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第11話

これで、会えなくなってしまった…。



もしかしたら、この間に…美麗ちゃんと親交を深めてしまうかもしれない。



でも、そうなるなら…それを吉良さんが望むなら、きっとそれでいいんだ。


きっと…そうだ。



それから私は、ずっと後回しにしていた卒論に取り掛かった。


吉良さん一色だった私の大学生活の間で、一番勉強したかもしれない。


卒論が終わって、卒業見込みをもらえたら…吉良さんに向き合おう。


それまでどれくらいかかるかな…





今年最後の1ヶ月も終わりに差し掛かり、私は吉良さんに出会って初めて、たった1人でお正月を迎えようとしていた。




「…ねぇ!やっぱり私もこっちに残ろうかな…」



年末も卒論をすすめるため、実家には帰らないという私に、霧子が心配そうに言った。



「…何言ってんの?慧くん待ってるんでしょ?帰ってあげなって!」



慧くんというのは霧子の高校時代からの彼氏で、実家が近いらしく、毎年お正月は一緒に過ごしていると聞いていた。



私と吉良さんみたいだな…。



「慧はこっちにも来てくれるからいいんだよ?それよりモモのほうが心配…!」



私に抱きつく霧子。

さっきからハードグミをもぐもぐ食べながら話を聞いていた錦之助が口を挟んだ。


「…ダイジョブ霧子。モモの様子は俺が見てるから!」



そう言う錦之助をジト…っとした目で見る霧子…。



「…あんた、モモが吉良さんと別れたからって…さては狙ってるな?」



あ…。

まだ、別れてない。はず…。


「狙ってるとかないっしょ?それにモモはまだ…ギリ綾瀬先輩の彼女だよ?」



ギリ…。

確かに。吉良さんはまだ、ギリ私の彼氏。



「クリスマスもお正月も一緒に過ごそ!」



錦之助に人懐っこい笑顔を向けられて気持ちが和む。



霧子は私と錦之助に見送られて夜行バスに乗って実家に帰り、私は錦之助と遅めの夕飯を食べて帰ろうということになった。



「…ハンバーグ、だけでいいの?」



霧子同様酒豪の錦之助。

夕飯を食べる=居酒屋に連れて行かれる…って思ってたのに。


「もちろん。ワインもビールも飲まない!」


「はぁ?なに気を使ってんの?気持ち悪いから飲みなよ。どうせ我慢してるんでしょ?」



すすめてあげたのに、結局錦之助も私と同じハンバーグとソフトドリンクを頼もうとするから、私が気を使ってあげた。


「…じゃあ、ワインでも飲もっか?」


デキャンタで頼む?と聞いてみると、なぜかブルブル首を横に振って「とんでもない…!」と言われてしまった。


私と二人きりで酒は飲めない…と言われ、首をかしげているうちに、ソフトドリンクを注文されてしまった。






「…あのさ。モモ…少し痩せた?」


「ん?まぁ、少しね」


「何キロ?」


「え?」


「体重、何キロ減ったのよ?」


ずいぶん細かいことを聞くなぁ…と思いながら「…5キロ」と言うと、えぇっ!と驚かれた。


「5キロってヤバくない?元々華奢なのに5キロも痩せたら、風邪引いたりインフルとかさ…体力なくなって、病気になりやすいじゃん!」


「…食べなきゃ…とは思うんだけどね」


そう言いながら、ハンバーグも半分ほどで手が止まった。



「…やっぱ、綾瀬先輩のこと?…別れたわけじゃないんだから、無理しないで会いに行けばいいのに…」



綾瀬先輩、絶対甘やかしてくれるから…と言われたけど…。



「…今は、会いたくないんだもん」


「イケメン見飽きた?…嫌になったの?熱が、冷めた?」


さすがに4年めになるしな…と言う錦之助。



「全然違う!」



「じゃあ?好きなの?」


「大好きすぎてツライ…」



私はそれだけ言うと、ズルズルテーブルに突っ伏した。


錦之助の手が伸びてきて、何度か頭を撫でられ…なぜか弾かれたように手を離して、あたりを伺った。


…今までも頭を撫でるくらいしてきたのに、何をキョドってるんだろ…?





錦之助にアパート前まで送ってもらい、部屋に入るまで見送られた。


それはまるで監視…みたいで、ちょっと首をひねる。


5キロ痩せたって言ったこと、相当心配されてるみたい。




…やがて、クリスマスがやってきた。


今年はクリスマスもお正月もない。

こんなの受験の時以来だ。


一緒に過ごそっ!なんて言ってた錦之助もなぜか来ないし、正真正銘のボッチクリスマス。



吉良さんは…会社関係の忘年会続きかなぁ。


楽しく、過ごしていてほしい。



毎年、クリスマスは吉良さんと過ごしていたことを思い出す。


いつも素敵なレストランで美味しいディナーを食べさせてくれたけど、去年はすごく豪華なホテルを取ってくれた。


…部屋での食事のあと、シャンパンを開けて、一緒にお風呂に入りながら飲もうって誘われたけど…恥ずかしくて逃げ回ったっけ…。


私は学生でたいして何もできないのに、吉良さんは私に、惜しげもなく時間とお金を使ってくれたんじゃないかな…。



…引き出しから、小さなケースを取り出した。

小さな正方形の箱と、薄くて細長いケース…。


ここ数日、眺めることがなかったな…。



小さい方のケースには…ルビーとダイヤが散りばめられた、プラチナの指輪。


付き合ってすぐのクリスマスにもらった。


きらびやかでもったいなくて…傷つけたら嫌でつけられなかったけど、毎日眺めては喜びに浸っていたんだ。


そっと指にはめてみる…。


痩せたけど、リングサイズは変わっていないみたいで、ちょうどピッタリ。


2年目のクリスマスは…

細長いケースを開けてみる。


指輪と同じく、ルビーと小さなダイヤが花の形に型どられたプラチナのネックレス。


実は指輪とセットだったみたいで、私でも知ってる有名ジュエリー店のロゴを後から見つけて…やっぱり怖くてつけられなかったっけ。


2つとも、毎日眺めてるだけで幸せだった。


…ネックレスもつけてみることにする。




「…わぁ…綺麗…」


鏡の中で、特徴のない私が、品のある赤い宝石に華やかに彩られてる。


「…そういえば、もったいないとか無くしたら怖いとか言って、吉良さんにつけた姿を見せてない…」


何やってるんだろ。

なんだかとっても、悪いことをした気持ちになった…。


そして…ハンガーで吊るされてるコートに目がいく。


これ、実は今シーズン、一緒に選んでその場で買ってもらったもの。


私がもったいないばっかり言うから…って、他のコートを全部持っていかれて、必然的に着るようになった。




…今年も、何かプランがあったのかな…。




物思いに耽っていると…部屋のインターホンが鳴って、誰か来たことを告げる。



そんなわけないのに…今自分が考えていた人を思い浮かべてドキドキ…。





「…ヤッピー!メリクリ!」



ドアの向こうにいたのは…錦之助。



「…あ。思い出して…来てくれたんだ?」



内心のガッカリを出さないように気を付けながら、どうぞ…と手招きしたが…。



「…いやいや!やめとく。まだ、死にたくないし!」



それより…と言って、小さくてきれいな箱を差し出してきた。




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