その後…私の卒論は無事に完成し、卒業見込みの判定をもらえた。
霧子も同様。錦之助も推薦で院進を決めた。
ただ美麗ちゃんは…
「…ダブったらしいよ」
吉良にハッキリフラれたあと、呼び出されて居酒屋を梯子したという錦之助が言う。
「…でもまぁ、仕方ないんじゃない?フラれた寂しさを、俺で晴らそうとしたからね?結局男関係にだらしなくて、勉強という本業に向き合えなかったってことだろ」
そう言う錦之助に、霧子が絡んだ。
「…とか言って、いただけるものはありがたくいただいたんじゃないの?」
悪い笑顔を浮かべる霧子に、錦之助は必死で両手をヒラヒラ振って、「…まさかっ!」と否定した。
「…わかりやすくモモを溺愛してる綾瀬先輩にあれだけの熱量で向かっていけるって…ある意味怖いじゃん」
ん?
わかりやすく私を溺愛してたの?
首をかしげる私に2人が交互に言った。
「…吉良さん、大学でのモモの様子を知りたいって、私に声かけてきたもん」
「…冷たく断るから美麗ちゃんに話がいっちゃって…拗らせてごめんねー」
お気楽に謝る錦之助に、霧子がバッサリ言った。
「…美麗ちゃんがモモの仲良しだって吉良さんに教えたの、お前だろうがっ!」
「…だって学部一緒だし、美麗ちゃんそう言ってたもん…!」
そこまで話して、ふと疑問がわいた。
「…そういえば錦之助って、美麗ちゃんとどこで仲良くなったの?」
学部も違うし、サークルも違う…。
「…あぁ、高校一緒なんだよね」
そういうことか…!
「…でも、美麗ちゃんとのことで拗れたとき、いろいろ親切にしてくれてありがとうね。
お弁当とか、おせちとかさ…」
吉良さん、錦之助を宅配便代わりにしてたって言ってた。
「…あぁ!美麗ちゃんという、大学でのモモを知る術を失った綾瀬先輩がさ、すぐに俺を使い出したんだよ!毎日毎日、モネはどんな様子か、どんな服を着て笑ってるのか泣いてるのかって、そりゃあもう細かく報告させられたわ」
あーうざかった、と笑いながらも。
「とにかく溺愛だった。…あんなイケメンがモモのためにちっさい弁当作ってケーキとかおせち作ってさ!それを届けろって言うんだせ?!…一周回って抱きしめたくなった。尊すぎて!」
…そんなふうに言われると、ふふ…っと幸せな笑顔がこぼれてしまう。
「…ありがとね、錦之助。結婚したあとも、よろしくね」
「…え?」
呑気に話を聞いていた霧子も姿勢を正した。
「…結婚って…吉良さんと?」
「…うん。付き合い始めた頃から考えてたんだって…」
「うっそーっ!」
2人が驚いて、ほぼ同時に叫んだ。
「…新入社員がなにしてんじゃ?」
「…就職させたくなかったみたいなんだけど、仕方ないから少しだけ社会経験してこいって…」
テレる私を小突く2人。
「溺愛されてたどころの話じゃないじゃん!…もぅ…おめでと…!」
「ありがと…これからも話聞いてね…」
驚きすぎて泣き出す霧子につられ、私も泣き出してしまう。
「モモおめでとう!幸せになれよ!」
泣き出す私たちの横で、錦之助は1人、イタズラっぽく笑ってくれた。
親友たちのおめでとうは、何より私の涙腺を刺激する。
もう何も心配しなくていいんだと思うと、全然止まらない涙に困ってしまった。