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第24話 目の前で見た事実



 タニアとの出会いから5日経ったけど、それからタニアとは会えていない。その代わりというのも変かもしれないけど、タニア以外の声だけが聞こえてきている状況は続いている。

 ただそれも困ったことに、『頼んで欲しい』といったような感情をそのまま僕に向けてくる。

 自分でできる事は自分でするし、自分が出来そうにない事は屋敷のメイドさんや使用人さんがしてくれるので、なかなかその言葉に応えて上げる事は出来ていない。


 それに、以前の木の移動の件もあるから、皆が居る場所などでをしない様にしているのも大きな要因だったりする。あのような事が簡単に頼んでしまえば出来てしまうというのは、僕的にちょっと考えるところがあるからなおさら頼むのは難しい。



「ロイド」

「なに?」

「何を考えてるんだ?」

「ん~? 特に何も考えてないけど?」

「そうか? どこか上の空な感じがするが……」

 今僕は父さんと一緒に以前来た川岸に来ている。僕や父さんだけではなく、ガルバン様やアスティ、そして両家から護衛と作業要員として数十人が一緒に作業をしている。


 簡単に村をつくると言っても、まずは土地を均したりしなければならないし、人の住む場所を確保したり、水場を整備したりしなければならない。

 出来る限り住みやすい環境にする事が言いに決まっているので、そのへんの事はガルバン様と父さんが話し合いながら場所などを選定して行っている。


 集められた人たちは、周りから木を切って来て家の土台作りなどをする事になっているので、それぞれが作業を割り当てられ懸命に汗を流していた。


 僕は何故連れてこられたのかというと――。


「アルト!! テオ!! マオ!! おいで!!」

「ばう!!」

「わふ!!」

「きゃん!!」

 呼ぶとすぐに僕の所に来てくれる3頭の頭を撫でながら、アルトに向けて指示を出す。


「アルトとウルフの皆は周りの警戒をしてくれる? 何かあれば大きな声で吠えて教えてね」

「ばう!!」

 アルトが返事をすると、テオとマオに向けて何やらワンワンと話をし始める。しっかりとアルトから伝言が伝わっているのか少し不安だけど、2頭共に大きな声でワンと一鳴きして、一緒に来ていたウルフ達を引き連れてテオは森の方へ、マオは僕達が居る場所の周辺へと別れて駆けていった。


「あれ?」

「わう?」

「アルトはいかないの?」

「わうん」

 こくりと頷くアルト。そのまま僕の周りをぐるぐると回り始める。


「あぁ、僕の事を護ってくれてるのか!!」

「わん!!」

 頭を撫でて上げると、耳を少し垂らして尻尾がぶんぶんと大きく揺れる。


 バルとベルは今回は一緒に来てはいない。村の原型が出来るまでの少しの間、屋敷の方を留守にするので警護役として残ってもらった。

 ベルは僕と一緒に来たがったのだけど、屋敷から出ようとしたところをフィリアに抱きしめられた事で一緒に来る事を諦めたようだ。



「ロイド様!!」

 少し離れた所から僕の事を呼ぶ声が聞こえて、そちらの方へと振り向く。



「フレック!!」

「連れてまいりましたよ!!」

「ありがとう!!」

 フレックが御者となって1台の幌馬車を駆って向かってきていた。


 今回の村づくりは、領主である父さんが主導で行うのだけど、その実際はガルバン様の興味である『魔法の効果』を試すためという面もある。

 なので、ガルバン様やアスティも一緒に来ているのだけど、今はまずは住む場所という事でガルバン様もみんなと一緒に汗を流している。アスティはというと、人数が人数なので食事の用意をするために、屋敷から一緒に来ていたメイドの皆と共にその準備を手伝っていた。

 なんでも花嫁修業の一環としてとメイリン様にも言われているらしく、真剣な表情で取り組んでいるので、とても邪魔できるような雰囲気じゃないから声すらかけづらい。


そして忘れてはいけないのが、今フレックが幌馬車で運んできてくれた人達。



「みんなお疲れさま!!」

 僕の側まで来た幌馬車は既に停車していて、幌の中からぞろぞろと人が降りてきている。その中には子供を連れた人もいるし、家族そろってきてくれたような人たちの姿も見える。


