「…あの、これ全部、吉良さんが?」
「あぁ。気晴らしに、たまに料理するから」
お重に色とりどりのおせち料理。
伊達巻、栗きんとん、昆布巻き、黒豆…それから、椎茸が入ってない煮物と…
「ゼリー寄せ…」
「…テリーヌな」
テキトーに作ってるから名前なんてないけど…なんておっしゃいますが。
昨日食べたおせちにそっくり…。
ひとくちいただくと、優しい味が、既製品ではないことを教えてくれる。
知らん顔してお酒を飲んでる吉良さん。
もしかして吉良さんが、錦之助に頼んで届けてくれたの?
そして鈍感な私でも気づいちゃいます。
その前にも錦之助によって届けられた食べきりサイズのお弁当。
あれも吉良さんの手作りとか…。
そしてこれだけのものを作れるなら…クリスマスに届けられた繊細なデコレーションのイチゴケーキも、吉良さんが…?
…もしかしたら私は、何か大きな勘違いをしてるのかもしれない。
「…ほんとに、悪かったと思ってる…」
吉良さんが思いきったように言った。
「夜這い…とか。怖かったよな?」
「それは…怖いことはなかったです。ただ慌ただしくて、寂しかったというか…」
「ごめん…」
吉良さんが口元を片手で覆って、目をそらしながら続けた。
「…正直に言うと、エスカレートしてた。夜中に忍び込んでも、モネが受け入れてくれるから…」
そう言った後ですぐに訂正する。
「違うな。嫌だって、俺が言わせなかったのかもしれない。モネが俺に従順だってわかってて、どこまで受け入れてくれるか…って思いながら抱いてたから」
ごめん…と謝るけれど…
「私は、どんな風にでも吉良さんに触れてもらえたら嬉しいし、感じました…。自分でも制御がきかないくらい…」
えっ…?って言いながら横を向いてた吉良さんと目が合って、その目が次第に熱を帯びてくるのがわかる。
もしかしたら、私の目にも同じ熱が宿ったかもしれない…。
「…俺も、まったく制御できなかった。モネを抱くと、1度じゃ終われなくて…何度も求めて、壊してしまいそうで怖かった」
熱を帯びた視線をそらして、初めて聞くことに驚く。
「…だから、終わったらすぐ離れた。一緒にいたら、マジで寝かせてあげられなから」
確かに、そんなことがあった日のことを思い出す。
「…夜這いは、仕事が忙しくて会えなかったから、せめて寝顔だけでも見たくて、忍び込んだのが始まり」
…そうだったんだ…!
寝顔を見られてたなんて知らなかった。
「…でも、寝顔が可愛いし腹出して寝てるし、我慢できなくて…襲った」
吉良さん、唇を噛んで、下を向いてしまった。
「早く抱きたいのと、早く寝かせてやらなきゃって思いと…全部脱ぎきらない中途半端な姿のモネに興奮して…夜這いを繰り返した…」
本当にごめん…
正座して頭を下げる。
こんなに真剣に謝ってくれるなんて思ってなかった…。
「大丈夫…です。抱いてくれるのは嬉しかったから…逆に…」
顔をあげた吉良さんを見つめ返して、私も真剣に言った。
「壊して…ください。私も、吉良さんに壊されてみたいです」
吉良さんの喉仏が上下に動いた。
「…あんまり、煽るなって…俺だってここんとこ、モネ不足なんだからな」
そのまま立ち上がってキッチンに行ってしまった。
「鍋でもやるか?海鮮があるぞ?」
パッと雰囲気を変えた吉良さん。
…美麗ちゃんのことも、聞かなくちゃ…。
「私も手伝います!」
キッチンに立つ吉良さんの横に立った。
「よし。じゃ、白菜を切ってみなさい」
「ハイッ!」
海鮮を取り出して、何やら準備しながら、私の手元を見ている吉良さん。
「…ちょーっ!そのまま切ったら指も落とすぞ?」
慌てて包丁を取り上げる吉良さん。
驚いて至近距離の吉良さんを見上げると、吉良さんは私の後ろに回り込んで、両手を私の両手に被せるように添えてきた。
「白菜はまず、こう切って、葉と茎を分ける。そして茎を…」
頭の上から聞こえる…低いセクシーボイス…。
思わず見上げると、バチッと目が合ってしまった…。
「…吉良さん…」
「もぅ…モネの声は甘いんだよ…ゆーわくすんなって」
こめかみにチュウっと口づけてくれたけど、唇が降りてくる気配はない。
「…あの…吉良さん、ですよね?イチゴのケーキとかお弁当、あとおせちも…」
錦之助が持ってきてくれたやつ…
背後にピッタリくっついて、白菜はもはや、吉良さんによって切られてる。
私はドキドキしながら返事を待ってて、力が入りません…
「…バレたか」
耳元で聞こえる声…
「…なんで、そんな…」振り返って聞いてみると。
「距離を置こうって言ったのに…自分で持ってくなんて、ハズいだろ」
「だから…錦之助…?」
「先輩風、ビュービューに吹かせて、配達員やらせた」
錦之助…だから部屋に入らなかったんだ。
「すごく優しい味がして、美味しかったです…」
「そ?モネの栄養になったんなら、よかった」
優しく笑う吉良さん。
この笑顔を見ると…ついボーッと見惚れてしまう、おバカな私…。
でも今度こそ、私たちがこんな風に拗れた原因について、聞いてみなきゃ…
お皿とお箸を準備して、テーブルにIH調理器を置き、ほぼ出来上がりの鍋を置く。
そして思い切って口を開いた。
「あの…この部屋に…」
言いかけたところで…玄関のチャイムが鳴って…
…2人で顔を見合わせた。
モニターを確認した吉良さん「…っげ!」と言って固まってる…私もそっと覗いて見ると、3人組の男性が思い思いのポーズをとってる…
「…うりゃーっ!開けろ!吉良っ」
「開けなくてもベランダから侵入するけどね」
「ドアぶち破った方が早いだろ」
そっと私を振り返る吉良さん。
「地元の、悪友だ…」