目次
ブックマーク
応援する
いいね!
コメント
シェア
通報
第23話 混乱のち唐揚げ


 メディトークの話を聞いた芽依は自分がまさか食べる為の獲物になるとわかりゾクリと身体を震わせた。

 セルジオは精霊だしシャルドネは妖精だから疑問や質問を聞くことははばかれるし、不安にかられ相談したくても人間には知られてはいけない内容だからとアリステアに話す事も出来ない。


 芽依はメディトークから話を聞いてから何を信じればいいか分からなくなっていた。

 あんなに細かく教えてくれていたセルジオは一切対価を請求しない。

 それはなんでだろう、どうして優しくしてくれるのだろう。

 知らない世界で優しくしてくれた人は芽依にとって極わずかであり、セルジオはその筆頭だ。

 シャルドネだって、積極的に話はしないが会ったら世間話はするし優しく微笑んでくれる。

 それが嘘なのだろうか、全ては私を食事として見ているからなのだろうか。


「……もうなんだか、わからないな」


 優しくガガディの背に櫛を入れて手入れをする芽依は、グルグルと考えていた。

 上手く自分の中で消化出来なく体調が悪くなっている気がする。

 明らかに気落ちしている芽依を気にしたセルジオが、1日の終わりに部屋にココアを持ってきてくれた日は嬉しいやら不安やらで、喰うためなのか?と邪推してしまった。


 そんな日々を数日過ごしていると、メディトークが手に何かを掴み現れた。


『おい、食いどきだぞ』


「わーお、ぐろーい」


 絞めた鳥の首を掴みウキウキで言ってきたメディトークに返り血が掛かっている。

 しかし、本人はとても満足そうだ。

 2人で世話し可愛がった鳥が今にも唐揚げにされようとしている。


「…………ああ、そうか。わかった」


『どうした?』


「今私たちがしてる事と、精霊や妖精とかがしてる事は同じなんだね。世話をして信頼させ近づきいっぱい食べさせて肥えさせて……そして唐揚げ」


『精霊がするのは唐揚げじゃねーけどな』


「じゃあ、私は美味しい所だけ貰う事にする。いっぱい来たらいいよ。貢ぎ物持って来て私の前に来るといい。タダで唐揚げにはならないよ。だって私は食べる側だからね!精霊でも妖精でもなんでも来てみろ!酒の肴にしてやるからな!!」


 よし、すっきりしたー!と両手を上げてメディトークが住むには小さめな家に向かっていく芽依を見る。

 その小さな体は最初の時のようなハツラツさが戻っていて、メディトークはハハッ!と声を出して笑った。


『精霊を喰う、か。そんなん言うのはお前だけだぞ。そうだな、お前はいつまでもそうやって楽しそうに笑って酒のために生きればいい。そんなお前との時間の為に俺が守ってやるからよ』


「メディさーーん!早く来てー!活きのいい鳥さんの唐揚げ食べようよー!!」


『おー、今行くから待ってろ』


 ノシノシと足音を立てて鳥を片手に歩くメディトークはなんの味付けにしようかと料理法を考えていた。






 じゅわわわわわわわ…………

 黄金色の油の中に味付けされた1口大の肉の塊が入っていってはクルクルと踊っている。

 高音に温められた油はキラリと反射して光っていた。

 この油はベントーレと呼ばれる丸くフワフワしたピンクの毛玉生物な幻獣が毎日小さな手で作る最高級品質な油らしく、前日の鳥の様子を見たメディトークがいそいそと買いに行ってきたらしい。

 ここから乳製品や卵以外の商品の誕生である。


「メディさん、出荷はいいんですか?食べちゃっていいんですか?……いい匂い、ジュウジュウ食欲をそそる音に涎が止まらんよぉ」


『口拭け。まずは試食して品質確認からだ、いつもしてるだろーが』


「楽しみすぎて吹っ飛んでた」


 揚げたての肉をバットに上げたメディトークの隣でじっと見ているが、2度揚げだから待てとまだお許しはでない。

 見るからにカリッカリな唐揚げに食テロ……と呟いた芽依はすぐにお皿や箸の用意をすると、メディトークに言われ冷蔵庫を開ける。


「っあああああぁぁぁ!!お酒さまぁあ!こんな所に隠れていらっしゃったんですねぇぇぇ!!」


 冷蔵庫の前に座り込み震える手でお酒が入った瓶を握りしめると、キンキンに冷えている。


『ぬるくなるから2本だけにしろよ』


 全て揚げ終わったメディトークは栓抜きと冷凍庫から冷えたグラスを2個取り出し、それを見た芽依はいそいそと唐揚げが乗ってるテーブルに行ってワクワクと栓抜きで開けられるビール瓶を眺めていた。


「うわわわわ!たまらん!」


 極限まで冷えて曇っているグラスに冷えたお酒が注がれ小麦色の液体の上に真っ白な泡が溢れるギリギリまでくると瓶は離れていった。


「………………まさか、ビール?」


『これはエピリだ、飲んでみろ』


「……どうしよう、美味しすぎる……」


 味が正しくビールだった。

 あのこちらに来る時に飲もうとしていた缶ビールよりも味わい深い瓶ビールの懐かしい香りと味に芽依はホロリと涙を流した。


『……どうした』


「大好きなお酒の味がする」


『そうか。これからもコイツは何時でも飲めるからよ、笑って飲もうや』


「……うん!」


 涙を拭いもう一度ぐいっ!と飲む芽依を見るメディトークは口にコップを持っていきながらニヤリと満足そうに笑った。


『唐揚げも食えよ』


「うまぁ!……たまらん、唐揚げにビールとか神か」


 無事胃袋を掴まれた芽依は素晴らしいメディトークの昼食に舌鼓を打ったのだった。




「と言うことで、出荷準備が出来た鶏肉で作ったメディさん作の唐揚げです。もも肉とムネ肉の2種類」


 夕食の食卓にドドーンと乗った2種類の唐揚げの量にアリステアとセルジオ、シャルドネの手が止まった。


「これはこれは、凄い量ですね」


「試食や味付け、柔らかさなんかの試作で大量に作っちゃいまして。これも味が2種類ずつありますよ」


「そうか、鶏肉が出荷出来そうなのか」


 アリステアのホッとしたような様子に芽依は首を傾げながらも頷く。


「そうですね、毎日沢山は数的に難しいんだけど、雌鳥を追加しながらお安め雄鳥も多量買い付けして飼育中なので後々数増える予定です。品質も良いみたいでメディさんのお墨付きですよ!」


 美味しいから食べてみてくだかい、と唐揚げをすすめる芽依にセルジオは箸を伸ばした。


「……ほぉ、美味いな。味付けも中々だ」


 そうしてまた料理評論家となったセルジオは全ての味を1つずつ味見してはスパイスや揚げ方なども考察しているのだが、セルジオは料理を作るのだろうか?と首を傾げた。



コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?