新たな村づくりはというと、本格的な建物を造る所まで進んでいた。
父さんが数日間フレックと共に作業を休ませ、居住する予定の人達の体調を考えたうえで休みを取る様に言いつけて、ドランの町へと出掛けて行った。
父さんが町へといった目的は、本格的な家の建築をするため、どうしても大工仕事や木工仕事ができる人の手を借りなければならないという事で、その大工頭とも棟梁とも呼ばれている人の所へ向かったわけ。
実の所この棟梁と呼ばれる人は、アイザック家の屋敷などを直したりする時には必ず作業に入ってくれる人で、職人と呼ばれている人達の中でも一目置かれている存在。
その名前をガインさんと言い、現在息子さんのデンさんが跡を継ぐために一緒に修行をしている。時々は僕とも話をしてくれる優しい人なのだけど、仕事の事になるとさすが棟梁というか、言葉の端にもその厳しさがうかがえる。
そのせいもあってか、ガインさんの腕は良いいのだけど、ガインさんの元で修行する人たちは年々減っている。今も息子のデンさんを合わせても数人しかいない。
その人数を補うために、手の空いている人達へ仕事のあっせんをするのだけど、結局は直ぐに来なくなったりやめてしまう人が多いのが息子であるデンさんの悩みの種だったりする。
そのガインさんと村での家の建築について最終確認をするために町へと向かって行った父さん達。
僕らは村に残されたままになるけど、僕がしなければいけないのは作業員として来ている人達をしっかりと休ませること。
なんというか、仕事ができた喜びと、新たに作り上げていっている事への充実感からか、目を離すとすぐにアインさんやデニスさんといった人たちを筆頭に、作業をしようとする。初めは仕方ないなぁなんて思っていたのだけど、村として出来上がりつつある現状を見ると、休む時は休むことも大事なのだと改めて思う。
そこで僕は――。
「――というわけで、完全休日を作りました!!」
僕は皆が集まれる集会場の様になった建物にみんなを集めて、確認用に持ってきていたヨームの端に書いてある数字に赤い丸を付けていく。
「完全休日とは?」
スッと手を上げて僕に質問してくるガルバン様。そしてそんなガルバン様の質問に集った人達もウンウンと頷く。
「完全休日はですね、このヨームの丸を付けた日は、作業をしないで完全に休みにする日の事です」
「「は?」」「「え?」」「「休み!?」」
僕の説明にみんなから声が上がる。
「そんな日を作ったら作業が遅れるでねぇですか!!」
「そうだな」
「せっかくここまでできて来てるのに、休んじゃいられねぇ!!」
居住予定の人達からも声が上がり、集会場の中はざわつく。
「ロイド。どうしてそのような日を作るのだ。今までそのような日を作るなど聞いたことが無い。そもそも休みなど今まで気にしたことが無いぞ」
「え? ガルバン様もそんな風に思っちゃうの!?」
「うむ。実際に毎日働いて給金を貰っているのだから、働かないと収入が減ってしまうのだ。ケガや病気で働けないときは仕方ないが、その他元気な者たちは毎日働くのが当たり前ではないのか?」
「はぁ~……」
僕はガルバン様から話を聞いて大きなため息をついた。
「む!? なんだその大きなため息は……」
「お父様!! ロイドの話を聞いてみましょう!!」
僕の態度に少しイラっとしたらしいガルバン様を、アスティがなだめる。
「僕の考えはちょっと違います」
「違う?」
「はい。確かに毎日働いた分でお金を貰っているのだから、その分働け。という気持ちは分かりますけど、その働いた分だけ人は疲れちゃいます」
「まぁそうだな……」
「でしょ? なら数日働いたら何日か休めばその分疲れが抜けると思いませんか? その休みの日におでかけしたり、美味しいものを食べたりすれば、心も切り替えられると思うんです」
「……ふむ」
「「「「「「「…………」」」」」」」
僕の話に真剣に耳を傾けるガルバン様。しかし働く人たちはとても不安そうな顔をして僕を見ている。
「しかし、それじゃぁ給金が減るではねぇですか!!」
「そうだなぁ……」
