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第26話 箱庭システム


「と言うことで、野菜を作ります!」


『どういうこった』


 朝イチに芽依はメディトークまで走って行きババーンと効果音がなりそうな程胸をそらせて宣言すると、メディトークはバケツに入った水を持ったまま芽依を見た。

 メディトークは同時に6つのバケツを持っていて水を運ぶのは3往復目だ。

 魔術でも勿論できるが、手をかければかけるほど品質向上するようで出来るだけ手作業を心掛けている。


「セルジオさんに相談した結果、料理用施設は探してくれるみたい!なので、野菜とかを準備しておけとの事でした」


『…………セルジオに頼んだのか、大丈夫だったのかよ、血を寄越せとか言われなかったのか?』


「話し合いの結果穏便にいったよ」


『…………………………』


 疑いの眼差しを向けるメディトークのバケツをひとつ持ち、芽依も本日の仕事に取り掛かった。




『牧場の方は良さそうだ軌道に乗った』


「チーズや牛乳、ヨーグルトも大丈夫そうだね。卵も数が安定したし」


 ガガディから搾乳する特濃ミルクも安定した数が供給出来るようになり、追加ガガディも定期的に購入している。

 すでに何体かのガガディは美味しいお肉として出荷されていて高額買取されている。

 通常のディは多く飼育していて、牛乳を搾乳させてくれる。

 繁殖用に買った牡牛と良い感じに、先日仔牛が生まれた所だ。

 数を増やす為に育てるのだが、安定したら仔牛の柔らかな肉も美味しく頂こうと残忍な人間は今から涎を拭いとっている。


 豚は定期的に買い付け育て、売るルーティンが出来ていて、そろそろ新しい肉、羊にも手を出したいと思っていた。


 鶏肉は素晴らしい品質を維持できるようになり、卵の質も上がった。

 高級卵になったのだが通常卵も欲しいとの声も多く、今では鳥の飼育は2種類になる様にわけて面倒を見ている手間をかけていた。


「ここまで上手くいっているんですけど、人手不足で農業にまで手が回らない状態なんです。でも、どうしても農業したいんです。なんかいい方法ありますか?」


 芽依はある妖精に相談することにした。

 個人的な手助けには対価が掛かるが、中にはそれが免除される場合がある。

 その定義はいまいちわからないのだが、仕事に対して専門家の意見を聞く事は免除されるらしく、今回はこの妖精に聞くのが一番良いとメディトークに言われたのだ。


 いつもの買い付け先、白髪とグレーの髪が混ざったロマンスグレーな男性は朗らかに笑った。


「私としては農業に興味を持ってもらって嬉しいですよ。世界的に収穫量にバラツキがありますから、安定供給のできる場所は貴重ですからね」


 あの空間にノックして現れる買い付け先の男性はセイシルリードといい、売買を司る妖精らしい。

 様々な買い付けに対応してくれるセイシルリードはいつも朗らかに笑っている。

 今までも様々な相談に乗ってもらい牧場経営が軌道に乗ったのも彼の協力なくして実現は無かっただろう。


「値が張りますが、庭をグレードアップしましょうか」


「グレード、ですか?」 


「あの牧場を何故庭と呼ぶか知っていますか?」


 また何か新しいパンフレットを取りだしたセイシルリードは、複数ある見本の庭を見せてくれた。

 どれも物凄い広さで牧場、農園、更に果樹園やキノコ栽培まで幅広く扱っている。


「こちらのほとんどの庭は皆1人で経営していて、魔術を使っている人も居ますが、皆短時間で世話をしていますよ」


「え!?」


『箱庭システムか』


「そうです」


『だがコイツはべらぼうに費用がかかんだよな』


「え、今の収入内で出来る?」


『無理だな』


 今芽依達の牧場は軌道にのり、後ろ盾であるアリステアの資金援助は打ち切りとなっていた。

 なので、完全な個人経営となった芽依達はお金と相談の購入になるのだ。


『確かに箱庭は少人数経営用の救済システムみてぇなもんだから俺ら2人でも十分に回せるし、この規模だって訳ねぇ』


 パンフレットに乗っている一番大きな物を指さすと、目を見開いてそれを凝視した。


『だがなぁ、高ぇんだよ。大体は支援者なんかが集まって金をかき集め、好きな農園主に提供するもんだ。個人で買うもんじゃねぇ。それに提供した側、つまり支援者がある程度首を突っ込んでくる奴もいる。そこらは当たりはずれの問題だがな』


「…………うーん、そもそも箱庭ってなんですか?」


 芽依はセイシルリードを見ると、おや、と目を丸くした。


「そうでした、詳しい説明はまだでしたね」


 いや、うっかり。と茶目っ気たっぷりに笑うセイシルリードに和むー、と目を細めるが箱庭の説明に目を丸くする。


「箱庭というのはですね」 


 箱庭とは1人又は少人数で牧場、農園経営をする人向けのもので、牧場や農園が庭と呼ばれる所以だった。

 この場所を小さな箱庭に見立てた魔道具に擬似的に収納する事によって、その魔道具を操作して経営が出来るのだ。

 すなわち、箱庭ゲームである。

 今までのようにこの場に来る事も勿論可能で手掛けただけ品質向上するのは変わらないが、箱庭を使う事で品質向上はしないが一括管理が出来るのだ。

 これを1人、または少人数で持ち寄り管理をする事によって広大な場所に出来上がった農園や牧場、果樹園を作れるのだ。

 さらに、箱庭のグレードによってオプションが違うらしい。


「…………すっごいやりたい」


 スマホゲームの特に箱庭ゲームが大好きだった芽依はキラキラと輝かせる目をメディトークに向けた。

 ブラック企業に就職した為箱庭ゲームから離れてしまったが、好きな物は好きなんだ。


『……金ねぇぞ』


 しかし、メディトークは無常にも現実的な問題により却下した。


「お嬢さん、そこで提案なんですがね?しばらく時間が掛かると思いますが、出資者を見つけてみては如何でしょうか。お嬢さんたちの商品はとても評判がいいから、そのうち複数の出資者が現れます。その時に農園とかもしたいけど2人では手が回らないんです、と会話の中にそれとなく言ってみたらいいかもしれませんよ」


 パチンとウィンクして言うロマンスグレーな素敵おじ様にクラリと来た芽依はアリだよね、とメディトークを見ると、意地悪い笑みを浮かべていた。



 セイシルリードの話を聞いた後メディトークと共にどうするか、悪どい顔で味玉片手に話を詰める。


「よし、頑張っていいカモ……出資者を見つけよう」


『いいか、相手はアロマオイルだ。お前は餌だが変な奴を引き寄せるなよ』


「メディさんも頑張ってよメディさんの力に掛かってるんだからね」


 ニヤニヤ笑う芽依とニヒルに笑うメディトークは箱庭を手に入れる為にそれはそれは楽しそうに笑った。


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