目次
ブックマーク
応援する
3
コメント
シェア
通報
2章…第1話

場所と広さ、それに立地条件を比較検討して、吉良と住むためのマンションは2つに絞られた。



「俺は安全を一番に優先したい。…いくら一緒に暮らすと言っても、出張もあるからな」



もっともなことを言う吉良に、私も優先順位を伝えてみる。



「私は…キッチンの設備かな…?」


「モネは料理しないだろ?ハイ却下!」


「…ひぇ…」



速攻でバッサリやられ、吉良がいいと思うマンションを契約することに決まった。


とは言っても…吉良と一緒なら正直どこでもいい…!



………


契約を終え、早速引っ越した。


家具はほとんどが吉良の部屋にあったものを使うことになったのだけど…


「ベッドは新しいのを買おう」


と言う吉良の意見で買い替えることになった。


…まだ傷んでないし有名メーカーのものでしっかりした作りだし、1度ベッドパッドを取り替えたと言うのに、買い替えることを吉良は譲らなかった。


大きなベッドだから2人でも余裕で眠れた…と思ったそばから別の考えが浮かんでくる。


…もしかして、私以外の誰かと寝たのかもしれない。


…なんて妄想したら、私も新しいベッドの方が良くなった。


結婚したら住まいを移すつもりで賃貸にしたので、広さは2LDK。

今までの吉良のマンションより少し広くなった感じだ。


2人分の食器を買い揃えて、ラグマットやバスタオルも買って…気分は完全に新婚さん。



「あ…モネのパジャマも新調しようぜ」



寝具売り場を回っている時、吉良が思いついたような悪い笑顔を見せる。



「私の…?」



…ちょっと警戒してみると、早速手を引かれて売り場に連れて行かれる。



「こういうの着て寝て欲しい」


「こ…れ?」



要するにそれは…スリップというやつ…


細い肩紐と布程度の薄いブラパッド、胸下から切り替えて、膝下あたりまで光沢のある薄い生地がスカート状になっている。


しかも切り替え部分から足元まで、前に深いスリットが入ってる…


つまり、すごくすごくエッチなやつ…


「うん…寝るときはコレね…!」



この際、希望はなんでも聞いてあげよう!…でも、洗い替えのためにもう一着欲しいな…と思っていると、心得たように吉良が言う。



「もう一着必要だろ?だったら、こっち…!」



わぁ…なんだか吉良、楽しそう!


ちょっと売り場を変えて、連れて行かれたのはキャラクターグッズのコーナー…?



「冬限定になっちゃうけどな。夏になったらまた考えるから」



平然と差し出されたのは、猫耳のついたフード付きのモコモコしたトレーナーとショートパンツ。


…これはこれでちょっとエッチ…



そして翌週の土日で引っ越しを完了させ、私たちの甘い新居での生活が始まった。




…はずだった。



引っ越しの翌日。

名残惜しく吉良を会社に送り出し、残りわずかな大学の授業がなんだったか確認していたところへ…


突然鳴り響くインターホン。



「こんにちは、桃音さん」



モニターに映った人を見て、私は一瞬固まってしまった。


それは…吉良の血の繋がらない妹、香里奈さんだったから。



………


「あ…こん、にちは」



出てしまった以上開けないわけにはいかない。


吉良は会社に行って留守の…平日の昼間。

まさか香里奈さんが来るなんて、実家でなにかあったのかと不安になった。



「…住所、呆気ないくらい簡単に教えてくれるんだもん」



玄関を開けた私に、笑顔ではなく呆れたような言葉を投げてきた香里奈さん。


昨日かかってきたお母さまからの電話に、吉良が新住所を伝えていたのは知ってる。


香里奈さんは、案内する前からあちこちドアを開けて中を見ていくので、私は慌てて後ろをついて歩いた。



「ま、まだ…全部片付けてなくて」



なにしろ引っ越しは昨日。

今日は荷解きと整理整頓の真っ最中になるはずだったのだけど…。



「部屋、2つあるじゃない」


「…え?」



確かに、広い方の洋間にはすでに、新しく買ったベットが配置され、もう一つの洋間はまだほとんど何も置いていない。



「私をここに置いてくれって頼んでるのよ!」



…とても頼み事をしている人には見えず、すごい圧が私を押しまくった。



「あの…とりあえず、吉良さんに聞いてみないと…」



大柄で目鼻立ちがハッキリした香里奈さんの迫力はすごい。

…でも、勝手にOKできないし、それに、それに…


やっと2人の空間ができあがったというのに…2人でいられないなんて、ちょっと残念というか…


やだ…。


ネチネチ考えていたら、自然と口がとんがっていたらしい。

香里奈さんが私の顔を見おろして面白くなさそうに言った。



「…迷惑、って顔に書いてある」


「…えぇっ?あの、突然だったので、その…すみません」



私では話にならないと思ったのか、香里奈さんはその場で携帯を取り出したので、私は今さらながらソファに案内した。



「…ダメ。出ないわ」



吉良に電話しているらしい。

そりゃ…仕事中に電話してもそう簡単に出てはくれないだろう。



「あの…多分12時半頃なら出ると思います。…私に連絡してくるのは、平日だとだいたいその時間なので…」


「は?一緒に住んでるのに連絡してくるの?」


「え…そう…ですね。言われてみれば、はい」



お互いに素直な気持ちを打ち明けて、吉良の部屋で過ごすようになってから、思えばお昼休みの連絡はほとんど毎日だった…!


親切心で教えたことが、ちょっとしたノロケになっていたと気づいた時はもう遅い…

香里奈さんは切れそうなほど鋭い視線を私に向けてきた。


とはいえ、そろそろお昼。

こちらもなにか準備しなければならない…



「あの…香里奈さん、お昼ご飯なんですけど、良かったらおにぎり食べませんか?」


「は…?おにぎり?…ケータリングかなんかしてよ!」


「そ、それが引っ越して1日目なので、どこに何があるのかまったくわからなくてですね、とりあえず朝、ご飯は炊いたので!」



眉をひそめる香里奈さんは何も言ってくれなかったけど、私は冷蔵庫から鮭を出して焼き始めた。





「…ねぇっ!なんだかすごい煙なんだけど?」


「すぐに、おさまりますので!」



鮭を焼いていたら、部屋に煙が充満していたらしい。


窓を全開にして煙を追い出し、ラップの上にご飯を置いて焼けた鮭を置いて、あとは握って海苔を巻くだけ…


「お待たせしました!さぁ…食べましょう…」



仏頂面でソファに座り、長い脚を組んで携帯を耳に当てている香里奈さんは、吉良に電話をしているようだ。


私はそっと香里奈さんにおにぎりの乗ったお皿を差し出す。

すると少し迷って、一番小さなおにぎりを手に取ってくれた…


時計は12時半に近い。

きっと電話に出るだろうと香里奈さんを見ると、ちょうどおにぎりを口に入れたとき、吉良が電話に出たようだ。


「あ…もしもし、吉良?」



次の瞬間、香里奈さんが言った信じられないひとことに、私の胸は潰れそうになった…。


この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?