ピロロッ。
ラインの通知音に、葉月はヘアドライヤーを切ってスマホに飛びついた。
帰ってからも、風呂に入っている間も、ずっと連絡が来ないかと待っていた。そう、西島からだ。
『お疲れ。森永と渡辺に、間宮が15年前の事件の被害者家族だと報告した』
絵文字も顔文字もない、用件のみの素っ気ないラインに苦笑する。
そんなこと知ってる。それでどうだったのかまで言って欲しいのだ。そして今どういう気持ちなのかを。
『お疲れ様です。大丈夫ですか? ブルトーザーは何か言ってましたか?』
──と、絵文字を交えて直ぐに返信したが、それから小一時間は経っている。
葉月は次第に苛々してきた。
「もおぉぉぉっ! これだから、オ、ジ、サ、ン、はッ! イヤーッ!」
声を上げ、枕を何度もベッドに叩きつける。
階下から、母親のいい加減にしなさいと言う声が聞こえて来た。
「もうっ! 知らない!」
ピロロッ。
「来たッ!」
知らないと言った割に、即座にスマホに飛びつく。
西島だ。
『悪い。バッテリー切れた。
渡邉が、15年前の事件も間宮が関わっているんじゃないかと言い出したよ。
流石に無理があると思うけどな』
充電ぐらいしなさいよ! 心の中でそう叫びながら、鼻に皺を寄せて手足をバタつかせる。
ピロロッ。
「ん?」
友達からだろうか。
のろのろとスマホを手にして通知を見る。
「ウソ。西島さ──」
葉月は連投され、通知に表示された短い文を読み、心臓がキュッとするのを感じた。
『ホントは直ぐにお前に電話して声が聞きたかったんだけど、竹さんに捕まった。
また、飯行こうな』
「イヤー!」
思わず声が漏れる。また、母親が下で怒っていた。
しかし、葉月はすっかり舞い上がっており、母親の声など何処吹く風だ。
通知を何度も眺め、ベッドでゴロゴロと転がり、泳ぐように足をバタつかせた。
直ぐに既読を付けないで置こうかな。
なかなか返事が来ないのが、どんな気分か思い知らせちゃうぞ。
そう思いつつ、うっかり画面にキスをした。
瞬時にトーク画面が表示される。
「ヤバ。既読付いた……。よね……」
葉月は西島がラインを開いていないことを願ったが、結局直ぐに返信した。
『是非行きたいです!』
ハートを付けるべきか迷ったが、重たいと思われたくなくて、嬉しそうな絵文字だけ付けた。
そこから何度もトーク画面を確認し、既読を待つ。
葉月の気力も途切れそうになった30分後、ようやく既読が付いた──が、返事はなかった。