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第21話 教育には時間と根気が必要です


『じゃあ、やるぞ』


「はい」


 芽依とメディトークは午前の仕事を終わらせ食卓を囲みながらお勉強を開始した。

 少し広めのテーブルに出されたパンとジャム各種に野菜がクタクタに煮込まれたスープを見て、どれから食べようかと思案する。


『まず、知らないといけねぇのから教えていく。人間、妖精、精霊、幻獣が居るのは知ってるな?ここいらから説明するか』


 器用にパンを持ち半分にちぎるメディトークは、イチゴジャムをスプーンで取るメディトークは自信作だとニヤリと笑った。

 たっぷり付ける様子を見る限り、甘党なのだろうか。


『まずは人間からだ。お前に1番近い存在の人間は統治などに力を発揮しやすい。だが純粋な力では人外者には到底及ばず、魔術の力を伸ばし対抗出来るようになったが、それも全員ではない。これが人間の特性だ』


「まぁ、理解できる。メディさん、私の場所では領主とか居なかったから見当違いな事言ったらすぐに教えてね」


『領主がいない……?』


「うーん、市議?とかになるのかな?いるけど正直私興味なくて全然わかんない」


『興味くらい持てよ、自分の住んでる場所じゃねぇか……』


 芽依も同じくパンをちぎり、イチゴジャムを付けてパクリと口に入れる。

 甘いイチゴジャムが口いっぱい広がり頬が落ちそうだ。


『次に精霊だな。精霊は全部で6属性いて、光、闇、火、風、土、水がある』


「あ、セルジオ様は闇なんだよね?」


『そう、闇の最高位精霊』


「最高位」


 1個食べ終わったパンの次はスープだと、器用に器を持ち口に運んでいる。

 見慣れたが、未だに巨大蟻の食事風景に驚きすぎて顎が外れそうになる。


『精霊、妖精、幻獣全てに位があんだ。強さだけでなく、その季節や天気なんかで強さが変わるヤツらも居るけど、基本的には下位、中位、上位、最高位と位付けられて、上に行けば行くほど数は少ない』


「え、本当にすごい人だったんだセルジオ様」


『精霊な』


「精霊ね、精霊。メディさんは?」


『俺は中位』


「そんなメディさんも好き」


 芽依も食べ終わりスープを飲む。

 コンソメみたいな味付けが味わい深く、はふぅ……と息を吐き出した。


『位に関係なく人格はそれぞれだ。付け込まれないように気を付けろよ』


「つけ込まれる」


『お前、パクっとやられそうだからなぁ』


「パクっ……」


『次、妖精な。妖精は自然から発生する生き物で明確な属性ってもんが無い。土から生まれたつくしからだって妖精は生まれるんだ』


「つくし……?」


『土の気が強いつくしの妖精だな。妖精は何からでも生まれるぞ、綺麗な花からもボロボロに破れ穴が空いたタオルなんかからもな』


「フェアリーフワフワなイメージが崩れるんだけど……」


『妖精にフワフワは無いな。あの種族こそ執着が強く諦めが悪い。何より善と悪の振り幅が1番激しい』


「大好きな妖精のイメージがグズグズに溶けていく……」


『妖精に夢なんか見るんじゃねーよ』


 スープを半分飲んだメディトークはもう1個パンに手を伸ばす。

 次は杏のジャムで、こちらは市販品らしい。


『あとは幻獣だな。幻獣はどの種族も獣型をしていて総じて幻獣と呼ばれてる。俺みたいな守備型蟻から肉食ウサギ、他も色々ひっくるめて幻獣だ。お前が前言ってたのは、幻獣の1部で食用にもなる。肉食ウサギもそうだな』


「ウサギ肉!」


『そのスープの肉、ウサギだぞ』


「まじか、美味いよウサギ。ありがとう」


『ブレねぇな』


 スープの中の肉に拝みながら、遠慮なく食べる芽依にメディトークは乾いた笑いを吐き出した。


『幻獣の最大の特徴が、高位以上になったら人型を取れる事だ。特に毛を持つ種族が多いか』


「……見たい」


『興味を持つなよ、移民の民だって自覚をもて』


「自由を奪われているみたいで嫌だなぁ」


『自由どころか命ごと全て囚われるぞ』


「…………信じられないんだよね、私は普通だから」


『まあ、移民の民自体は普通の人間だしな』


 難しいなぁ……と呟きつつもご飯の手は止めない。

 色々あるんだなぁ、と呟きスープを飲み干した芽依はこれ以上は無理かなと箸をおいた。

 それを確認したが、パン籠に入っている山からメディトークはさらに1個取る。


『いいか、移民の民が1番気を付けないといけないのは俺たちに気を許しすぎる事だ。伴侶が居ないお前は格好の餌食になる。いくらでも喰えるんだよ』


「喰う?」


『…………移民の民はな、人間には教えない秘密があるんだ。これは、移民の民にはぜってぇ教えて自己防衛を徹底させる。……いいか、ちゃんと聞いて理解しろよ。お前ら移民の民は、俺らにとっちゃ美味い餌なんだ』


「……餌?」


『そうだ、だからこそ精霊や妖精、幻獣に何かを頼むな。対価にお前の血肉を奪われるぞ。お前からする花の匂いは誘惑で、血肉は甘露だ。そしてその恩恵は力の増量と位を上げる』


「……まって、そんなの初めて聞いた……」


『だろうな、だからしっかり覚えろ。肌に触れるだけでその甘さの風味を感じるし、名を呼び呼ばれる事を繰り返せば否応なく絆が深まる。絆が深まれば香りは強まり甘みも増す。だがな、そうなれば食欲を駆り立てるか独占欲を増すかどちらかだ。そばに居たい、触れていたい。そこまで来たら伴侶争いが起こる。奪い合いだな』


 あまりにも暴力的な厳しい内容に、水を持ったまま芽依は動きを止めていた。

 それなのに、メディトークはまるで世間話をする様に話を続けるではないか。


『だから、無闇に名前を呼ばない方がいいし、仲良くなりすぎるのも良くない。本来他者の移民の民を奪うのは良しとしないからな、良識ある精霊や妖精、幻獣は無闇矢鱈に触れたり名を呼んだりはしないから、そこら辺は安心しろ。ただ、それに該当しないのもある。所謂一目惚れみたいなもんだな、そいつの性質なのか好みなのか知らねぇが、初見で噎せ返るほどの花の香りを感じる奴が居る。それには気を付けろ、奪いに来るからな』


 そこまで話してパンを1口で食べたメディトークは果実水を飲みながら床に倒れふしている芽依を見た。


『俺以外にそういう隙は見せるなよ』


「この世界怖い……」


『見方によっちゃそうかもな。俺はそれに該当しないから安心しとけや』


「メディさんは大丈夫なの?花の香りするんでしょ?」


『するが俺にはアロマオイルでリラックスしてる気分だ。幻獣の特に攻撃性の少ない俺たちは移民の民への執着はさほど強くねぇ。仲良くなりたいなら、アロマオイルを感じるくらいのヤツにしとけ』


「メディさん本当に好き」


『それも、他の奴には言うんじゃねーぞ。そうだな、俺はアリステアと契約していてお前を守る立場にいるから身構える事はねぇ、だが他は違う。お前の好意に漬け込んでお前を絡み取ろうとする。だから、不用意に信頼すんじゃねぇぞ』


「この世界怖い……」




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