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新章…第8話

「こんなに迷って…大丈夫か?」



ついに、明日は吉良の実家にご挨拶に行くという日。


ベッドにありったけの服を並べてとっかえひっかえしながら、明日着ていく服について悩んでいた。



「…裸じゃなきゃ、いいと思うぞー?」



ベッドにゴロンと横たわり、焦る表情の私を見上げて笑う。



「もぅっ!…水着でもいいって言うの?」


「俺は嬉しい。部屋着を水着にしてくれたらさらに嬉しい」


「…なに言ってるのっ!?」



バカバカバカっ!…っとポスポスクッションを投げてみれば、吉良はそれを全部キャッチして喜んでる…


実は、今回も吉良は私に服を買ってきてくれた。

でもそれは…オフホワイトのミニ丈のワンピースで、絶対ご挨拶向きじゃない!


吉良に言わせると「こういうの着てほしかったから」なんて言うけど、どうせなら明日着ていく服を見繕ってほしかった…



「まぁこんな時は、モノトーンでいけばいいんだよ」


「モノトーン…っあ!」


見かねた吉良が、脱ぎ散らかした服を畳みながら言ったことをヒントに、私は黒いスーツの上下を持ってきた。


すると吉良が吹き出してしまう。



「それ、喪服だろ?」


「…あ!そっか…」



あぁ…結婚のご挨拶なのに、なんて縁起が悪い…


しまってこようと喪服を手に取ろうとすると、吉良が一瞬早くワンピースを手にした。



「うーん。これ、ちょっと胸元にレース付けるか」


「…え」


驚いて見上げると、吉良はクローゼットの奥から繊細な模様の白いチュールレースを取り出した。


そしてそれを、喪服のワンピースの胸元に、器用に縫い付けてる…。


えーっと…どこから突っ込んだらいいのか…いろいろ聞きたくなるんだけど、何をどう聞いたらいいのかな。


吉良は出来上がったワンピースを私にあてがってご満悦だ。


着てみると…まるで初めからそういうデザインのワンピースにしか見えない…



「針も糸もすごく細いものだから、レースを外しても跡には残らないと思うよ」


「すごいね…吉良、服のリフォームもできちゃうの?」


悩み事は一発で解決…!


…でも、裁縫箱とかレースとか、どうして持ってるの…とは聞けない。


これが、過去の女性の形跡だったとしたら複雑なんだけどなぁ…。



…………


「だい…じょうぶかな…」


「…うん。めちゃくちゃ可愛い」



吉良にリフォームしてもらったワンピースは、1枚で着ればシンプルなミモレ丈。


光沢を抑えた黒がシックで大人っぽいけど、昨日胸元につけてもらったチュールレースがバランスを取ってくれている。



「自信持てよ。モネはその辺の女の子よりずっと可愛いんだから」



それは恋人の欲目…というヤツでは?


外見だけ飾りつけてもダメなのはわかってるけど、まずは第一印象。

ここで失敗すると、取り戻すまでが大変だと聞いたことがある。



「服はちゃんと似合ってるし、靴も似合ってるしメイクは控えめだし、髪も…」



え?…止まらないで!


吉良のチェックを受けるために思わず棒立ちになっていたけど、髪、で止まるから途端に不安になって吉良に寄っていく。



「…髪?どこ?…どこが変?」



私の目の前に来て…吉良は悪そうな笑顔になる。…やだ、ちょっと…!


瞬間、吉良の手が私の髪のなかに入ってバサバサと大きく乱された。



「ちょっと…!なにやって…」



せっかくカールして整えたのに…意地悪に泣きそうになっていると、吉良がフッと視界に入ってきた。



「大丈夫。モネはそのままですごく可愛い。それに…緊張するほどの家族じゃない」



吉良の笑顔が曇った気がして、生い立ちの話をしてくれたことを思い出した。



「それでも…吉良の家族でしょ。やっぱり失礼のないようにしたいし、嫌な子だと思われたくないから」



私を眩しそうに見つめる吉良。


自分から吉良の手を握って、駐車場へと向かった。




私の実家に行くときとは違って、吉良の表情が固いような気がする。


車内はムーディーな洋楽が低く流れていて、そんな表情ながら…吉良にとても似合う曲だと思う。


そんな吉良をチラチラ見ながら、私は窓の外の景色が、少しずつ緑を濃くしていくのを眺めていた。



「…妹がいてさ」



ふいに吉良が話し出した。



「妹さん…?」


「うん。血の繋がらない、連れ子同士の妹」



生い立ちを話してくれた時、確かに聞いた。



「香里奈っていうんだけど、ごめん。少しキツいと思う」


「そう…なんだ」



わざわざ言うということは、これから向かうおうちで待ち構えているということだろう。


カッコいいお兄さんの彼女にやきもちを妬く妹という話はよく聞く…。



「大丈夫だよ?!ちゃんともう…しっかり、覚悟してるんだから!」



不安を隠したカラ元気は見え見えかもしれないと思いながら、車はいつの間にか大きな家が建ち並ぶ住宅地に入っていた。


いよいよ…到着が近い。



「着いたよ。あれが俺の、一応の実家」



「…ひえ…」



言われて見上げた家の大きいこと…多分私の実家の3倍はあって、思ってた以上の豪邸に度肝を抜かれた。


家っていうか…洋風のお屋敷って感じの外観は、全体的にすごくシンプルで、黒とシルバーの外壁が近代的。…ホントに人が住んでるのかって思うほど生活感がない…


呆気に取られている私をよそに、車は屋根付きの駐車場に停められた。



「吉良っ!帰ったの?!」



…すると…駐車場の中にあるドアが開いて、背の高い美女が颯爽と現れたので驚いてしまう。


美女はストレートの長い髪をサラサラ揺らしながら、吉良の首もとに細い腕を巻き付け、私なんか見えないみたいに勢いよく抱きついた。



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