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2章…第7話

「わぁ…!カッコいいマンション!」


霧子と錦之助が、約束通り新居のマンションに遊びに来てくれた。


「ホントだぁ…俺も彼女とこういうマンションで同棲しようかな…」


「…できてから言いな?」



2人のやりとりがおかしくて笑ってしまう。


「まぁまぁ…!今日は吉良さんもいるし、皆で楽しもうね!」」



私は2人にそう言いながら上がってもらった。



「今日は焼肉パーティーだよ!吉良が美味しいお肉買ってくれた!」


「マジ?うわぁん…!吉良せんぱぁい…相変わらずカッコいい…!」


キッチンで準備をする吉良に後ろから抱きつく錦之助。


「…キモいからやめろ!お前だけスジ肉食べさせるぞ」


「うわぁん…相変わらず俺には冷たぁい…!」


2人のやり取りに笑いながら、ただ1つ気になること…



「はじめまして…モモ…桃音の大学の同期で、霧子と申します」


「同じく…錦之助です。俺は吉良先輩の完全なる下僕…いいように使われる…後輩です!」



「…どうも。香里奈です」



礼儀正しく、そして盛り上げようと明るく挨拶をしてくれた錦之助と霧子は、アンニュイを通り越して無愛想な香里奈さんに撃沈した。



「…じゃあ、はじめようか?」



まずは火の通りにくい野菜をプレートに置いて、次に肉を置く。

皆で各々肉を焼いて食べる焼肉パーティーながら、私は菜箸を持ったら動けなくなるタイプ。


どんどん焼いて、皆のお皿に入れてあげたくなる…




「錦之助、研究室はどうだ?教授はみんな、元気か?」


「えぇまぁ…変わりないですけど…難しい数式ばっかり解いて脳みそ使ってるせいか、どの教授も頭がどんどん薄くなってます!」


「それ昔からだよ…!」



ケラケラと笑う男子をよそに、私は霧子と顔を見合わせながら、香里奈さんに話を振った。



「か…香里奈さんの髪色、すごく綺麗ですね?…何色って言ったら、そんな色になるんだろ…?」


私も染めてみたいな…と続ける霧子が、気を使って話しかけてるのがわかる。


霧子は黒髪を愛する恋人の希望で、1度もカラーをしたことがない。

つやつやサラサラの黒髪ボブがトレードマークだ。



「…グレージュ」



ひとことだけ返す香里奈さんは、話を広げようとしないので、すぐに会話は終了する。


私は慌ててそれを拾い、投げ返すのに必死だ。



「え…あっ!グレージュだって!霧子、メモった?グレージュだよ?」


「グレージュね!うん!わかった!」


「…」



そんなやりとりをしていると、隣に座る吉良が話に入ってきた。



「グレージュがなに?…モネはそんな色に染めるなよ?派手になって、目立ってほしくない」


「…出ましたね?吉良先輩のモネ溺愛トーク」


「当たり前じゃん。それでなくてもモネはあちこちの男にモテるんだから、マジで心配」



もう…やめてやめて…!

吉良が話すのを、顔を上げて聞きはじめた香里奈さんが、面白くなさそうに険しくなってる。


そして口を歪めて笑い出す。



「…そんなに男を魅了するなら…この人、吉良のいない間になにするかわかんないね」



私を指差して放った言葉に、一同唖然として固まった。



「...いやぁ〜…ないですよっ!モモはちょっとヤバいくらい吉良先輩のことが好きなんですから〜!他の男なんて見えてないですって!」



錦之助がそう言ってくれたけど、香里奈さんはまだ口元を歪めたままだ。



「吉良先輩だって、実は溺愛してたのを隠すほどモモを可愛がってて、2人はもう相思相愛…」



「へぇ…吉良がねぇ…?…昔は相当なものだったのにね…?」



香里奈さんの言い方は微妙に曖昧だったけど、女性関係のことを言っているのはわかった。



「吉良先輩が相当だったって…女性関係のことですか?…大学では女の人から隠れるみたいに、研究室から出なかったんですよ?」



錦之助の言葉に、香里奈さんはなぜか…いかにも面白そうに笑い声をあげ、意味深に私を見た。



「…今日はこのへんにしておいてあげる。…私はちょっと出かけて来るから」



香里奈さんは急にそう言って、玄関を出て行ってしまう。


…瞬間、漏れるため息。



「…なんかごめんな。妹が変なことばかり言って」



淀んだ空気を変えるように、吉良はまたお肉を焼き始め…私のお皿にもポイポイ入れてくれる。



「あぁ…こんな早いスピードで食べられないよ…!」



温かいうちに食べようと、パクパク口に運ぶ私を見て、霧子と錦之助が笑った。


………


久しぶりにお酒も入り、私はすっかり出来上がってしまった。



「珍しいね…モモがこんなに酔うなんて」


「香里奈のせい…ひいては俺のせいだな」



吉良が私を自分の胸に寄りかからせ、人間座椅子になってくれた。


霧子と話す吉良。

私の頭の上を、会話のボールが行ったり来たりしているのが見えるみたい。



「香里奈さん、いつ、帰るんですか?」


「近く転職先の合否が出ることになってるそうだ。それがどちらに転んでも、俺はもう出ていってもらおうと思ってる」



「そうですか…。モモ、すごく香里奈さんを気遣ってるくせに…私に言ってました。なんとか仲良くなりたいって」



吉良は霧子にそう言われて、確かめるように私の顔を覗き込む。

…こめかみに吉良の頬が当たって嬉しい。



「できれば、モモの優しい気持ちが香里奈さんに伝わるといいと思いますけど…」


「多分、無理だ」


「…え?」


「香里奈とモネが仲良くなるのは、多分難しい」



ぼんやり聞こえる話…吉良の声はまだ続いた。



「俺が結婚するってことは、実家との決別。俺の過去を知る家族は、幸せを脅かす脅威でしかない」



…それ、どういう意味?



ぼんやりする頭の中で、確かに聞き取れた吉良の言葉は、私ではなく霧子だったから言えたことだろうと思った。


でも…



「…吉良さんがいくらそう思っても、家族と縁を切るのは難しいと思いますよ。それに…」


「それに…?」


「なんだか、寂しいなって…」



霧子ありがとう…私もそう思った。


酔った私の代わりに思いを伝えてくれたみたい。


なのに、吉良の冷たい言葉は終わらない。



「寂しくない。家族は…厄介だ」





「ねぇねぇ…なに深刻な話をしてるんですかぁ?俺も仲間に入れてくださいよぅ…!」


私と同じく少し酔った錦之助が話の輪に入ってきて、シリアスな雰囲気は一変。


私も復活して、また4人でプレートをかこんだ。



…私は、香里奈さんはいったい何処へ行ったのだろうと思っていた。


酔っていたけど、その日は夜遅くなってから雨の予報だったし、折りたたみ傘を持って行ったかな…と頭をかすめる。


そして、そんなことを考えている自分が、いかに呑気だったかと…このあと思い知らされることなる。


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