「サンシャインフォーム……ファイアカロリーに、こんな力が……!?」
ニトロクリーマーは、初めて目の当たりにするファイアカロリーの力に圧倒されている。ファイアカロリーが初めてこの力を見せたのは、間ヶ部大翔が変身したフィンガーライム重人との戦いだったが、どうやらその時の情報は意図的に伏せられていたらしい。恐らく、欧田華麗が情報を正しく上げていなかったのだろう。彼もまた、飽食に背信する人物だったのだろうか。
「うおおおおおおっ!」
強烈なパワーを溢れさせ、ファイアカロリーが超重人キャンディへと突撃する。対するキャンディは槍状に変化した棒飴を構え、迎え撃つようにしてファイアカロリーへその刃を差し向けてきた。
キャンディの体色は鈍色で、その動きはさほど早くはない。サンシャインフォームを発動させているファイアカロリーならば、決して避けられないスピードではないはずだ。しかし、ファイアカロリーは敢えてその一撃を避けることはせず、向けられた刃を額で受け止めるかのように躊躇なくそのままぶつかった。
「っ!?」
槍状の棒飴は、先端が刃のように薄く研ぎ澄まされている為か、当然ながら強度が下がっている。その分、脆くなっていた先端はファイアカロリーの頭部に触れた瞬間、ジュッと音を立てて蒸発し、そのまま折れた。
超重人キャンディと言えど、彼の作る飴はMBNで再現された
そして、唸りを上げて炎を纏うファイアカロリーの拳が、キャンディの顔面を捉えた。しかし、ゴッ!という鈍い音はしたが、それは有効打にはなっていない。
「くっ、コイツ、なんて硬さなんだ…!でも、硬いだけなら!」
パンチを弾かれたファイアカロリーだったが、すぐに次の攻撃へ打って出た。パンチそのものは効果が無くとも、よく見れば拳の形に顔面の飴がほんの僅かに溶けている。キャンディの弱点は恐らく熱なのだ。それに気付いたファイアカロリーは、間髪入れずにスーパーカロリーバーナーを放った。
「スーパーカロリーバーナー!」
「むっ…!?ぐぅぅぅぅ!」
超高温の火炎が放たれ、流石のキャンディも両腕で炎を防ごうとしていた。だが、全身を包む勢いの火炎は、両腕で庇った程度では防げるものではない。このままならば勝てる、ファイアカロリーがそう思った時だった。
「おおおおおっ!フレーバーチェンジッ!アップル!」
「えっ!?」
キャンディがそう叫ぶと、今まで鉄を思わせる鈍色だった体色が一瞬にして真紅に変わった。ただ身体の色が変わったというだけではなく、どうやら赤い色は炎への体勢を高めているようだ。変化したキャンディは炎を物ともせずにファイアカロリーの懐に飛び込み、強烈なタックルを仕掛けてきた。
「し、しまっ……うわぁっ!?」
「ファイアカロリー!」
予想外の反撃を受けたファイアカロリーは、そのまま押し倒されて今度はキャンディが馬乗りになる形となった。しかも、そのまま一切の容赦なく、ファイアカロリーの顔面に拳を落としていく。それはまさに怨みを晴らさんとする修羅の如き猛攻であった。
超重人キャンディ……素体となった人間の名を、
幼い頃から先代や先々代の背中を見て育ち、生涯現役を標榜してこの歳まで飴作りに取り組んできたが、寄る年波には勝てなかったのか最近では味を感じる能力が落ちていた。そこで手を出したのが、
紫綬褒章も目前かと囁かれる中、甘味グループは彼の能力に着目し、すぐに仕事を依頼する。日本の菓子業界において、甘味グループの名と影響力を知らぬ者はおらず、飴家もまたこれをチャンスと考えた。飴家は持てる力の全てと最高級の材料を使って完璧なまでの飴を作り出し、飽食の元へ届けた……のだが。
「不味い。余計な雑味だらけだ。これを作ったヤツは誰だ?……ああ、あの老人か。すぐに調べろ、
その飽食による鶴の一声で、一斉に飴家の調査が始まった。日常生活の裏取りや身体情報の確認、更には日々の睡眠時間からトイレの回数まで……ありとあらゆる個人情報が、数十人の探偵や家族への聞き取りと違法捜査によって詳らかにされ、遂に飴家の違法薬物使用が明らかとなったのである。
もちろん、それは世間には公表されることはなかったのだが、業界には一気に広まった。当然、菓子業界に絶大な影響力を持つ甘味グループから菓子職人失格の烙印を押された飴家は、一夜にして全てを失ったのだった。
「飴家……貴様は飴細工職人として、いや、食事を作る全ての料理人へ背信する行為に手を染めたのだ。貴様を業界から排した事に後悔はない。……しかし、貴様はそこまで私を怨んでいたのか」
ニトロクリーマーは、狂ったように拳を振るうキャンディの背中に向けて呟いた。その言葉はキャンディに届いていないが、飴家はそれに応えるように叫びを上げた。
「飽食……飽食ゥ!殺す、儂から全てを奪った奴を殺してやる!その邪魔をするお前もっ!死ねぇっ!」
「……!今だっ!」
渾身の一撃を振るおうとキャンディが腕を振り上げた瞬間、ファイアカロリーは、ブリッジするように腰を跳ね上げた。本来、マウントを取られた状態なら反撃は難しいが、キャンディが腕を振り上げた事でその体勢が崩れやすくなっている。ファイアカロリーはそこをついてマウントから脱出しようというのだ。いかに超重人と言えど、飴家は格闘技の素人である。武術を学んでいるファイアカロリーならば、その隙を衝くのは難しいことではない。
「ぐ、おぉっ!?」
予期していなかった後方から力を加えられ、キャンディは前のめりにつんのめった。そのがら空きになった鳩尾へ、ファイアカロリーが両手掌底を叩き込んで打ち上げ、撥ね飛ばす。キャンディは堪らず前方へ転がって息を吐き、すぐには立ち上がれないようだ。
「さっきみたいな硬さじゃない。そうか、炎に強くなった代わりに、防御力が落ちているんだ!」
窮地を脱したファイアカロリーは、のたうつキャンディの様子を見てそれを確信した。チャンスは今だ、ここでトドメを刺す以外にないだろう。そのまま立ち上がって大きく息を吐き、全身の力を練り上げ、高めていく。そして、熱と力が最大に高まった瞬間、ファイアカロリーは高く飛んだ。
「オーバーメルト…キィィック!」
それはちょうど、キャンディがよろめきながら立ち上がったのと、ほぼ同時であった。全身に炎を纏ったファイアカロリーは、背中から炎を噴射して加速する。よろよろと立ち上がったばかりのキャンディは成す術なくそれを受けるしか出来なかった。
「おおお…!?ば、バァーニーィィィングッ!!」
オーバーメルトキックが炸裂し、超重人キャンディは炎を吹き上げて爆発した。だが、事態はそれだけでは終わらなかった。キャンディはその身体に爆発するパイン味の飴を大量に所持していて、炎がそれらに引火し、凄まじい誘爆が始まったのだ。
「な……や、ヤバッ!」
「く……まさか、奴らここまで見越して……!?うおおおっ!」
爆発の中心にいたファイアカロリーとニトロクリーマーは、二人共その衝撃の中に消えた。近在するいくつものビルが倒壊し、騒ぎが大きくなる。ハイカロリーを巡る最後の戦いの幕は、こうして上がったのだった。