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第16話 side.吉良

…しばらくウトウトしたらしい。

モネがゴソゴソ腕から這い出そうとしている。


「…なにしてる?」


「はっ!…あの、おトイレに行こうかと」


起き上がったモネを見て、ちょっと考える。


寝起きの無防備な姿。

やはり心配だ。



「…一緒に行く」


「…え?でも…」


「リビング、あいつらが寝てるから」



野獣が3頭も寝ているジャングルに、モネ1人で行かせるわけにはいかない。



「…うわ…っ!」



ドアを開けて、野獣3頭の寝姿に驚いたモネ。

後ろにいる俺の背後に回ってしまった。


見ると…真冬だというのになぜか全員腹を出して寝ている。

椎名に至ってはTシャツも脱ぎ捨てている。


女の子にしてみれば、見るに耐えない醜態かもしれないが…モネがいなければ俺だって、もれなく同じ様な格好で意識を失っていただろう…。



「…お風呂場に入って、ドアを閉めてください…!」



トイレの真ん前で待とうとした俺の胸を両手で押し、モネはそう指示したが…


「…そんな弱っちい力で押されたぐらいじゃ、俺を風呂場になんて追い込めないぞ?」


と意地悪を言ってやる。



「…おしっこ行きたいのに…!もうっバカっ!」



赤い顔で一生懸命俺を押して風呂場に追いやるモネ。


いっそのこと漏らしてしまえばいいのに…と、変態的に考えたことは、ちょっと秘密にしておく。



2人で部屋に戻り、ベッドの上で向き合う。



「…もうちょっと、寝ますか?」


「…」


「吉良さん?」



寝乱れた長い髪を片側に寄せていて、モネの細い首筋があらわになってる…



「あいつら、いつまで寝てるんだろうな?」



手を伸ばせば、届くところにモネがいるのに、自由に触れられないジレンマでイライラする。



「…そんなこと言わないで。せっかく来てくれた大事な友達じゃないですか…?」



「…チューしたいなぁ」


「…え?」


「…変?」


「…いえ、吉良さんが甘えたような言い方をしたので、どうしたのかなぁって」



意外そうに笑うモネ。


そう言われて急に照れくさくなって…俺は背中を向けて横になる。



「…私は、吉良さんになら何をされてもいいです。大好きだから、何でもしてあげたい」



…なんて言いながら、後ろから抱きついてくる。



「…吉良さん、お腹触っていいですか?」



ビクッとした。

腹は俺の最弱点…わかってて言ってるのか…?


反面、ギュッと心臓を捕まれたみたいなドキドキが襲ってくる。



「…いい、けど」



そう言ったらモネはどうするのか?興味があった…。



失礼します…と言ってTシャツの裾から小さい手を入れて、スルスルと、割れた腹筋を撫でてくる。



「…やっぱりすごく固いお腹…!私のプヨプヨしたお腹と全然違う」



「プヨプヨって…?」



モネを反対に向け、トレーナーの裾からお腹に手を入れてみた。


無邪気なモネと違って、こっちは完全なスケベ心。


触れたモネのお腹は、無駄な肉なんてついてないのに、確かにプヨプヨで、自分の体との違いをハッキリ感じた。



「…き、吉良さん?ちょっと待って…」



昨日からの我慢は、もう限界なんてとっくに過ぎてる…。

モネの制止も聞かず、いつまでもお腹を撫で回した。



「あの…!私、ご飯炊くので…!」


「…は?米…?」



…俺が我慢できないほどの思いを抱えているのに、のんきに米?



「ご飯炊いて、おにぎり作ります。それからお味噌汁も作って、それを食べてもらったら帰ってもらいましょ」


…そんなもの、蹴っ飛ばして起こして「とっとと帰れ!」と言えば終わるのに。


ようやく手を止めた俺を振り返って、ニコッと笑うモネが可愛い。

俺は思わず「…うん」と、素直にうなずいてしまった。


………


「…鮭焼いて具にするか?」


「私が1人でやるからいいんです!」



冷蔵庫を開けて言う俺を手で制して、モネは俺の背中を押す。


まぁおにぎりだし、そんなに難しくないだろう…。

その間に、奴らを蹴り飛ばしながらカーテンを開け、テレビをつける。



「…なんだよ早いな…!俺らあれからまだ飲んでたから眠いわ…」


「…!」



…下手したら覗き見されかねないところだった…。

やっぱり我慢してよかった。



やがて焦げ臭いにおいがして、キャーだのヒ-だと声が聞こえて、モネが入ってきた。



「お待たせしました!二日酔いの朝に美味しいおにぎりとお味噌汁です…!」



運ばれてきたおにぎりを見て、笑ってしまった。


デカイ…。すごくデカイ、規格外に小さいのもあるが、形が丸い…!なぜかまん丸だ。



「…ちょっと不格好ですけど、私の愛が込もってます」


「込めなくていいから」



つい、ソッコーで言ってしまって、奴らの失笑を買う。




デカイおにぎりは奴らに譲り、俺は小さいのをもらった。



「…うまっ」


塩加減がちょうど良くて、海苔とのバランスがいい。具も大きくて食べ応えがある…。


ついそんな感想を言うと、また奴らに言われる。



「モネちゃんが作れば何でも激ウマなんだろ?」



吉良のデレがキモいと眉を潜められたが、だったら早く出ていってもらいたい…!



俺の無言の圧力が伝わったのか、おにぎりを食べ終わると、やっと3人は帰り支度をし始めた。


玄関先まで見送りながら「忘れ物ないよな?絶対…戻ってくんなよ。」と言ってしまって…

悪友たちの妖しい笑顔に見つめられてしまう。



…ふと見ると、1人遅れた憂が、モネになにやら耳打ちしている。



「…憂!何して…」

「何にもしてないって…!邪魔者は消えるから、あとはべったり可愛がってやれよ~」



3人は来たときと同じように、嵐のように去って行った。



「今、憂に何言われた?」


気になって聞いてみれば、モネは赤い顔で下を向く。


「内緒話して売れば、吉良がヤキモチ焼くからって…」


ふん。その通りだ。

やっと…2人っきりになれた…


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