メディトークとの相談から1週間後、準備が整った為、朝食を取っているアリステアに会いに行った。
そこには、セルジオとシャルドネ、さらに見た事の無い女性の妖精が食卓を囲んでいる。
「おはようメイ、一緒に食べないか?」
「ありがとうございます、食べます」
セルジオが隣の椅子を引き座るよう促すと、芽依はありがたくそこに座った。
そんな2人を女性はニコニコと微笑んで見ている。
「メイ、こちらは春雪の妖精のブランシェットだ。こちらはメイ」
「はじめまして」
「はい、はじめまして可愛らしいお嬢さんね」
笑う姿は見た目の白さも相まってとても上品、何より透けて輝く真っ白な羽が素晴らしく美しい。
薄い水色から白に変わるグラデーションの緩く波打つ髪をシニヨンに結んでいる姿がまた美しいのだ。
ブランシェットはとても上品なマダムで、セイシルリードと見た目年齢は余り変わらないように見える。
「ブランシェットさんはとてもお綺麗ですね」
「あら、こんなおばあちゃんにそう言ってくるなんて、なんだか照れちゃうわ」
はにかんで微笑んだブランシェットの可愛らしいおばあちゃん感に芽依は瞳を細めて何故か満面の笑顔になってしまう。
そんな芽依の横に座るセルジオのお母さん感もなかなかなもので、ポーっとしている芽依に小さなパン2つにサラダ、ウィンナーにスクランブルエッグにはケチャップを。
こんがり焼いたアツアツの厚焼きベーコンを惜しげも無く2枚乗せた。
「ミルクでいいな?」
「あ、はーい」
「……あらあらまぁまぁ。セルジオ、まるで親鳥みたいね」
「やめてくれ」
「…………親鳥なら、今は油淋鶏がいい……あ、今日の昼油淋鶏頼もう」
「お前の食い気はどうにかならないのか」
そう言われたが、芽依は返事を返さず特濃ミルクを口に含んだ。
芽依の牧場から買い取られている特濃ミルクは毎朝の共になっていて芽依だけじゃなくアリステアも必ず1杯は飲んでいるようだ。
発注は既に定期に運ばれるようになっていて毎日1回、朝に新鮮な特濃ミルクと牛乳が下ろされている。
その他の物は料理によって追加注文され一緒に納品されるのだ。
納品作業は一手にメディトークが請け負っているのだが、勿論領主館だけではない。
1人でどうやっているのか聞いたが、それについては大丈夫だ。と男気溢れる笑みを浮かべて言ったので頼もしい相棒に任せることにしている。
「んん、たまらなく美味しい」
「口にケチャップ付いてるぞ」
「なんと!私はドジっ子ではない!」
用意されているナプキンで口元を拭き、また食事に戻った芽依は朝から美味しい朝食に満足しそうになった時なんの話しをする為に来たのかを思い出した。
「そうだった、アリステア様」
「ん?なんだ?」
「今日はお仕事で直売に行ってきます。メディさんも一緒です」
アリステアは顔を上げ芽依を見るのだが、その表情は優れない。
フォークを置き何かを言おうとした時、セルジオが先に話し出した。
「駄目だ。前に言っただろ、メディトークだけに行かせろ」
「セルジオさん、今日からの直売は何としても行かなくてはなんですよ!」
「…………何を企んでいる」
「そんな企んでるわけないじゃないですか」
「目が泳いでるぞ……こら、食って誤魔化すな」
2人で攻防戦をしていると、目を丸くしているアリステアがポツリと呟いた。
「……随分、仲良くなっているのだな」
「セルジオさんですか?仲良くしてくれますよ、お母さんみたいな包容力です」
「馬鹿言うな」
はぁ、と溜息をつきつつもおかわりの特濃ミルクを注いでいた。
その甲斐甲斐しい姿にシャルドネは意味深な表情をし、ブランシェットはあらあらと笑っている。
