃう……メディさん私死んじゃうよ……」


『反省をしろ』


 ノシノシと立ち去り残りの金額を確認するがその少なさにビギ!と青筋を出すメディトークと、咽び泣く2人がたまたまやって来たセルジオに庭で発見されたのだが、その理由を知り頭痛がする……とこめかみを揉みこんでいた。


 こうして怒られ禁酒命令を受けた芽依ではあったが、奇しくも希望の作物と工場を手に入れ泣きながら手入れを行っていた。

 嬉しさはあるのだが、怒り狂うメディトークからの連絡を受けたアリステアによって芽依は2週間の禁酒を言い渡され、部屋でも飲めない芽依は泣きながらあんず水を飲み気を紛らわしている。


「杏露酒にかろうじて……いや、だめだ美味しいあんず水だ……」


 さめざめと泣きながら早く2週間よ過ぎろと思っている芽依だが、嬉しい事もあった。


「もう即売会に行ってもいいぞ、待たせて済まなかったな」


 だいぶ落ち着いてきた移民の民問題に芽依はやっと即売会参加許可が降りた。

 ホッと安堵した芽依だったが、それを伝えたメディトークのギラリとした目に萎縮する。


『……ふん、まあ監視出来るだけいいか』


「か……監視」


 ううう……と泣きそうになりながらも既に慣れてきた鳥の首を絞め皮を履いだ。

 くっ!監視……監視……と呟きながらも容赦なくつぶらな瞳の鳥の首を絞める。


「…………君は照り焼きになろうか」


 はぁ、と息を吐き出しながらも美味しい料理を考えているとセルジオが芽依に会いに来た。


「……あ、セルジオさん」


「……随分と逞しくなったものだな」


「え?筋肉つきました?」


「そうじゃない」


 んん?と首を傾げていると、今締めたばかりの鳥を指さした。

 首が有り得ない方向に曲がっていて、芽依のエプロンには返り血が着いているのだが既に日常の一コマになっている。

 最初はキャーキャー叫びメディトークに鼻で笑われ皮の剥ぎ方が甘いと言われていたのも遠い記憶だ。


「それを使いたいから譲ってくれないか」


「え?いいですけど……」


「対価はこの間定例会議で出た赤ワインだ」


「喜んで!!!」


『禁酒だぞ』


「……………………よろこんでー……」


 メディさんったらつねない……と呟きながらもダンっ!と首をはねる芽依を光の無い目でセルジオは見ていた。

 袋に入れて頭はいります?と聞くがいらないらしい。

 芽依にはわからないが、頭を珍味として食べる人外者は少なくないらしい。全てまるっと食べれて破棄の少ない優秀な鳥さんなのである。


「はいどうぞ。後でお酒お願いします。お酒お願いします」


「2回言うな」


「大事ですから」


 あれは美味しかった……どこで売ってるんだろう探しに行きたい……と呟きながら元気に走り回る鳥の首を絞める為に立ち上がり追いかけた。

 芽依は恍惚と酒を思い浮かべながらうふふ……と笑い鳥を追いかけている。

 そんなヤバい様子の芽依に鳥も何かを感じとったのだろう全速力で逃げ他の鳥を押しやり囮にするという小憎たらしい事をしていて、セルジオは無言でメディトークを見た。


「……あれはなんだ」


『鳥だな』


「鳥はあんなことはしないぞ」


『……アイツが手をかけたヤツは変な成長をしやがる……味は抜群にいいんだがな』


 牛を見ると何故か水浴びをしながら身嗜みを整えている芽依より女子力が高い牡牛がいた。


「…………俺は何も見ていない」


『それが懸命だな』


 アイツは本当に意味がわからん……と呟きながら庭を後にしたセルジオにメディトークはあの人も苦労してるな、と哀れみを浮かべていた。


『なんであんなヤツに引っかかったんだかな、あんな最高位精霊が』


 うへへへ、と笑いながら鳥の首根っこを押さえつけて確保している逞しい芽依を見てやれやれと頭を振った。




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