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第20話 相談と試行錯誤


「おはようメディさん、今日もよろしくお願いしまーす」


 いつもと同じように現れた芽依に、メディトークは相変わらず搾乳をしながら出迎えた。

 芽依からしたら巨大すぎる牛の横に更にでかい蟻が縮こまるように地に膝をつき乳を搾っている姿はなんとも言えない。


『はよう』


「今日もいい乳だね、ガガディ」


『もう少しまともな挨拶をしろよ、女だろ』


「賛美なのに……」


『そりゃセルジオ様に痴女と言われる訳だな』


「なんで知ってるのメディさん」


『そりゃ、お前についての情報は都度交換されてるからじゃねーか』


「プライバシーの侵害だ、許せん」


『……プライバシーねぇ』


 まさかの筒抜け発言に芽依だったが、アリステアに保護されている特殊移民の民な芽依には必要な措置だったのだろう。

 仕方ないな、と相変わらず美味しい朝イチの特濃ミルクをありがたく頂き、爽やかな1日が無理やりに始まった。


「どんな感じです?豚さんは」


『今の所まだまだだな』


「まぁ、美味しい時期はおおよそ5ヶ月頃だって言ってたもんね」


『ああ、だから少なくともひと月事に追加を買わないと後が持たねぇな』


「豚だらけになるねぇ」


『最初に張り切り過ぎちまったな』


 今この庭に豚が35頭居て、毎月15頭ずつ増やす予定だと考えるとかなりの数になる。

 場所が足りなくなる事も考慮して、買い付け分の金額も考えなくてはならない。

 ここら辺は万能なメディトークさんにおまかせである。


『まぁ、大丈夫だろ。牛乳にミルク、卵がかなり良い売値をもぎ取ったから中々の売上だぞ』


「チーズとヨーグルトはまだ試作段階だからもう少しだよね」


 作ったヨーグルトを綺麗な使い捨てスプーンで味見をするが酸味が強く喉越しがあまり良くない。

 バニラヨーグルトはなかなかの出来だが、芽依が好きだったヨーグルトの滑らかさに到達していないので却下だ。

 メディトークはいいんじゃないかと言うが、煩悩の塊である芽依は光の無い目で「これはヨーグルトとは違います」と反論し、メディトークを畏怖で数歩下がらせた。


『殺気立ってやがる……』


「美味いは正義だから妥協はしません!」


『……頑張れよ』


 余ったチーズやヨーグルトは料理に使ったり、何故か牛や豚が食べて消費してくれるので廃棄はない。


「チーズもまだまだ、お酒に合うまでもう少し。メディさん試食してみて」


『……そうだな、塩分足んねぇか。配合変えっぞ』


「はーい」


 ヨーグルトやチーズは作る過程で必要な材料を見極めているのだが、この試作に手間を掛けている。

 全ては酒の肴の為に。


『酒に合うようにだけ作るのか?飯には合わせないのか?』


「お酒に合うのを優先して、出来上がったらご飯用かな」


『よし、どっちもやるぞ』


「お?ヤル気だねー」


『美味いは正義だろ?』


「メディさんカッコイイ」


 楽しくお仕事中。今までみたいな机仕事はブラックだから別だが、少しだけやった軽作業も嫌いでは無い。

 でもやはり自分の好きな物に携わる仕事の捗り方は目を見張るものがあるし、何より楽しいものだ。

 同僚も趣味が合い楽しく話をしながら業務に付けるので毎日が早く終わってしまうくらいだ。


『そうだ、アリステアから言われたお前の教育は俺やがる、文句ないな』


「メディさんが教えてくれるの?わぁ、初ジャーキー出来たら乾杯しないと」


『その予定は最初から入ってる』


「メディさん……」


 トゥンク……となっている芽依を差し置いてグルリと巨大な釜に入っているヨーグルトを混ぜた。

 加熱したらどうなるのかな?の実験中である。


『仕事の合間に頭に詰め込むからな、ちゃんと覚えろよ』


「はい、先生がんばります!」


『どこまで話を聞いた?』


 小皿にヨーグルトを入れ舐めとると、トロトロに蕩けた熱いヨーグルトが舌先に乗った。

 柔らかな感触で、アツアツになっているはずなのに、口の中に入ったヨーグルトは仄かな温かさになっていた。


『お、うめぇ。食ってみ』


 新しい小皿に入れたヨーグルトを1口サイズのスプーンも付けて入れてくれる。


「わ、初めてのヨーグルト!新食感」


『どうだ?』


「凄く美味しいけど、売る頃には冷めるよね」


『大丈夫だろ、保温カップに入れりゃ。その分少し値は張るがな』


「保温カップかぁ、どれくらい持つの?」


『あ?そりゃ開けるまでだろうが』


「開けるまで?時間わからないのにそんなに保温してくれるの?」


『あー、そうか。保温カップってのはな、底に保温の魔術が敷かれた陣を入れた大量生産型のカップの事だ。時間停止は無いから暖かい状態を維持するだけで時間経過するから、食わないと腐るカップだ』


「そんないい物があるんだ……」


『物としてはそんな良いもんじゃねーぞ。普通だ、普通。完成して販売が決まったら買っといてやる』


「うん」


 他のも確認しながら芽依は日替わり世話役から聞いた話をしていると、メディトークは呆れたように芽依を見た。


『……それだけか』


「うん」


『まじか、ほぼ最初からじゃねーか』


 そう文句を言いったメディトークは、次に鳥を見に行った。

 それについて行き、卵の確認をする芽依とメディトーク。

 相変わらず激うまの半熟卵味玉も作っているようだ。


『話が長くなるから少し待て。まずは先にこいつらを終わらすぞ』


「了解でーす」


 ザクザクと下を掃除して、水場や餌場を片付け新しくする。


「いやぁ、やりやすい服はいいなぁ」


『……似合っているな』


「セルジオ様が持ってきてくれたんだよ、仕事用って」


 あの日、芽依の入浴後に訪れたセルジオは仕事用の服を持ってきてくれていた。

 とりあえず3着だ、と渡された服は相変わらずピシッとアイロンがされていてシワひとつなかったのだ。


『……必死じゃねぇか』


「なにがー?」


『なんでもねぇよ』


 へぇへぇ、そんなに自分が用意してぇのか……と呟いていたメディトークに気付かず、芽依は腰痛いな……と伸びをしてから腰をさすっていた。


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