連日にわたって行われている、新たな試験村造り。一緒になって汗を流す人たちがいるおかげで、結構な速度で住む家などが形づくられて行く。
ただ住めればいいというわけじゃなく、村の存在意義の畑などを作業がしやすいようにと配置を細かく決めていくのだけど、そこは父さんやフレックが指示を出して選定しているので大丈夫だろう。アイザック家は『武』と『農』を生業にした一族なので、昔からしている事を実践しているだけだけど。
ガルバン様はというと、僕が自分の屋敷でしていたように魔法を使って土を入れ替えたり耕したりを実践している。
新たに区分けされた農地はけっこうな広さがあるので、アルスター家の護衛でアイザック領へと一緒に来た人たちも一緒になってガルバン様と土を持ち上げたりしている姿を見ると、なんだか本当にアイザック家と家族になったような気がしてくるのは不思議だ。
特に今まで農作業などしたことが無いと言っていた人たちが、泥や土まみれになりながら、みんな一緒になって汗を流している光景を見ていると、とても嬉しくなってくる。
もちろん、フレックと共に町から移住してくれるために集った人達も、僕達と共に行動している。
初めは貴族様とその部下たちなのだからと遠慮していた様だけど、僕やアイザック家の人達がしている事を目の当たりにして、アルスター家の人達にも少しずつ話しかけたりするようになり、それが連日続くともう仲間意識のようなものが芽生えて来たのか、今では一緒に笑いあいながら作業をするのが当たり前。
アスティやメイドさんと移住してきた女性陣の連携もあって、食事時などはとても盛り上がりを見せる。
特にバイアの奥さんであるアンさんが移住組の女性陣を引っ張ってくれているおかげで、特に問題が起きる事もなく、生活として回していけていた。
ただ問題も無い事は無い。
移住する予定の人達が思ったよりも多く来てしまった事で、用意するはずだった家の材料となる木材の不足や、当初は川の水を利用した水場作りをする予定だったのを飲み水の確保という観点から井戸を数か所設置する方向へと変えたことにより、作業が多くなってしまって人を分散しなくちゃいけなくなった。
それは作業の速度を遅くすることに繋がるのだけど、そこはこれから先の生活の楽しみをみんなと共有することで何とかのり切っている感じ。
――やっぱりこのままのスピードじゃ時間だけがかかっちゃうよね。
笑顔の絶えない村造りをしている状況を見渡しながら、僕は少しだけ考える。
――問題は井戸かな? どこが水が出るのか分からないからなぁ……。
「水が出る場所が分ればいいんだけどなぁ……」
そんな事が自然と僕から洩れる。
『任せて!!』
『それは私たち得意!!』
「え?」
僕の直ぐ近くで聞こえて来た声。
『あらあら……あの子達張り切ってるわねぇ……』
「タニア?」
いつの間にか僕の隣にいたタニア。
『もうロイドにも見えるんじゃない? あの子達の動いてる姿が』
スッと目の前に腕を伸ばし指し示すタニア。その先を追うように僕も視線を移す。
「あ、本当だ」
『ね?』
「あれ? あの子達って……」
僕の目の前では僕よりも少し小さいくらいの男の子や女の子が所狭しと駆け回っている。
その子達よりも更に小さな子達は文字通り飛びまわっているのだけど、その姿を僕は一度見たことが有った。
「この前来た時に見かけた子達?」
『あら? 以前にも見たことが有ったのね?』
「うん。タニアと会うちょっと前にね」
『あなたの為にみんな喜んで探しているわね』
「僕の為?」
『そうよ? あなたがお願いしたでしょ?』
「え? あ、いやお願いしたわけじゃないんだけどなぁ……」
『まぁいいじゃない』
くすくすと笑いながら小さな子達の方を見続けるタニア。
『ほら、見つかったみたいよ?』
「お!?」
何か所にその子達が集まって地面を指差してその場に止まっている。
――本当かなぁ? でも今までも……。
タニアや彼らの事は未だに良く知らないけど、タニアが言う事に関しては何故か信じてしまえると感じるから不思議だ。
「父さん!!」
「どうしたロイド」
井戸を掘る作業をしていた父さんと数人の獣人族の人達が、僕の声と共に一斉に僕の方へと顔を向ける。
「信じられないかもしれないけど、今父さんが掘っている場所から水は出ないと思う」
「なに?」
「もう少し先の……」
話しながら僕は子供たちが地面をさしている場所へと移動していく。
「この辺りを掘ってみて」
「……どうしてここなのだ?」
「なんとなく?」
僕は首を傾げて父さんに見せる。すると少しだけ目を細めた父さんが僕の方をジッと見つめて来た。
「……何かしたのか?」
「え?」
「
「いやだなぁ……。僕には何もできない事は父さんも良く知っているでしょ?」
「俺はそうは思っていないぞ。勘違いするなロイド」
「え?」
「お前は何も持っていないとは言うが、俺は……いや、俺達はそんなこと思ってない。ガルバン達もそうだ。そうでなければお前のいう通りに村を造ろうなどと思わんだろう?」
