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新章…第3話

「えぇっ?!桃音が同棲?」


吉良が実家に挨拶に来ることになり、私は事前情報として、結婚を前提としたお付き合いをしている恋人がいると家族に報告に来た。


1番大騒ぎして驚いているのは、3歳年上の兄、岳斗。



「…うん。本当はプロポーズされたんだけど…」


「はぁっ?!プロポーズ?お前就職するんだろ?」


「そう…だから、結婚前提のお付き合いで…」


「だからっていきなり同棲かよ?大丈夫なのか?そいつ…?!」



兄にマシンガンを撃ち込まれるみたいに喋られると、私の声はだんだん小さくなる…


「まぁまぁ岳斗。ちゃんと挨拶に来るって言ってるんだから、なかなか好青年じゃないか」


「そうね。で、どんな人なの?イケメン?背は高いの…?」



若干母は前のめり気味だけど、両親が落ち着いて話を聞いてくれるようで助かる…。私は最近隠し撮りした写真を見せようと、フォルダを探った。


でも出てくるのはお風呂上がりの半裸の吉良ばかり…

何を撮ってるんだ?エロじゃないか…!

私は本当にどうしようもない…。



しつこく探してやっと出てきたのは、スーツ姿の吉良。

これは隠し撮りというか、出かける前に呼びかけて振り向いた瞬間撮った1枚。


仕事に行く前だから、髪はざっくり整えられてて、凛々しい眉が平行二重の瞳を引き締めてる。


まるで私に撮られるのがわかって振り向いたみたいに、僅かに口角が上がっていた


黒っぽいグレーのスーツに青っぽいワイシャツ、ネクタイはネイビーで、とても落ち着いた大人っぽい吉良がそこにいる。


…はぁ…カッコいい。


「ちょっと!その吉良さんて方の写真あったの?なかったの?」


母に肩を叩かれてハッとした。


「あったよ…この人が、綾瀬吉良さんです」


兄と父がスッと母に寄り、一緒にスマホを覗き込む。


「…うぇ…っ?!」

「はっ?!」

「…おいおい…っ!」


三者三様の驚きの声を上げてくれる。


「ものすごいイケメンじゃないかぁ?モデルか…俳優上がりか?」


「こんなカッコいい人がうちの桃音を?いやぁ…嘘でしょ?」


「…桃音、こういう男なら他にも女がいるぞ?」


ごもっとも…と言いたくなるご意見に耳を傾けつつ、私はちょっと胸を張って言った。



「お付き合いして4年めだけど、浮気されたことないから…!」



「「「4年…っ?!」」」


一同ギョッとする。

そんな驚き方をされるとは思わなかった…

吉良みたいなイケメンと桃音が?ってことらしい。



「ま、まぁ…1度、とにかく連れておいで。この、吉良さんて方も、来るって言ってるんだろう?」


「うん。じゃあ、日にちはまた知らせるね」



母と兄はまだ携帯の中の吉良を奪い合うように見てる…


もしかしたら吉良から連絡が来てるかもしれないけど、仕方ない。気の済むまで見ていてもらおう。


父にビールを注がれ、2人だけで小さく乾杯した。




◇◇◇◇◇


実家に泊まった翌日、吉良のマンションに戻った。


「わぁ…キレイ…」


夕食は外で食べたのか…部屋にゴミひとつない…。

使ったコップもちゃんと洗ってあるし、洗濯も終わってる。


スゴい。イケメンのうえ、マメでよく気がつく人だなぁと改めて思う。



「あ…!ここは忘れたんだ」



寝室に行ってみると、眠った痕跡がそのまま。こんなふうにちょっとだけ抜けてるところも吉良の魅力。

完璧すぎないユルさが、愛しくて愛しくて。



脱いだトレーナーもそのままで…思わずギュッと抱きしめると、グリーン系のコロンがかすかに香る。吉良の匂いだ…。


今朝起きてそのままのベッドに潜り込んでみれば、吉良の体温まで戻ってきそうで…私はついそのまま、目を閉じてしまった。






「じゃ今週末、早速行こうか」


夜になって帰宅した吉良に、実家での話を伝えた。


「うん。…あぁ…なんか緊張する…!」


「それはこっち。…娘さんをください!とか言った方がいいか?…まだ早いか…」



ブツブツ言いながらお風呂へ消えていく吉良。私は上着とネクタイを預かるのです。


こういう時、奥さんになったみたいで毎日ニヤけてる…はぁ…幸せ。


…だから気づかなかった。

ウキウキとハンガーに上着をかける私を、吉良が離れたところから振り返って、何か考えているような目を向けていたなんて。


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