「借りるなら、買ってもいいけどな?」
吉良の本音を聞いて、霧子と錦之助に打ち明けてから、早くも1ヶ月が過ぎようとしていた。
ここは吉良の住むマンション。
1LDK の部屋は全体的に物がなくて、シンプルなモノトーンの落ち着いた空間。
部屋に射し込む2月の弱々しい陽の光が、吉良の髪を薄い茶色に魅せていて、それはまるで1枚の絵画のようだった。
「買うって…何を?」
「…家だよ。俺たちが住む家」
賃貸マンションの情報サイトを見ていた私の手元をパンパン…っと弾く。
「あ...!そんなとこ叩いたら電話がかかっちゃ……はい。もしもし」
電話のマークをわざと叩いたな…
横でクスクス笑う吉良を睨みつける。
おかげで陽気な営業マンに電話が繋がってしまった。
「すみません…まだ検討中でして…え?広さ、ですか?最寄り駅の希望…?」
…しっかり営業マンに営業されて、おいそれとは切らせてくれない。
しどろもどろの私から、スッと携帯を奪って、吉良が流暢に喋りだした。
「すみません…まだ何も決まっていないのに、彼女が間違えて電話してしまったようで。きちんと決まりましたらまた、ご連絡いたします」
失礼します…と言ってサッサと切ってしまった。
「吉良が電話したのに…私のせいにして…!」
ぷぅっとむくれてやると、無邪気に笑う吉良。
「やわらか…」
膨らませた頬をツンツン突かれ、チュッとキスをされる。
そうなればもう仲直り。
ホント…チョロいものです…。
吉良の部屋で寛ぎながら、2人で一緒に住む部屋の話をするようになるなんて…。数ヶ月前まで恋人から降格したんじゃないかと悩んでいたのが嘘みたい。
「家を買う話、モネはどう思う?」
「賛成デス…けど、いきなり買うって、ハードルが高いんじゃ?」
いっしょにいられるなら、正直どちらでも幸せ。でも吉良の負担になることはイヤ。
でも、私と暮らす家を「買う」発想になる吉良が、もうどうしようもなく愛しくなってしまうのです…
「別にハードルは高くないけど、まぁ…勢いで買うものでもないしな」
そう言ってこちらを向いた吉良の後ろに陽が当たって、それはまるで後光がさしてるみたいに見える。
神がかってカッコいい…
こんな姿を1年を通して春夏秋冬、ずっと見ていられるなんて…もう自分の暮らす家が聖域だ。
…ちょっと待って。
聖域を作り出すほどカッコいい吉良と結婚するとか一緒に住むとか…私もすでに、人間じゃないんじゃないの?
吉良とずっと24時間2人でいられるなんて…もう鼻血が出る気しかしない。
「…ブツブツなに言ってんの?」
「一緒に暮らして、24時間一緒にいられるなんて、夢みたいだなぁって…」
「…一緒に暮らしても、正直24時間一緒はムリ。仕事もあるし、睡眠時間もあるしな。…そうなると1日、2〜3時間だろ?」
シビアにバッサリ斬り捨てる吉良に、私は余裕の笑顔を返した。
「それでも…ピッタリくっついていられるアノ時間があればいいの」
「アノ時間?…あ!モネがスケベ発言した」
「え…?!違うから!アノ時間っていうのは、そういうことじゃなくて!一緒にベッドで…」
「あれこれヤる時間だろ?…これからも頑張ります!」
「違うって…!」
慌てる私を笑う吉良の笑顔が尊い。
…本当はピッタリくっついて一緒に眠る時間って言いたかったけど…この笑顔のためなら、私はスケベ女だと認定されてもいいや。
「…おいで」
笑顔の吉良に手招きされて、素直にそばに行ってみれば、ふんわり包みこむハグと降ってくる優しいキス。
「吉良…大好き」
「…ん」
2人で暮らす次の家を探したいのに、吉良が抱きしめた私を仰向けにして、ギュッと両手を繋げるから…
私はわずかに唇を差し出して、そっと目を閉じてしまうんだ。
この後の長い…愛の時間を受け入れるために。
……
「起きれるか?ランチ出来たけど」
結局…長い愛の時間は私の予想をはるかに超えて、それはそれは長く濃い時間となった。
こうなると、私は足腰が立たなくなって、回復までに結構な時間を必要とする。
「…抱っこ」
もう…甘えてしまえ!
吉良もそのつもりで私のそばに移動しはじめてる。
そっとダイニングの椅子に座らせてくれる。座面と背面にはフカフカなクッション。
この装備だけで、私の弱りようがわかると思う…!
「モネの好きなミルク雑炊。白菜たっぷり入れたぞ」
白菜とミルクの甘い香りがふんわり立ち昇ってる。
「…美味しそう…」
吉良は横について、私に食べさせようとするから…
「そ、そこまでは弱ってないから平気…」
「ん。おかわりあるから、いっぱい食べな」
ミルク雑炊みたいに優しくて甘い笑顔を見せる吉良。
それにしても。
吉良ってホントに絶倫…
筋肉質な体型ではあるけど、この細マッチョな体のどこに、そんなパワーを秘めているんだろう。
「…モネが可愛いから、ヤりすぎてごめんな」
ジッと見つめてしまって、考えてることがバレたみたい…。
「ううん、いいの…。幸せだから」
股関節は痛むけど…という言葉は飲み込んでおく。