「そ、そんな事無いと思うけど……」
「まぁいい。今はそれでもいい。ただ……」
「ただ?」
「アスティ嬢にだけは本心を話すようにしておきなさい」
「……父さん。……うん。わかった」
父さんの言葉が僕の胸の奥に温かさをもたらしてくれた。そしてアスティには素直に話をしようと改めて心に誓う。
父さんは何も疑うことなく、僕が指示した場所を掘り始めた。それに続いて獣人族の人達も一緒になって周りを掘り始める。
――ありがとう。父さん。
父さんの背中を見ながら、心の中でお礼を言った。
しばらく経ったと気に、父さん達から声が上がる。
「おぉう!!」
「本当に水が出た!!」
「すげぇな旦那も坊ちゃんも!!」
「だろ? 俺の息子だからな!!」
などと大きな笑い声と共に聞こえてくる。
――良かった。本当に水が出たんだ……。
ホッと胸をなでおろした僕の隣に、スッと人影が現れる。
「良かったね」
「うん」
僕に向ける笑顔がとても眩しい。ここ数日ですっかり日焼けすることになれてしまったアスティだ。
初めは伯爵令嬢という事もあってメイドさん達やアンさんにも気を使われていた様だけど、ここ最近は気にする事もなく動き回っていたアスティは、すっかりアイザック領に住む子達と同じように日焼けしていた。
「どうしてわかったの?」
「ん?」
「お水が出る場所なんてどうしてわかったの?」
「あぁ。タニア
「達?」
首を傾げるアスティに、以前この場所に来た時の事を話した。少しびっくりしていたアスティだけど、タニアと話をしたことが有ったためか、そういうモノもいるんだと納得したようだ。
「タニア……会ってみたいな……」
「そのうちに会えるよ」
「そうかな?」
「そうだよ」
フフフと笑うアスティ。
『きっと会えるわよ』
「え? タニア?」
『そうよ。私も楽しみにしてるわね』
「……うん!! 私も!!」
僕にはすぐ側にいたタニアの姿は見えているけど、アスティには見えていない。ただその存在だけは声として確認することはできるから、タニアの声を聴いてアスティも楽しみにしてくれている事が分る。
僕とアスティは顔を見合わせて笑いあった。
数日間、切り出した木を使って家を建てたりと急いでいたのには理由がある。それは獣人族の特性というモノなのか、移住してきた人たちから近々雨が降るようだと言われていたからだ。
どうしてわかるのかは説明されてもよく分からないけど、その種族などによって違うらしい。人によっては体の毛が湿ってきているからとか、ひげが重くなってきているとか、雨の匂いがするからとか言うのだけど、僕達には全くそんな事は感じない。
ただ、それが事実として先に動き始めるだけだ。まずは濡れないような場所を確保することが先決なので、一人に一軒というわけにはまだ行かないので、簡易的にではあるけど広い一軒屋根付きな建物を作り上げ、そこを拠点にして皆がとまれるようにはしていた。
井戸が出来上がった次の日には朝から雨が振り始める。
ちょうど食材などを調達しなくちゃいけないし、着替えなどの事もあってメイドさん達と共にアスティは前日馬車で町へと戻って行っていた。
今村の予定地には男性陣と移住組の女性陣しかいない。
「旦那」
「ん?」
雨の降り続ける空をジッと眺めていると、狼人族のバイアと熊族の数人の男の人が父さんに声を掛けて来た。
「どうした?」
「この雨……しばらくは続きそうですぜ?」
「なに? どういうことだ?」
「山の向こうにも同じような雲が続いてますし、この風も……」
「風?」
スッと熊族の男性の一人が前に出てくる。
「君は?」
「おいらはデニスと申しますだ。あの山はもともとおいらたちも住んでいた場所が有るんです」
「ふむ。それで?」
「この風は雨の匂いがとても強いですし、冷たい。山に向かって吹いていますから当分は続きそうです。はい」
「そうか……しかしそれは困ったな」
デニスと名乗った熊族の人の言葉を聞いて顔が曇る父さん。
「ガルバン!!」
「どうした?」
少し考えてガルバン様を呼んだ。少し離れたところで護衛の人達と話をしていたガルバン様はその話を途中で切り上げて父さんの方へと向かってくる。
「この雨がしばらく続くらしい」
「ふむ。それは仕方あるまい。天の事は私たちにも何もできないからな」
「いや。天気の事は良いのだ」
「では何が問題なのだ?」
「……川だ」
「川?」
父さんは川の方へと視線を向けながらガルバン様に答える。
「この川は今は大人しいのだが、雨が降るとかなり暴れる川になるのだ。ここ最近は被害という被害は無いのだが、しばらく雨が続く……それも山の近くにも降るとこのデニスが教えてくれた。このままでは水量が増えてくるかもしれん」
父さんに紹介されたことに驚きながらも照れるデニスさん。
「しかしどうする? 今からでは手を打つことなど出来るのか?」
「いつもなら……皆で木を切ったりしてせき止めたりするのだが間に合わんかもしれん」
父さんとガルバン様がウンウンと唸りながら考える。
――あ!!
