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2章…第2話

「なにこれ…マズっ!」


香里奈さんはお皿におにぎりを放り出したので、がぁぁぁ…ん…と、音がしそうなほどショックを受けた。


おにぎりがまずいって、あんまり聞かない…。


香里奈さんは私のショックに気づかないようで、電話の向こうの吉良と楽しく話を続けていた。


「え…今?…吉良のマンションに来てるのよ。百合子さんに教えたでしょ?」


百合子さんというのは、確か吉良のお母さまの名前。


…お母さまが吉良の新しい住まいの場所を尋ねたのは、香里奈さんのためだったのかもしれない。


…私はトボトボおにぎりのお皿を下げ、キッチンで1つ食べてみた。



「…ゲッ、なにこれ!」



塩加減を間違えたみたいで、すごくしょっぱい…。

これならさっき、香里奈さんに「マズイ」発言されても仕方ない…。



振り返ると、香里奈さんは頬を膨らませて、電話越しに吉良となにか言い合っているみたいだ。



「いやだ!帰らない!」



ひときわ大きく吠えると、香里奈さんはブチッと携帯を切ってしまった。


そしてどこかへ電話をかけ、何やら少し話したあと、私に携帯を押しつける。



「…もしもし…」



わけがわからないまま携帯を受け取るも、嫌な予感がしなくもない。

でも…差し出されたからには受け取ってしまうじゃない…?


電話の相手は私だとわかっていたのだろう。



「先日はどうもね…桃音さん…」



やっぱり、吉良のお母さまだった。



「こちらこそ、お邪魔しました」



挨拶を返すと、電話の向こうで妖艶な笑い声が響き、信じられないことを言い出した。



「あのね、香里奈さんのこと、しばらくそちらに滞在させてあげられないかしら?」


「え…っとあの…」


「香里奈さんね、今転職の真っ最中なのよ。それで、働きたいエリアが吉良の住まいの近くだって言うから…」



なんと…無事に転職し、一人暮らしするためのお金が貯まるまでいさせてやれという。


…さすがに、吉良に聞いてみなければわからない…だけでは乗り切れそうもない。


私は意を決して言った。



「…へ、部屋…狭いですけど…いい、ですか」




…………


「で、受け入れてしまったと?」



会社から帰った吉良が、スーツを脱ぎながら半笑いで私を見る。



「ごめんなさい…バシっとお断りしたかったんけど、実際口から出た言葉は真逆だった…」


「そういうとこが可愛い…そして心配…!」



抱き寄せて、優しくキスをしてくれる吉良。


スーツ姿の破壊力が凄まじくて、つい私からもギュっと抱きついてしまう。



「あぁ…スイッチ入るなぁ…」



ドアが閉まっているとはいえ、目の前の部屋には香里奈さんがいるというのに…!


私は慌てて吉良から離れて、スイッチを切ってもらおうとした。


吉良もそれがわかるのか、再び私に触れようとはしない。



「…こういう状態が続くとか…地獄だな」



吉良は私の頭を軽く撫でてから「出て行かせるわ」と言って、香里奈さんがいる部屋をノックした。



「はぁい…」



返事がしたので、吉良がドアをガチャッと開ける。


が…!

私も後ろにいたから、それが目に入って驚いた…!


なんと着替えの真っ最中。

スキニージーンズを下ろしている途中で、Tバックのヒップが突き出されていた。



「はぁい…じゃないだろっ!」



バタン…っとドアを閉め、吉良はため息をついて後ろにいる私を見たので、若干目が泳いでるのがわかる。


2人で目を見合わせて、もう一度ため息をついた。


今の…絶対わざと見せたんだ。


吉良が私の話を聞いた後、自分になにか言いに来るって、わかっていてあんな格好になって…。


吉良は別に様子はおかしくないけど…女性のあんな姿を見たら、少しは動揺するだろう。

なにせ精力絶倫なんだから!


なにかあるわけじゃないけど…やっぱり自分以外の女性との接触は心配…。




夕食は吉良が手早くパスタを作ってくれた。

私はそばでサラダ係として働く。


香里奈さんは先にお風呂に入っていた。



やがてタオルを髪に巻きつけて、バスローブ姿の香里奈さんが出てきた。



「香里奈。ちゃんと着替えてこないならパスタは食べさせないぞ」



そのままソファに座った香里奈さんに、吉良が厳しい表情で言った。



「えー…私だけ仲間はずれぇ…?」



あざと可愛い表情を作って、吉良を下から見上げる香里奈さん。


…その手が吉良に触れたらどうしよう…



「当たり前だ。まぁ、どっちにしても明日には帰ってもらうけどな」



私から見れば、殺傷能力最強のあざと可愛いも、吉良にかかればこっぱ微塵だとわかってホッとする。



「やぁ…だ。やだよぉ…吉良ぁ…」



おおっと…香里奈さんの甘えん坊は、まだ終わってなかった…


ため息をついた吉良は、とりあえず着替えてくるよう言ってパスタを与えてあげるらしい。




「ホントに本当なの。…私、この辺で仕事をしたいと思ってて、これから面接も決まってるの」



香里奈さんの仕事はデザイン系らしく、今までは地方の実家を拠点にリモートで仕事をしていたらしい。


でも、何か心境の変化があったようで、東京で一人暮らしをして、会社へ出勤する働き方に変えたいと思っているという。



「そっか…意外にまともな事を言うから少し驚いた」



吉良はそう言って、パスタを口に運ぶ。



「うん。私だってちゃんと考えてるんだよ?だから…少しの間ここに置いてよ…!」


「とりあえず、桃音と相談してから返事をする」



そう言って横にいる私を見つめた吉良。


吉良がそんなつもりで私と目を合わせたわけじゃないとわかっているけど、香里奈さんの話を聞いて、私の気持ちは決まっていた。



「…だったら私は、会社が決まるまで、ここに香里奈さんが滞在することに賛成しようかな…」



そりゃ…妹とはいえ血の繋がらない家族だし、スーパーナイスバディの超絶美人が吉良の周りをウロウロするのは不安ではあるけど…


これから就職する私自身と転職する香里奈さんが少し重なって…頑張って欲しいなぁ…って思ったんだ。


だからそう言ったんだけど…


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