セルジオが案内したのは領主館にある自室だったようで、モノトーンに揃えられた室内にほんのりとオレンジ色の光が灯っている雰囲気のある部屋だった。
「……で、相談はなんだ」
カチャリとグラスの音がなり、テーブルにワインやチーズ、クラッカーやジャムといった軽くつまめるものを数個出すセルジオ。
あまり出しすぎても夕食が食べれなくなるというセルジオの配慮らしいが、芽依の満腹指数を完璧に把握している様子のセルジオにもう驚く事は少なくなった。
「パリッパリ、うま」
「…………そうか、良かったな」
相談より目の前の酒に釘付けになっている相変わらずな芽依に息を吐き出す。
「そうだ、メディさんにも相談中なんですけど、ちょっと試したい事があって、いい案は無いか聞きたいんです」
眉を上げワインを飲みながら続きを促すセルジオに芽依はチーズを取りながら口を開いた。
「販売方法なんですけど、鶏肉も今まで通りメディさんにおろしてもらって売るつもりなんですけど収穫量で価格変動があるらしいじゃないですか」
「まぁ、そうだな」
「それでできたら低価格でコンスタントに全て売りきりたいと思っています。そこで、私の元いた場所でやってた直売をしたいなと思いまして。作ったものを自分で価格設定して直売所で売る。数に限りがありますから、沢山下ろすよりもいいかなと」
「……悪くないな、その直売の場所や方法、例えば毎日やるのか、数日に1回なのか、何時にするのか誰が売るのか。市場との金額も考えろよ、安くしすぎるとお前の場所にばかりきて市場からやっかみが来るぞ。直売所はいい場所があるが、売りに行くならお前は極力行くなよ、わかっていると思うがな」
「わかりました。あと、今は現実的ではないとメディさんには言われたんですが、惣菜販売がしたいんです」
「…………惣菜?」
「やっぱり難しいですか?」
「そうだな、メディトークはなんて言ってた?」
「やっぱり高い価格がネックだって。あと、家で作る事が多いって聞きました」
「ああ、だがそれは家庭を持つ奴が多い。節約重視になるからな。中には自炊が苦手で惣菜中心になるやつも少なくない。まったく需要が無いわけじゃないが造り手はいるのか?」
「……………………そこなんですよね、メディさんはお料理上手だけど今も沢山の仕事してくれてて頼めないし、何より今作れるのは肉と卵くらいで野菜が無いんですよ」
「野菜は作ってないのか?」
「そのうち作りたいんですけど、今は手一杯です」
椅子の背もたれに寄り掛かり足を組んだセルジオは、頬杖をつき考える。
「……そうだな、お前の所で買える機材はどんな物がある?」
「パンフレットあります、持ってきますから待っててください」
「待て、行かなくていい」
セルジオは立ち上がり芽依の肩に手を置くと、ふわりと暖かな風が足元から吹き上げ髪が揺らいた。
そして瞬きをした瞬間、そこは芽依部屋になっている。
「…………は」
「間抜けな顔をしているぞ」
「え……あれ」
「パンフレットはこれか?」
机の上にあるパンフレットを捲り中を見るセルジオは片足に重心を掛けて右手を腰に当て、左手の人差し指と中指でページを捲っている。
「……うわぁ、絵になる」
「は?」
「なんでもないです」
チラッと見られ首を横に振る芽依にセルジオは3冊あるパンフレットを持ち、また芽依の肩に手を乗せる。
すると、また瞬きの間に芽依はセルジオの部屋へ戻ってきていた。
あまりにも一瞬なことに芽依はセルジオの部屋の中を確認してしまった。
2人の部屋はそれなりに遠いのだ。
「凄い、何したんです?」
「転移だ、お前もしてるだろ庭に」
「あの扉」
「あれは扉の転移陣に行き先を指定した陣を固定しているんだ。指定した場所にしか行けないが、向こうにもこちらに帰る相互の陣が描かれているから行き来が可能になっている。魔術熟練度の低いやつでも安全に移動出来る手段だな」
「なるほど、魔術熟練度……」
ぐぬぬ、と眉を寄せる芽依に鼻で笑うセルジオ。
そしてパンフレットを捲りあたらめて中を確認するセルジオをお酒片手に見つめる。
「…………なるほどな、製造などの施設が中心か。お前が望んでいる物は料理を作る為の場所と人員だろ。あとは販売経路か……売るにしてもそれを求めていない奴に販売しても買わないだろうしな。直売では肉や卵を買いに来るが、惣菜を何処まで求められるかはまだ未知数だな」
思っていた通りにセルジオは問題に向き合ってくれている。
頬杖を着きながら組んだ足の上に広げたパンフレットを見るセルジオは、機材から野菜などの農業ページを開いた。
「やる気があるなら料理を作る施設は紹介してやる。施設の費用は実費だから死ぬ気で稼げば賄えるだろうが、最初から上手くいくとは考えるなよ」
「…………ありがとうセルジオさん、また相談していいですか」
「ああ、酒を飲む時間にでも聞いてやる……まずは足りない食材の確保をどうにかしろ、準備はそこからだ」
「了解しました!……ことろでこのワイン美味しいですね、いい渋みがあって」
「………………そうだな」
呆れながらグラスの中でワインをくるりと回したセルジオはゆっくりと赤黒い液体を舌で楽しんだ。
「そういえばセルジオさん、私の部屋いつも綺麗なんですけどなんか知ってます?」
「お前が庭に行ってる間に俺が掃除している」
「セルジオさんお片付けしてくれてたんですか?」
「しないとガウステラが来るだろう。俺の部屋をアイツらに荒らされるわけにはいかないからな……何を拝んでる」
「ありがとうございますお母様」
「…………母親にはならんぞ」