…しばらくウトウトしたらしい。
モネがゴソゴソ腕から這い出そうとしている。
「…なにしてる?」
「はっ!…あの、おトイレに行こうかと」
起き上がったモネを見て、ちょっと考える。
寝起きの無防備な姿。
やはり心配だ。
「…一緒に行く」
「…え?でも…」
「リビング、あいつらが寝てるから」
野獣が3頭も寝ているジャングルに、モネ1人で行かせるわけにはいかない。
「…うわ…っ!」
ドアを開けて、野獣3頭の寝姿に驚いたモネ。
後ろにいる俺の背後に回ってしまった。
見ると…真冬だというのになぜか全員腹を出して寝ている。
椎名に至ってはTシャツも脱ぎ捨てている。
女の子にしてみれば、見るに耐えない醜態かもしれないが…モネがいなければ俺だって、もれなく同じ様な格好で意識を失っていただろう…。
「…お風呂場に入って、ドアを閉めてください…!」
トイレの真ん前で待とうとした俺の胸を両手で押し、モネはそう指示したが…
「…そんな弱っちい力で押されたぐらいじゃ、俺を風呂場になんて追い込めないぞ?」
と意地悪を言ってやる。
「…おしっこ行きたいのに…!もうっバカっ!」
赤い顔で一生懸命俺を押して風呂場に追いやるモネ。
いっそのこと漏らしてしまえばいいのに…と、変態的に考えたことは、ちょっと秘密にしておく。
2人で部屋に戻り、ベッドの上で向き合う。
「…もうちょっと、寝ますか?」
「…」
「吉良さん?」
寝乱れた長い髪を片側に寄せていて、モネの細い首筋があらわになってる…
「あいつら、いつまで寝てるんだろうな?」
手を伸ばせば、届くところにモネがいるのに、自由に触れられないジレンマでイライラする。
「…そんなこと言わないで。せっかく来てくれた大事な友達じゃないですか…?」
「…チューしたいなぁ」
「…え?」
「…変?」
「…いえ、吉良さんが甘えたような言い方をしたので、どうしたのかなぁって」
意外そうに笑うモネ。
そう言われて急に照れくさくなって…俺は背中を向けて横になる。
「…私は、吉良さんになら何をされてもいいです。大好きだから、何でもしてあげたい」
…なんて言いながら、後ろから抱きついてくる。
「…吉良さん、お腹触っていいですか?」
ビクッとした。
腹は俺の最弱点…わかってて言ってるのか…?
反面、ギュッと心臓を捕まれたみたいなドキドキが襲ってくる。
「…いい、けど」
そう言ったらモネはどうするのか?興味があった…。
失礼します…と言ってTシャツの裾から小さい手を入れて、スルスルと、割れた腹筋を撫でてくる。
「…やっぱりすごく固いお腹…!私のプヨプヨしたお腹と全然違う」
「プヨプヨって…?」
モネを反対に向け、トレーナーの裾からお腹に手を入れてみた。
無邪気なモネと違って、こっちは完全なスケベ心。
触れたモネのお腹は、無駄な肉なんてついてないのに、確かにプヨプヨで、自分の体との違いをハッキリ感じた。
「…き、吉良さん?ちょっと待って…」
昨日からの我慢は、もう限界なんてとっくに過ぎてる…。
モネの制止も聞かず、いつまでもお腹を撫で回した。
「あの…!私、ご飯炊くので…!」
「…は?米…?」
…俺が我慢できないほどの思いを抱えているのに、のんきに米?
「ご飯炊いて、おにぎり作ります。それからお味噌汁も作って、それを食べてもらったら帰ってもらいましょ」
…そんなもの、蹴っ飛ばして起こして「とっとと帰れ!」と言えば終わるのに。
ようやく手を止めた俺を振り返って、ニコッと笑うモネが可愛い。
俺は思わず「…うん」と、素直にうなずいてしまった。
………
「…鮭焼いて具にするか?」
「私が1人でやるからいいんです!」
冷蔵庫を開けて言う俺を手で制して、モネは俺の背中を押す。
まぁおにぎりだし、そんなに難しくないだろう…。
その間に、奴らを蹴り飛ばしながらカーテンを開け、テレビをつける。
「…なんだよ早いな…!俺らあれからまだ飲んでたから眠いわ…」
「…!」
…下手したら覗き見されかねないところだった…。
やっぱり我慢してよかった。
やがて焦げ臭いにおいがして、キャーだのヒ-だと声が聞こえて、モネが入ってきた。
「お待たせしました!二日酔いの朝に美味しいおにぎりとお味噌汁です…!」
運ばれてきたおにぎりを見て、笑ってしまった。
デカイ…。すごくデカイ、規格外に小さいのもあるが、形が丸い…!なぜかまん丸だ。
「…ちょっと不格好ですけど、私の愛が込もってます」
「込めなくていいから」
つい、ソッコーで言ってしまって、奴らの失笑を買う。
デカイおにぎりは奴らに譲り、俺は小さいのをもらった。
「…うまっ」
塩加減がちょうど良くて、海苔とのバランスがいい。具も大きくて食べ応えがある…。
ついそんな感想を言うと、また奴らに言われる。
「モネちゃんが作れば何でも激ウマなんだろ?」
吉良のデレがキモいと眉を潜められたが、だったら早く出ていってもらいたい…!
俺の無言の圧力が伝わったのか、おにぎりを食べ終わると、やっと3人は帰り支度をし始めた。
玄関先まで見送りながら「忘れ物ないよな?絶対…戻ってくんなよ。」と言ってしまって…
悪友たちの妖しい笑顔に見つめられてしまう。
…ふと見ると、1人遅れた憂が、モネになにやら耳打ちしている。
「…憂!何して…」
「何にもしてないって…!邪魔者は消えるから、あとはべったり可愛がってやれよ~」
3人は来たときと同じように、嵐のように去って行った。
「今、憂に何言われた?」
気になって聞いてみれば、モネは赤い顔で下を向く。
「内緒話して売れば、吉良がヤキモチ焼くからって…」
ふん。その通りだ。
やっと…2人っきりになれた…