バイアさん達もぼそっとそんな言葉を漏らす。
「もちろんその通りですが、良く考えてみんな。疲れたまま作業をしてケガしちゃったら? もしかして居眠りしてケガしちゃったら? もっと働けなくなっちゃうんですよ?」
「まぁそうなんだけどよ。俺達獣人族は人族と違ってそこまで弱くねぇんすよロイド様」
バイアさんが僕の方を見ながら声を掛ける。
その言葉に僕は頭を振った。
「ううん。バイアさんそれは違うよ」
「どういうことです?」
「確かに僕達人族とは違うのかもしれない。疲れも僕達よりも少ないのかもしれない。でも疲れは目に視えないんですよ? 自分が疲れていないと思っていても、本当に疲れが無いといえますかね? 毎日体を動かしているのに」
「む……。確かにそれはそうだが」
むむむと言いながら考えこむバイアさん。
「これからこの村ではこの完全休日を毎月取ります。どうか……皆さんが元気でいられるようにするためにも、休みの日を作ってください。お願いします」
「ロイド……」
僕がスッと頭を下げると、僕の隣に静かに歩んできたアスティが一緒に頭を下げた。
「……確かにロイドの言う事は一理ある」
「ガルバン様」
「お父様」
静まり返った集会場の中に、ガルバン様の言葉が響く。
「我が国では冒険者と呼ばれている者たちがいる。他の国では傭兵団とか呼ばれている者たちもいるが、そのもの達も数日仕事をしたら数日はなにもしない日を作っているらしい。まぁそれだけやっている事が辛いという事も有るのだろうが、たしかに体を休めるという事も一つの『仕事』と考えれば納得できるところではあるな」
「しかしですね、今までそんなことしたこともないですから、何をしたらいいのか……」
「それこそ簡単ではないか」
「へ?」
「何もしないというのがその日の正しい使い方。なのだろう? ロイド」
僕の方を見ながら笑顔を向けるガルバン様。
「はい!! そうです!!」
こうして僕達の使うヨームに新たに赤い数字の日が、新たに付け加えられることになった。
しかし、休日の事だけで話を終わるわけにはいかない。その休日が出来た事で本当に皆が休んでしまうと、今まで美味しいご飯を作ってくれていた人たちや、村の周りを警戒してくれていた人達がいなくなってしまう。
だから、僕は交代しながら一日は仕事をしない日を作るという事も決定した。これでその人たちが休んでいる時は誰かがその仕事をしている事になるので、誰もいないから出来ないという事は無くなる。
僕の考えを静かに聞いていたガルバン様は、話の途中からちょうど現場に来ていたアルスター家執事のアランさんに何か話をしながらも僕の話を聞いていた。ガルバン様の話を書き留めていくアランさん。そして大きく頷くとすぐに現場から馬車に乗って町方面へと戻って行った。
父さん達が大工の棟梁たち数人と共に戻ってきたのは、僕が休日の話をした次の日で、戻ってくるとすぐにガルバン様から呼び止められ、集会所の隅で話を始めた。
「やぁ坊ちゃん元気そうだな!!」
「あ、ガインさん!! 久しぶり!!」
僕とアスティが一緒にお茶を飲んでいると、僕の事を見つけたガインさんがデンさん伴って近づいて来る。
「凄いじゃないか、坊ちゃん!!」
「え? なにが?」
「この前婚約者が決まったと思ったら、今度は村づくりだ!! 本当に
僕に向かってニヤッと笑いながら話すガインさん。そんなガインさんを慌てて止めに入る息子のデンさん。
「ちょっと!! それはどういう意味です!?」
「おおっと……」
僕が何か言葉を発する前に、僕の隣からガインさんに向けて怒気を含んだ声が発せられた。隣に顔を向けると、アスティが目に力を込めたような表情でガインさんを見つめている。
「あぁ、これは失礼を、婚約者殿」
「ちょっと!! 先ほどのお話のお返事を頂いてませんけど!!」
「アスティ、落ち着いて」
まだプリプリと怒るアスティをなだめる僕。その姿を見ながらプッ吹き出すガインさん。
「いい娘じゃないかロイド坊ちゃん」
「ガインさん。からかわないでよ。アスティが本気で怒っちゃうでしょ?」
