「…ちょ、モネ?大丈夫か…」
心配そうに顔を覗き込む吉良さんの顔が歪む。
「…この部屋に、美麗ちゃんを連れ込んだとこ…」
自分の部屋のベランダから、吉良さんのマンションの玄関が見えること、そこで女の人を部屋に入れるところを見て、ここまで来たこと。
「…ベランダを見上げたら、それは美麗ちゃんで、吉良さんに上着干しておきますか?って聞いてて…慣れた感じで、吉良さんの上着を手にしてて…」
涙が目のフチにたまっていく…
「2人でお酒を飲みに行ったから、吉良さんが赤くなっちゃうことも知ってて…」
皆さんをぐるりと見渡してまばたきをしたら、ポロポロ涙がこぼれた。
「…うわ…。これ惚れちゃうやつだ…」
鬼龍さんが呆然として言う。
「あぁ、わかる…」
憂さんもうなずくのをみて、吉良さんが焦って私を胸の中に閉じ込め「俺のだから」と牽制した。
「…違うれすっ」
ぐぐっと胸の中から起き上がって、吉良さんの顔を真正面からとらえて言った。
「…車に乗せるとこも見たれす…。美麗ちゃんが本命れすか?私は…?私はセフレか2番手れすか?」
…そこにいた全員がコケた気がする。
「…もう白状するしかねーだろ。吉良!」
憂さんに言われ、椎名さんに肩を叩かれている。
「わかった!言うよ、ちゃんと…」
見上げる私と目を合わせ、吉良さんはテーブルに肘をつきながら、落ち着きなく口元をいじった。
その仕草は、吉良さんぽくて妙に色っぽい。…あぁ、見とれてしまう…
「夏頃、親しくしてた助手の先生に呼ばれて、大学に行ったんだよ。その時、モネを見かけて…」
私の視線を感じるからか、ちょっとそっぽを向いて、話を続ける。
「一緒にいた子たちと笑ってた。その笑顔がすごく可愛かったんだけど…俺といるときには、そんな笑顔になってくれたことはないって気づいた」
「…あ」
好きすぎて緊張しちゃうから、確かに素のままで接することは、いまだにあんまりできないかも…。
「それで、大学でのモネをもっと知りたくなった」
意外にも友人3人も茶化さずに聞いてる…。
「それで、まず錦之助を捕まえて、モネの仲良しの子はどの子か教えろって言った。そしたらあいつ、自分だとか言うから、絞め殺そうかと思った」
いや~殺しちゃダメよ…という、鬼龍さんの冷静な突っ込みが妙におかしい…!
「…そしたら何人か女の子が集まってきて、1人は見たことある子だったけど、ちょっと睨まれて怯んだんだよな」
それはたぶん、霧子だ。
私がいろいろと悩んでることを知ってる霧子だったから、とっさに睨んだんだろうな…。
「…そしたら錦之助が、そのうちの1人を指差して合図してくるから、その子に頼んだ」
何を…と言おうとして、吉良さんが赤面してることに気づく。
「…大学での、モネのことを教えてほしいって。同じ学部だから簡単だって言ってくれた子が、美麗ちゃんだった」
「私の大学での様子を、美麗ちゃんを通じて知ろうとしてたんですか?」
驚きすぎて、酔いも覚めちゃう…!
「モネに直接聞くのは照れ臭いし…嫉妬して、束縛したくなるかもしれないし…」
「…結局束縛してたじゃんっ!美麗ちゃんが報告に来て、モネちゃんがモテモテだって言ったら顔色変えたからね?」
憂さんが面白そうに言う。
「…モネがどんな様子なのかメッセージしてくれたらそれでよかったんだけど、彼女はやたらと会いたがって。こっちも頼んだ手前、断りづらいから、錦之助と3人で会おうとした。そしたらどうしても家に行きたいって言われて…」
錦之助が捕まらなかったから、急遽憂さんに来てもらったという。
「…ということはあの日、部屋に二人きりじゃなかったっことですか?」
そう言えば、ベランダから見たとき、すでに部屋に明かりが灯ってるのを見た気がする…。
「…もちろん。先に憂が部屋に来てた。実はついでに、美麗ちゃんの興味が、憂に移ってくれないかという魂胆もあった…」
美麗ちゃん、吉良さんのこと好きだったから。
2人で飲みに行ったというのは彼女の嘘で、連絡先を教えたのは、頼んだことをメッセージしてもらうのに必要だったからだと言う。
「…酒飲んで顔が赤くなるのは、メッセージのなかで聞かれて…答えたことだ」
それを聞いて、私はちょっとむくれる…。
「…私にはメッセージしてくるなって言ってたのに、美麗ちゃんとはそんなやり取りしてた…」
イジイジと、床に「の」の字を書いて膝を抱える…。
「…ごめん…。モネと日常的にやり取りしたら、気になるし会いたくなるし…会ったらもう…いろいろしたくなるし。だから…控えてもらってた」
前に『気が散って嫌だ』と言われたことを思い出す。
それって、そういう意味だったんだ…。
「でも、一緒にいるとき、美麗ちゃんにメッセージも送ってましたよね?」