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第15話 初心者用牧場経営は精神を削ってくれた


 それから芽依は牧場経営について教えて貰った。

 基本的には管理人であるメディトークが手伝ってくれるのだが、恩恵を持つ芽依は少しの時間でもいいから毎日庭と呼ばれる牧場に顔を出すことを勧められた。

 飼育する動物は買い付けも出来るし、野生の生物を捕まえる事も出来る。

 その状態は様々で飼育の仕方次第で収穫時の品質に大きく影響があるらしい。

 いい状態の物を手塩にかけて育てると品質が更に上がる、といったものだ。


「………………牛、馬、羊、鳥……猫?兎に……えぇ……」


「お嬢さんの国ではそういった呼び方だったのかな?」


 明らかに見た目が違うのからよく似ているの、ペットとして家族だったものまで、パンフレットには様々いて牧場で飼育出来るらしい。

 …………食べるんだろうか、猫を。


 それぞれに特性や注意書き等も書かれていて、中には幻獣という表記もある。

 精霊や妖精の話は聞くが、幻獣の話は聞かなかったなと思った芽依は、なるほど幻獣は食用なのかと納得した。


「迷っておりますね」


「初めてだから勝手がわからなくて」


「そうですよね、では僭越ながら私からオススメを宜しいですか?」


「是非お願いします!」









 おじ様からオススメされた物をそのまま購入する事となった芽依。

 お代は領主館のアリステアに付けることをメディトークがおじ様に伝え、微笑んでかしこまりました。と返事をしていた。

 そして、広々とした更地だった場所にこじんまりとした建物と、巨大な畜舎。

 そして牛、豚、鳥が広く区切られた囲いの中、まるで草原で放し飼いのように健やかに動き回っている。


「初心者用なんだね」


 走り回る3種類を見るが、明らかにおかしな動きをしている個体が存在する。

 牛は用意した果物を一心不乱に食べ、馬は数体が向かい合い足をブルブルさせている。

 一体何をしているんだろう。

 そして極めつけは鳥だ。

 卵を産み繁殖は勿論その卵も美味しく頂くことが出来、若鶏の柔らかくジューシーなものや、年老いても如何様にも美味しく召し上がれるあの憎いお肉様に変わる鳥が、何故か草を踏みしめミステリーサークルのように丸い形を作っている。

 満足出来たようで頷いた鳥達は、ギラリと鋭い目をして2羽がミステリーサークルの中に入っていった。

 その周りを囲いピッピーピッピー騒ぐ鳥達。

 いや、鳥の鳴き声ピッピーなの?

 そして、2羽は激しく蹴り合いを始めた。

 相手の胸元を狙って激しく動きまわり、時には建物の屋根すら飛び越すジャンプを見せながら蹴り技を繰り出している。


「……なにしてるの」


『縄張り争いだ、ボスを決めていやがる』


「……ボス……あっちは?馬プルプル」


『求愛ダンス』


「ダンス!?えー、もうこの世界意味わかんない……」


 初めて見る動きにくらりとくるが、そもそも芽依の知る生き物では無いのだ。

 その証拠に隣にいる巨大な蟻がいるではないか。

 持ってきていた籠から果実水をコップに注ぎ芽依に差し出してくる。蟻が、だ。


「…………ありがとう、蟻さん」


『メディトークだ』


「メディさん」


『よし』


「いいんだ……」


 あの長く太い足で器用に芽依の頭を撫でるメディトークは、口は悪いが優しいらしい。

 メディトークは力加減をして優しくしているつもりだが、大きさがヤバい為芽依の頭はグワングワン動き果実水を飲む所ではないのだが、なんとなくセルジオのお母さん感が滲んでいる気がした。


「……まずは育てるところからにしよう。そうして卵やらお肉やら乳製品やら……色々。あ!葡萄作ったらワインとかも出来るのかな……」


 ブツブツと煩悩を口から吐き出す芽依をメディトークは横目に餌やりを始める。

 芽依もメディトークに気付いて慌てて餌やりを始めると、動きを止めたメディトークが芽依を見てから首を横に振った。


「え?なに?」


『明日からでいいから、もっと動きやすい格好で来いや』


「あ…………はい」


 芽依は自分の服装を見る。

 まるで霞の中に居るような滲み出る灰色のワンビースは袖口に豪華なレースが施されている。

 無地だが腰に着く大きな同色のリボンが可愛らしい。

 明日から違う服、しかし、いい服が無いな……と迷う様子を見たメディトークがサムズアップした。


「なに?」


『まかせておけ』


「…………なにを?」


 何故かニヤリと笑ったような表情をするメディトークは心做しかウキウキした様子で餌やりを再開した。









「つかれた……」


 あの後もう帰れと言われた芽依は、メディトークが買った建物の一室を領主館の扉に繋いでくれたようで、4回ノックすると領主館の廊下に繋がった。

 不思議そうに廊下を見てからメディトークを見ると、また明日待ってるからな、と頭上に文字が現れた。

 頷き扉を閉めた芽依はそのまま真っ直ぐ部屋に戻ったのだった。

 丁度昼を少し回った時間で今からならお昼ご飯が間に合うだろう。

 でも、もしセルジオに会ったら今の芽依にそれはそれは嫌悪感を全面に出し、歪んだ顔を見せてくれるのだろう。


「……わかってる、お風呂ねお母さん……入るよ……」


 よろよろとお風呂場に行くと、既に湯が張られていて森林の香りが充満していて、息を大きく吸い込んだ。


「あぁ、幸せ……」


 足からゆっくり湯に入り、少し熱いくらいの温度に眉間をギュッと寄せながら至福の吐息を吐き出した。


「凄い色んな種類あったなぁ……同じ牛でもプレミアとかいたし、産まれたばかりの子牛は色々破格だったし、なんか鳥は戦ってるし……あれで筋肉が育って弾力出たりするのかな……」


 たった三種類選び育てると決めただけでなんだかどっと疲れが溜まったようだ。

 湯船の気持ち良さに目がトロンとしてきた頃、芽依はこれはいかん、寝てしまう!と湯船から出た。

 体を清めて浴室を出た芽依は、脱いだはずの衣類が籠から消えていることに気付いた。


「……何故なくなっている」


 眉を寄せ首を傾げる芽依は、新しく用意して持ってきた1式は無くなっていないと安心しつつ袖を通す。


「……ちょっと疲れて頭働かないからいいや」


 モソモソとサーモンピンクのワンピースを頭から被ると、鏡に映る自分を見た。

 まだポタポタと雫が落ちる芽依の髪をタオルで拭き取りながら、そのままぐるり巻き付ける。

 相変わらずの足首までくるスカートを足で裁き、纏わりつかないように翻しながら部屋に戻ると同時にノックが響いた。


「…………はい?」


「………………………………お前」


「ああぁぁぁ……」


 何も考えずに扉を開けた芽依を見たセルジオは目を見開いた後、鬼のような形相で芽依をみたので、これは説教なのでは……と諦めの境地に陥った時、セルジオは扉を大きく開いて中に入って来た。


「セルジオ様……何故に怒っておられるのですか……」


「お前の髪が濡れているからだ」


「髪?」


 何かあるのだろうか?と首を傾げると、セルジオは腰に手を当てて溜息をついた。


「…………入浴後の濡れた髪で人を部屋に招き入れるのは夜を一緒に過ごさないか?という誘いだ」


「……なんですと?」


 まさかの内容に驚いて居ると、パサリと髪に巻いているタオルが床に落ちた。






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