目次
ブックマーク
応援する
6
コメント
シェア
通報
第13話

「…あの、これ全部、吉良さんが?」


「あぁ。気晴らしに、たまに料理するから」


お重に色とりどりのおせち料理。

伊達巻、栗きんとん、昆布巻き、黒豆…それから、椎茸が入ってない煮物と…


「ゼリー寄せ…」


「…テリーヌな」


テキトーに作ってるから名前なんてないけど…なんておっしゃいますが。


昨日食べたおせちにそっくり…。



ひとくちいただくと、優しい味が、既製品ではないことを教えてくれる。


知らん顔してお酒を飲んでる吉良さん。


もしかして吉良さんが、錦之助に頼んで届けてくれたの?


そして鈍感な私でも気づいちゃいます。

その前にも錦之助によって届けられた食べきりサイズのお弁当。


あれも吉良さんの手作りとか…。


そしてこれだけのものを作れるなら…クリスマスに届けられた繊細なデコレーションのイチゴケーキも、吉良さんが…?




…もしかしたら私は、何か大きな勘違いをしてるのかもしれない。





「…ほんとに、悪かったと思ってる…」



吉良さんが思いきったように言った。



「夜這い…とか。怖かったよな?」


「それは…怖いことはなかったです。ただ慌ただしくて、寂しかったというか…」


「ごめん…」



吉良さんが口元を片手で覆って、目をそらしながら続けた。



「…正直に言うと、エスカレートしてた。夜中に忍び込んでも、モネが受け入れてくれるから…」


そう言った後ですぐに訂正する。



「違うな。嫌だって、俺が言わせなかったのかもしれない。モネが俺に従順だってわかってて、どこまで受け入れてくれるか…って思いながら抱いてたから」


ごめん…と謝るけれど…



「私は、どんな風にでも吉良さんに触れてもらえたら嬉しいし、感じました…。自分でも制御がきかないくらい…」


えっ…?って言いながら横を向いてた吉良さんと目が合って、その目が次第に熱を帯びてくるのがわかる。


もしかしたら、私の目にも同じ熱が宿ったかもしれない…。



「…俺も、まったく制御できなかった。モネを抱くと、1度じゃ終われなくて…何度も求めて、壊してしまいそうで怖かった」



熱を帯びた視線をそらして、初めて聞くことに驚く。



「…だから、終わったらすぐ離れた。一緒にいたら、マジで寝かせてあげられなから」



確かに、そんなことがあった日のことを思い出す。



「…夜這いは、仕事が忙しくて会えなかったから、せめて寝顔だけでも見たくて、忍び込んだのが始まり」



…そうだったんだ…!

寝顔を見られてたなんて知らなかった。



「…でも、寝顔が可愛いし腹出して寝てるし、我慢できなくて…襲った」


吉良さん、唇を噛んで、下を向いてしまった。



「早く抱きたいのと、早く寝かせてやらなきゃって思いと…全部脱ぎきらない中途半端な姿のモネに興奮して…夜這いを繰り返した…」


本当にごめん…

正座して頭を下げる。


こんなに真剣に謝ってくれるなんて思ってなかった…。


「大丈夫…です。抱いてくれるのは嬉しかったから…逆に…」


顔をあげた吉良さんを見つめ返して、私も真剣に言った。


「壊して…ください。私も、吉良さんに壊されてみたいです」


吉良さんの喉仏が上下に動いた。



「…あんまり、煽るなって…俺だってここんとこ、モネ不足なんだからな」


そのまま立ち上がってキッチンに行ってしまった。



「鍋でもやるか?海鮮があるぞ?」



パッと雰囲気を変えた吉良さん。


…美麗ちゃんのことも、聞かなくちゃ…。



「私も手伝います!」


キッチンに立つ吉良さんの横に立った。


「よし。じゃ、白菜を切ってみなさい」


「ハイッ!」



海鮮を取り出して、何やら準備しながら、私の手元を見ている吉良さん。



「…ちょーっ!そのまま切ったら指も落とすぞ?」



慌てて包丁を取り上げる吉良さん。

驚いて至近距離の吉良さんを見上げると、吉良さんは私の後ろに回り込んで、両手を私の両手に被せるように添えてきた。


「白菜はまず、こう切って、葉と茎を分ける。そして茎を…」


頭の上から聞こえる…低いセクシーボイス…。


思わず見上げると、バチッと目が合ってしまった…。


「…吉良さん…」


「もぅ…モネの声は甘いんだよ…ゆーわくすんなって」


こめかみにチュウっと口づけてくれたけど、唇が降りてくる気配はない。



「…あの…吉良さん、ですよね?イチゴのケーキとかお弁当、あとおせちも…」


錦之助が持ってきてくれたやつ…


背後にピッタリくっついて、白菜はもはや、吉良さんによって切られてる。


私はドキドキしながら返事を待ってて、力が入りません…




「…バレたか」



耳元で聞こえる声…

「…なんで、そんな…」振り返って聞いてみると。



「距離を置こうって言ったのに…自分で持ってくなんて、ハズいだろ」


「だから…錦之助…?」


「先輩風、ビュービューに吹かせて、配達員やらせた」



錦之助…だから部屋に入らなかったんだ。




「すごく優しい味がして、美味しかったです…」


「そ?モネの栄養になったんなら、よかった」


優しく笑う吉良さん。

この笑顔を見ると…ついボーッと見惚れてしまう、おバカな私…。


でも今度こそ、私たちがこんな風に拗れた原因について、聞いてみなきゃ…





お皿とお箸を準備して、テーブルにIH調理器を置き、ほぼ出来上がりの鍋を置く。


そして思い切って口を開いた。


「あの…この部屋に…」



言いかけたところで…玄関のチャイムが鳴って…



…2人で顔を見合わせた。



モニターを確認した吉良さん「…っげ!」と言って固まってる…私もそっと覗いて見ると、3人組の男性が思い思いのポーズをとってる…



「…うりゃーっ!開けろ!吉良っ」

「開けなくてもベランダから侵入するけどね」

「ドアぶち破った方が早いだろ」



そっと私を振り返る吉良さん。



「地元の、悪友だ…」


コメント(0)
この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?