「アリステア様、これから2日に1回のペースで行く予定です」
「待て待て、その安全面をだな」
「駄目だと言っただろう……今日は用事があるから俺は付き添えないし、2日に1回のペースは早すぎる」
困惑するアリステアに、呆れているセルジオ。
だが芽依だって引けないのだ、箱庭を作る為に。
「では、私が付き添いしましょうか?なにやら貴方にとって大切な事のようですからね」
「シャルドネさん、いいんですか?」
「駄目だ」
前屈みになり掛けた芽依の腕をセルジオが掴み下げさせると、アリステア、シャルドネにブランシェットの目が見開かれる。
「まぁ、セルジオはお嬢さんを気に入ったの?」
「まあな」
迷いなく答えたセルジオに、ブランシェットはとても嬉しそうに笑って頷き芽依を見た。
「お嬢さん、今日の同行者には私が行ってもいいかしら?なんだかお嬢さんとは良い御縁がありそうだわ。勿論対価なんていらないわ。頼むのは私だから、私が払わなくちゃかしら」
お茶目に笑うブランシェットに芽依は輝かんばかりの笑みを浮かべて真っ白な美しい妖精を見た。
「セルジオさん、ブランシェットさんが綺麗で目が潰れそうです」
「潰れたら今日は行けないな、良かったじゃないか」
ちょっと怒っている様子のセルジオに、芽依は体を少しだけ寄せて肘あたりの服をちょっとだけつまむ。
「何怒ってるんですか、なんかお土産買ってくるから怒んないで下さいよ」
クイックイッとすると、紫の瞳が眼鏡越しに真っ直ぐ射抜く。
無言で見つめ合う2人にアリステアは困ったように笑ってからブランシェットを見て頭を下げた。
「ブランシェット、メイを頼めるだろうか」
「大丈夫ですよ、他の妖精や精霊を近付かせないようにしますからね」
微笑んでいるブランシェットにセルジオは息を吐き出して芽依を睨みつけ言った。
「……いいか、メディトークとブランシェットから離れるなよ。顔を隠す布があるからそれを外さずにいるように」
「はーい」
アリステアからの許可ももらい芽依はご機嫌に返事をして朝食の場を離れていった。
「それにしてもセルジオが世話をしている姿を見るとは思いませんでしたよ。あの方の何に惹かれたのですか?」
「知るか」
「いいじゃないですか教えてくれても、同僚なのですし」
楽しそうに笑って口直しに水を飲むシャルドネに眉にしわを寄せて舌打ちする。
「あらあら、朝から喧嘩はダメよ?空気が悪くなるわ」
「喧嘩だなんて、楽しく会話をしているだけですよブランシェット」
「そうかしら?シャルドネは人のお気に入りは気になってしまう妖精ですもの。セルジオが警戒するのも頷けるわよ、ねえ?」
「参りましたね、そんな事ないんですが」
「コイツはズル賢い妖精だからな」
「おや、セルジオにまで不当な評価をされてしまいました。私は早めに退散した方がいいですね。アリステア、また後ほど」
にこやかに笑み席を立ったシャルドネはアリステアに挨拶をしてから離れていった。
挨拶を返したアリステアは特にセルジオとシャルドネが居る時に始まるチクチクとした言い合いに僻僻してしまう。
「あ、ああ……はぁ、まったく。……そなた達ときたら集まれば言い争いをして」
「あなたも相変わらずでしてよ、アリステア。頬に付いていますわ」
「むっ!?」
ナプキンで慌てて口元を吹くアリステアの頬はほのかに赤く染っていた。
「…………それにしても、伴侶のいる花嫁を気に入ってあんなに甲斐甲斐しく……随分変わったのねぇセルジオ。……伴侶が帰ってきたら大変だわ、セルジオに気になる子が出来るのはとてもいい事なのに、なかなか上手くいかないものね」