「とりあえず、あと2台ほど人数が揃えばこちらに向かってくることになっています」

「え? ちょっと多くない?」

「いえ、旦那様からそういう指示が出ております」

「父さんが……。まぁいいか」

 フレックと話をしていると、その周りに人だかりができていた。



「本当にロイド様だ……」

「大丈夫なのか?」

「ウルフの群れが居るわ!?」

「怖いよぉ~……」

 集まった人たちから様々な声が漏れる。


「あの子達は心配ないよ。ここにいるアルトと同じで、僕の友達だから」

 怖がる子供の側に行き、その子の頭を撫でながらニコッと笑う。そしてその子の頬をペロッとアルトがなめた。


「ほんと?」

「うん。本当だよ。安心していいよ。あの子達は人を襲わないから。それにこの場所を警護してくれているんだよ。みんなを護るためにね」

「……なでてもいい?」

「アルトいいよね?」

「わん」

「いいってさ」

 ジッとしながら子供に撫でられるアルト。



「さて皆さんようこそ新しい村へ。とはいってもまだ家もないのですけど、これから皆さんと一緒に作り上げていきましょう。よろしくお願いします」

 僕がみんなにぺこりと頭を下げると、少しだけざわついた。


「本当に頭を……」

「あぁ俺達みたいな者にも下げるとは」

「貴族様が頭をねぇ」

 頭を上げてみんなを見渡すと、同じような言葉が漏らされている。


「だから言ったでしょう? ロイド様は他の貴族とは違いますよ。まぁそれはアイザック家もアルスター家も同じようなものですけど」

「どういう事?」

 フレックがみんなに向けて少しため息交じりに話をしているのを聞いて、僕がフレックに問いかける。


「えぇ。ここに集められた者たちはドランの町にいた者たちだけじゃなく、よその土地から流れて来たものもいるのです。その……よその土地ではあまり待遇が……」

「なるほど……」


 新たに村をつくるので、ドランの町でその村に住んでくれる人たちを募集していたけど、話を聞きつけたよそに住む人も応募してきたようだ。

 そういえばと集まった人たちを見ると、多くは犬族のような耳と尻尾を思った人、ネコ族のような小柄な体躯の人、熊族のように大きな体躯の人などが居て、数人人族が居る程度。


――話には聞いていたけど、よそってどうなっているんだろう?

 アイザック領から出たことのない僕は、アイザック領での人々の暮らし程度しか知らない。それもドランの町の中くらいまでの事しか知らないので、尚更よその町や領の事は予想すらできない。

 こうしてよその町や領から来た人がする話を聞くことが出来るので、聞いていた話がどうやら本当らしいという事は何となくわかる。


「安心していいよ。ここに作る村は皆に住んでもらう事になるから。ただ……」

「ただ?」

 僕がその先を言うのを躊躇っていると、集団から一歩だけ前に出た人が僕に問いかけてくる。


「えっと?」

「あぁ。俺は……ううん!! 言葉遣いがなっちゃいねぇのはどうか許して欲しい。俺はこいつらのまとめ役になった狼人族のバイアだ」

「僕もあまり言葉の事は気にしてないから、そのままでいいよ」

「そうか? ならこのまま話すが、ここに村をつくるって話は聞いている。そこに住んでいいという話もだ。でも何かしなくちゃいけないとも聞いているんだが、それは今ロイド様が話そうとした事と関係があるのか?」

「それはね、この村は――」


「それは私が説明しよう」

 僕がバイアへと向けて話をしようとした時、僕の肩に手を添えながら隣にスッと並んできた人影が変わりに返答する。


「ガルバン様……」

「ロイドここから先は私にも関係する事なので、私が説明しよう」

「わかりました。よろしくお願いします」

「うむ」

 ニコッと笑いかけてくれたガルバン様に、僕も笑顔で答える。


 そこからどうして新たに村をつくる事になったのかというところから説明が始まり、この新たな村が魔法を使った事の試験をするための村である事、村では主に作物などを造ってもらうことなどを説明していく。