「あ!!」
僕は頭の中でちょっとした事が思い浮かんだ。しかし思わず口から洩れてしまったようだ。
「なんだロイド」
「何かいい考えでも浮んだのか?」
父さんとガルバン様。そしてデニスさんやバイアさんまでもが僕に視線を向けてくる。
「え~っと……出来るかどうかは……」
「まずは考えを言ってみなさい」
「そうだな。ロイドの考えならば良い案かもしれん」
真剣なお青を向ける二人に少しだけ気圧される。
「そ、それじゃぁ……。ガルバン様」
「ん?」
「土魔法が使える人達を貸してもらえますか?」
「なに? 土魔法だと?」
「うん。土魔法」
僕がそう答えるとガルバン様は直ぐに土魔法が使える人数人を呼んでくれた。
「この者たちが土属性魔法を使える。そしてこの村に常駐する予定の者たちだ」
「そうですか。ありがとうございます」
「「「「「は!!」」」」」
「それでロイド。どうするのだ?」
「はい。皆さん土を壁にする魔法は使えますか?」
「それはもちろんできるさ」
「良かった!! それじゃぁいきましょう!!」
「行くってどこへ?」
僕はデニスさんへ視線を向ける。
「危なくなりそうなところ知ってます?」
「え? おら達かい? まぁ……この辺の事なら」
「なら案内してください!!」
僕の言葉を聞いて熊族の人達は顔を見合わせる。
「わかっただ。案内するだよ」
そうして熊族の人達を先頭に、僕や父さんガルバン様と土属性魔法を使える人達で、その場所へと向かって歩き出した。
「ここがこの辺では危ないんでねぇかな?」
「この辺ですか……」
案内された場所は村予定地から少しだけ上流の山方向へ進んだ場所。そこは川が急に曲がっている場所で僕くらいの背丈は軽く沈みこんでしまう程の深さの場所だった。
「それでロイド、どうするのだ?」
「はい」
ガルバン様が僕の隣に来て川を見ながら話しかけてくる。
「土魔法を使ってこの辺りの川岸を固めて高くしてしまおうかと……」
「……なるほど。それで土魔法なのか……」
「時間があまりないようなので」
「ふむ。やってみよう。ではいいか!! やるぞ!!」
「「「「「は!!」」」」」
そこに集った人達がそれぞれ言葉を紡ぎ始める。
――あ、そうか呪文が必要なんだっけ……。まだ
アスティと共に練習している魔法の事しか最近は触れる事が無いので、すっかりと忘れていた。
「「「「「は!!」」」」」
掛け声とともに土が盛り上がり始める。
「どうだロイド」
ガルバン様からの問いかけに、僕は盛り上がった部分を触りながら首を振る。
「もう少し固くならないとだめですね」
「そ、そうか……。ではもっと気合を入れるぞ!!」
「「「「「は、はい!!」」」」」
更に呪文を唱え始める人達。
そして――。
「うん。このくらいならいいかも?」
「よ、良かった」
ホッとするガルバン様と皆さん。
「さぁ、この魔法をこの辺りの場所一面にかけていってください」
「な、なに? ここだけではないのか?」
「何を言ってるんですか? この曲がった部分だけじゃこの目の部分と後の部分から水があふれるかもしれないじゃないですか」
「む、むぅ……」
僕の話を聞いて納得はするものの、その範囲の広さを見ながら困惑する皆さん。
「頑張ってください!!」
「よし!! 出来る限りやるぞ!!」
「「「「「は、はいぃ~」」」」」
ガルバン様の言葉に弱弱しい返事が返る。
その後は休憩を挟みながらも、1日かけて何とか出来上がった。予定していた場所よりも範囲は狭くなっちゃったけど、それでも何もしないよりはましだろう。
「出来た!!」
「「「「「「「おお!!」」」」」」」
後は雨が止むまでに何もなければ、この作業も成功と言える。疲れ切った体を引きずる様にしながら新村予定地まで戻ったのだった。
雨は降り続き、いたるところで氾濫したとの報告が上がっては来たものの、住んでいる非該当は無いと報告が上がってきた。もちろんガルバン様たちが頑張ってくれた場所は氾濫することなく、安全に過ごすことが出来た。
「ロイド式工事だな」
「え?」
「ロイド式堤防といったところか」
「えぇ!?」
僕を見ながらガルバン様と父さんが笑う。
そしてこの時に取った工事方法が、後に『ロイド式堤防』として後世に残っていくのである。