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第12話

「…なに?プレゼント?ごめん。私何も用意してないや…」



「…いや…違う違う!でも、そう。まぁいいから!これ受け取って!」



箱を手渡して、錦之助は「じゃあな!」と、風のように帰っていった。



渡された箱からは、ふんわり甘い香りがする…。

テーブルに持っていって箱を開くと…


「…イチゴのケーキ…!」



生クリームがお花みたいにデコレーションされてる、片手に乗るほど小さなケーキだった。



…大好物なんだけど…!

錦之助、ケーキとか作れるんだ?!


でも聞いたことある。

理系脳は、お菓子作りが上手だって。


「落ち着いたらお礼しなきゃ。錦之助なら…ワインとかビールがいいかな?」




錦之助はそれから、1日置きに部屋に来て、何かしら食べ物を置いていくようになった。


それは色とりどりのお弁当で、ちょうど私が食べきれるくらいのサイズのもの。


…それが、すごく美味しい!


でも、どこか懐かしい味で、切なくなるのはなんでだろう。




…大晦日には、小さなお重を持ってきてくれた錦之助。


中は…びっくりするほど繊細に、きれいにおせち料理を詰められている…



「…ありがとう…!せっかくだから一緒に食べようよ。年越しそば作るからさ!」



錦之助は顔の前で大きく手を振って言った。



「…ムリムリムリ!絶対ムリ!こっから先に入ったら俺の命はないから…じゃ。よいお年を〜!」



小さく手を振って、錦之助は帰ってしまった。



呆気にとられながら…お重の中を改めて確認…!


大好きな伊達巻や海老、黒豆はもちろん、どうやって作ったのかまったくわからないゼリー寄せみたいなものが入っていた。



「テリーヌ…って言うんだっけ?」



どれも美味しくて、あっという間に食べてしまった…!



「…にしてもこれ…手作りだよね…」



まさか錦之助の?

料理が得意なんて聞いたことないけど…。


どちらにしてもこんなに美味しいものを届けてくれて、感謝しかない。


大学が始まったら、お礼に何かごちそうしなくっちゃ。


………





0時過ぎてからも、私は卒論をまとめるために机に向かった。


やがて初日の出が、カーテン越しに部屋の中を照らす頃…。



「…できた…!」



完璧ではないけど、何とか一通りまとめることは出来た。


ここから修正したり加筆したりして、予定通り1月半ばには提出できそう…。



椅子に座ったまま大きく伸びをして、ベランダに出て初日の出を拝む。



「…吉良さん、明けましておめでとうございます…。今年も1年、吉良さんに幸せが訪れますように」



あ…年が明けた瞬間も同じようなこと祈ったな…と気づいて1人、照れ笑いした。


会いたくないとか言いながら、ずっと吉良さんのことを考えていることに気づく。



「卒論終わって…気持ちを整理して、落ち着いて…吉良さんに会わなくちゃ…」



そうつぶやいて、部屋に戻った。



徹夜で卒論を書いていた私は、眠くなっていつの間にかウトウトしていたようで…。


ふと目が覚めると、いつの間にか日が落ちはじめる時間になっていた。



「…元旦に行かないと、いけない気がする…」



服を着替えて、吉良さんからのプレゼントのコートを着る。


ネックレスと指輪もつけたままだったけど…このまま外出することにした。


向かったのは近所の小さな神社。


ここも毎年元旦は、初詣客で行列ができる。


今年は夕方だからか、人影もまばらだった。




境内に入って本殿にすすむと、少し先に背の高い男性の姿が見えた。




黒いロングコートをさらりと羽織った姿…






嘘…



吉良さん…?






なんで…実家に帰らなかったの…?



思わずあたりを見渡してしまう。



もしかして、美麗ちゃんも一緒かな…って思ったから。


もしそうなら、気づかれないうちに離れたい…。



吉良さんはあたりを気にすることなく、綺麗な所作で、手を合わせている。


誰とも一緒じゃないとしたら、ここで逃げるのはちょっとおかしい…。


私は静かに吉良さんの後ろ姿を見つめた。


礼をして振り返った吉良さん。

早速私に気がついた。




「…あ、あけまして…おめでとうございます」


ペコリ頭を下げる私に、おめでとう…と返してくれた。


「…あの、吉良さん…」


話そうとする私に優しく頷いて、先に参拝をするよう促してくれた。



『…神さま、ありがとうございます。ここで吉良さんに会わせてくれてありがとうございます。…今年も吉良さんが健康で、世界一幸せでありますように…』



参拝が終わって後ろを向くと、コートのポケットに手を入れて、私をじっと見る吉良さんがいた。


…コートの裾が翻って…それだけでとっても素敵…。


顔が赤くなっていくのがわかる。





「モネ、ごめんな」


「…え?」


突然謝られて、驚いて見上げる。





「…携帯を持ちたくないのは、俺が原因だろ?だとしたらそれは、全部俺が悪いから」


だから、ごめんなさい…。


吉良さんが、ポケットから手を出して、姿勢を正して頭を下げてる…



「私こそ…ごめんなさい」



胸元に手をやって、ネックレスの存在と指輪に気づいてもらう。



「…せっかく買ってもらったのに、身につけたところを見てもらったこともなくて…」



言いながらコートのボタンを外して、ネックレスを見せた。



「…今のモネは、俺に包まれてるな」


眩しそうに目を細めて笑ってくれたから、ちょっと、そばに寄りたくなった…。




神社を出て、なんとなく一緒に歩き始める。



「何祈った?」



歩きながら吉良さんに聞かれて、隠すことも忘れて素直に言ってしまった。



「吉良さんの健康と幸せを…」



言ってから、ちょっと恥ずかしくなる。



「…ブレないな」



見上げると、吉良さんは前を向いていたけど…だからこそ見えた。


耳が赤い…。



「…俺も、モネの卒論がちゃんと完成して、大学卒業できること、祈っておいたから…」



あ…ありがとうございます...と言ったところで、私のアパートについてしまった。



「あ…ちょっと、お酒を飲もうと思うので、コンビニに行きます…」



コンビニは吉良さんのマンションの近く。

もう少し、一緒に歩きたい…。



コンビニ前まで来て、吉良さんが言った。



「俺んち…酒余って、困ってるんだけど…」



吉良さんらしくもなく、ちょっと照れたみたいに、さりげなく視線を外して…言われてしまった。



「…じゃ、の、飲ませていただいていいでしょうか…」



フッと笑顔になった吉良さん…私の背中を軽く押して、マンションに向かった。


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