――さすがガルバン様だ。わかりやすい。

 隣で聞いている僕はガルバン様の説明を聞きながらそんな事を思う。



「質問いいですかい?」

「うむ。かまわん」

「ありがとうございます。その……その試験? がうまくいかなかった場合、わしらはどうなるんで?」

 熊人族と思われる人が恐るおそるという感じで、ガルバン様へ質問する。


「どうなるとは?」

「いえですから……村から追放とか……になるんですかね?」

「あはははははは!!」

 ガルバン様が突然大きな声を出して笑いだし、それに集っている人達が驚く。


「そんな事は無いから安心していい。というかここの村長がそんな事を許さんだろう」

「村長様……ですかい?」

「あぁ」

 僕の方へとチラッと視線を向けるガルバン様。


「この村で行う事は、今まで誰もしてこなかった事なのだ。だからこそ失敗などは当たり前に起こるだろうし、それに伴って作物が全く育たないという事もあり得る。だがしかし、その事でなにか罰があるとかいう事は無いから安心していい。逆にこちらから支援をするつもりでいる」

「ほ、本当ですかい!?」

「あぁ。それは約束しよう。な? ロイド」

「え? は、はい」

 僕の背中をバン!! と叩きながら皆に笑顔を向けるガルバン様。


「もう一つ質問しても?」

「なんだ?」

 先ほどのバイアが今度はガルバン様に声を掛ける。


「年貢……などはどうなんです?」

「その事か。年貢は当面は取らない事になっている。というか当面はうまくいくかもわからんのだから取れないだろう。生産が軌道に乗るようになったらそこから2,3割分は収めてもらう事になるだろうな」

「へ? 2、3割でいいんですか?」

「あぁ。そのほかは自分たちで消費する分もあるだろう? それでも余るようならアイザック家に買い取ってもらうも良し、町で売っても良しだ」

「それは……話がうますぎるのでは?」

 いつの間にか最初に到着していた人たちの後ろに多くの人達が集まって来ていた。フレックが言っていた後発の馬車も到着したのだろう。そして降りてきた時にそのような話をしていたので、自然と集まってきて耳を傾けていたのだろうけど、その中からも疑うような声を上げる人達も出てくる。



「嘘は言わんよ。もともとこの村をつくるにあたり、仕事として住んでもらうことを考えついたのはここにいるロイドだ」

「え!?」

「はぁ!?」

「あんな小さい子が!?」

 ガルバン様の話に大きなどよめきが起こる。


「そうだ。そのロイドがここに住んでもらう人々を苦しめるようなことをすると思うか? 仕事が無い、住む場所が無い人達のために新たに村を造ろうと言い出したロイドが、そんな酷い事をすると思うか?」

「それは……」

「……と、言う事はこの村の長というのは……」


「そうだ。この新たにできる村の村長はここにいるロイドにしてもらう事になっている」

「え!?」

 ガルバン様から突然もたらされたことにビックリする僕。


「いやいやいや!! 僕聞いて無いよ? 嘘ですよね?」

「うん? いや嘘ではないぞ。マクサスとも話をしてそのようにする予定だ」

「いや……だって僕はまだ……」

「心配するな!! 私たちももちろん協力する」

 僕はガルバン様を見ながらどうにかならないかを顔で訴えた。でもガルバン様はそんな僕の頭にポンと手を置いて優しい言葉をかけてくれるだけ。


「ロイド様が村長か……」

「あんな小さな子が村長ならわしらが頑張らにゃ!!」

「そうだな!! わしらの為に考えてくれた事ならわしらがそれに応えなきゃな!!」

「そうだそうだ!!」

「よし!! やるぞ!! まずは作業を手伝うんだ!!

「「「「「「「「「「おう!!」」」」」」」」」」


 僕が何かを言うよりも前に、新たな村に住むことになる人達が纏まりを見せると、男の人達は村の予定地になる場所で作業する人たちの元へ駆けていった。数は少ないけど女の人達はアスティ達の方へと向かって歩いていく。

 その様子を黙って見つめる僕とガルバン様。


「ロイド、人気ではないか」

「え? そんなこと無いですよ……未だにあの噂だってありますし……」

「人とはな、確かに噂に惑わされ、踊らされることが有るのは事実だ。私もそうだったからな。だが、目の前で見た一つの真実とは、それだけで感情を変えられるものなのだ」

「…………」

「私がロイドと話してみてそうなったようにな」

「ガルバン様……」

「さて、私たちも出来ることをしようではないか」

「はい!!」


 ガルバン様と並んでみんなの元へと歩いていく。


――え? でも僕が村長になるのは決定なの?

 笑顔で作業をする人たちを見ながら、僕はちょっとだけ先の事を思って心配になった。




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