「こりゃぁ……すまんすまん」
「ほぇ!?」
僕がため息をつきながらガインさんに言うと、途端にぺこりと頭を下げる。その姿を見たアスティから聞いたことの内容な声が聞こえた。
「アスティ。ガインさんは知ってて言ってるんだよ。だから心配してくれるのは嬉しんだけど、そんなに怒らないでいいから。ね?」
「そ、それはどういう事です?」
僕はアスティの頭をなでなでしながら、ガインさんとの関係を話した。
実はこのガインさんに、アスティ達と出会う前の事になるけど、ヨームのことを話したことが有った。話したことが有ったと言っても、相談したという事では無く、『こんな感じのものが作れるかな?』といった感じの事だけ。
その時は僕もまだ考えが纏まっていなかったので、丁度屋敷を直しに来ていたガインさんに世間話程度に話をしたのだ。
ただ、ガインさんは僕が小さい頃から屋敷に出入りしていたこともあって、僕に関する噂などを知っていたのにもかかわらず、その当時から僕の言う事に耳を傾けてくれていた。
――僕が家族以外で本当に気が許せる少ない人の一人なんだよね。
僕の説明を聞いてアスティがガインさんに謝っているのを見ながら、僕は小さい頃の事を思い出していた。
「それで? 今度はどんな面白い事を考えついたんだ?」
「面白い事?」
「おう!! ロイド坊ちゃんの考えは面白い!! 今まで聞いたことが無い事ばかりでわしはとても好きなんだよ」
「あ、ありがとう……」
にかっと笑うガインさんの笑顔を見て、今度は僕が少し照れてしまった。
「なぁに。ここに来る前に少し木材などを見せてもらったんだが、積んであった物や、建築予定地にある木材。あれじゃ予定の数よりもだいぶ木材が多いからなぁ。何か考えてるんだろ?」
「あははは。さすがガインさんだ……。うん。ちょっと考えている事があってね。少し多く取って来てもらったんだよ」
「ほう」
僕の事をじっと見つめながら、大きく頷くガインさん。
そう。この場所に新たな村を作るという話が進んで、本格的な工事や作業が始まってからも、僕は何度かドランの町に行っていた。その都度動物たちに追いかけまわされたりするという事はあったのだけど、僕が目的にしているところを見る為なのでその度に服が毛だらけになる事は仕方ない。
結構大変な思いをしながら、僕が見て来た場所。
「まだ父さんにも言ってないんだ」
「なんじゃ。なら坊ちゃんの考えている事はまだ先になるのか?」
「そうなるね。まずはこの村に住めるような家を建てる事が大事だから。その後になるかな?」
「それはわしらにも関係ある事なのか?」
「……あるね」
「わかった。ならその時を楽しみにしてるか!! なぁデン!!」
僕の話を聞いて、またニコッと笑った顔を見せると、息子さんに向かい話しかける。デンさんは僕達に向かって苦笑いしながらも、ガインさんが楽しそうに話すのを聞いていた。
「何を考えているの?」
「うん?」
ガインさん達親子が僕達から離れて、作業現場の方へ行くために集会所から出て行くと、アスティが僕に向かって声を掛けてくる。
「まだ言えないかなぁ。それにうまくできるか分からないからね」
「そうなの? でもロイドの考えている事ですもの、きっと大丈夫よ。休日の事だっておば様たちの間でも噂になってるくらいだもの」
「え? どうして?」
「今までは、食事を作ったり洗濯したりするのが当たり前だと思われてきてたのに、おば様たちにも休日を作ったからよ」
「そうなの?」
「うん。ロイドは凄いってみんな言ってるわ」
ちょっと興奮気味に話すアスティ。そんな事になっているとは思っていなかったので、僕も少しだけ恥ずかしくなる。
「だ、旦那様!!」
「どうしたフレック」
集会場の中でしばらくは静かな時間を過ごしていた僕達の元へ、フレックが慌てた様子で入ってきた。
「そ、それが……」
「なんだ、そんなに慌てて」
「王家から封書が届いております」
「なに?」
「王家からだと?」
慌てた様子のフレック。そしてそのフレックからもたらされた情報。父さんとガルバン様はお互いに顔を見合わせた。