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第4話

勝手に入って待ってれば良かったかな…


部屋に帰ってお風呂に入りながら思う。


…そうだよね。

合鍵を渡されてるんだし、そうしちゃえば良かった。


…帰ってきて家に私がいたら怒るかな?


今まで機嫌を損ねたくなくて、嫌われたくなくて、だめって言われたこと、全部守ってきたけど。


美麗ちゃんと2人で飲んだこと、連絡先交換したこと、本当?


資格を取るための勉強をしてるとか、私に何も話してくれないのはなぜ?


聞きたいことや確かめたいことがいっぱいある。


…顔を見ちゃうと言えなくなるかもしれないけど…でも今は、与えられる答えを待ってるだけじゃなく、自分から答えを取りに行く方針に変えたくなった。


それはあまりにも短時間にいろいろあって落ちたから、逆に怖いものがなくなった感覚に似てる。



…そう腹が決まったなら。



引き出しにしまっておいた、吉良さんの部屋の鍵を両手に握りしめ…

ちょっとマシな部屋着に着替えてから、私はもう一度吉良さんの部屋に向かった。




……………


「…モネ?」



「ハイっ!おかえりなさい…」



玄関先に迎えに出た私を見て、驚いた顔をする吉良さん。


いつもだったら勝手なことをしてごめんなさいって謝ってたけど、今日は謝りません。


…ごめんなさい…。



「…酔ってるって言ったろ?」



盛大にため息をついた吉良さん、私の脇をすり抜けてリビングに行ってしまう…。


さすが…安定の塩対応。

でもいい。負けない。



冷蔵庫からペットボトルを取り出してゴクゴクしてる…。

離れてそれを見てるだけでも胸が高鳴る。


口元を袖のあたりで拭う仕草が少年ぽくて萌えます…。



「…あ、吉良さん、顔が…」



美麗ちゃんが言ってた、お酒を飲むと顔が赤くなるって…わっ耳も赤い…!




可愛い…!



冷静というより冷製で、冷たいというより冷凍な吉良さんが、お酒を飲むとこんなに顔が赤くなるなんて初めて見た…。



そういえば、私があまり飲めないからか、

ほとんど一緒にお酒を飲んだことがない。


何度かバーに連れて行ってもらったけど、そこは暗くて赤い顔なんて見えなかったし…。



「…吉良さん、また一緒に、バーでお酒飲みたいです」



思ったことは言うんだ…!と思って口に出したら「…は?」と言って固まってしまった。



「モネのくせにバーで酒とか贅沢だろ」



…出た。

ニヤニヤしながらいじめるやつ。



「…20歳になった時連れてってくれましたよね?今ならもっと大人になったから、似合うと思うんですけど」


「…じゃ、バーで待ち合わせするか?」


えぇっ?!

ひ、1人でバーに入るとか…敷居が高すぎる…!


「…2〜3杯引っかけて、色っぽく俺を呼び出せたらお前の勝ち」


2〜3杯引っかけたら…潰れます…


ククッと意地悪そうに笑った後、吉良さんはさらに痛いところをついてきた。




「そんなことよりお前、卒論はどうなってるんだ?ちゃんと書かないと卒業できないぞ?」


…いきなりの説教に萎えます…。



「…こんなとこ来てる暇あるのか?」



「わ…わかってる。ゼミの先生に相談するところだから、吉良…は黙ってて…」



言ってから思わず目をつぶってしまったのは、タメ口と呼び捨てに怒られるかもと思ったから。




「あそ。じゃ、いいんじゃない」



吉良さんは拍子抜けするほどあっさり言って、通りすがりに頭をグシャっと撫でてお風呂に行ってしまった。




たまに…恐る恐るタメ口をきいてみることがある。


5歳も年上だし、社会人と学生だし、お付き合いしているとはいえ、なかなか砕けた感じで話せないけど。


今日はダメと言われたのに来て、タメ口をきいたにしては、不機嫌になってないみたい…。



バーの件で意地悪言ったからサッパリしたのかも?



セーフ…と、心のなかでホッとした。






…………………


そこで気をよくした私は、先にリビングの隣にあるベッドで横になることにした。


寝ていいとか泊まっていいって言われる前に勝手にベッドに入るなんて初めて…。



…帰れって…言われるかな?



セミダブルベッドみたいだけど、私がいたら狭くなっちゃうな…。

そんなことを思いながら目を閉じた。




「…マジか…」



お風呂から出た吉良さん、ベッドにいる私を見て…困ってる…?



はぁ…っと大きくため息をつきながらベッドに入ってくるから…だんだん居心地が悪くなる。



邪魔…だよね。

吉良さん大きいのに、私がいたら伸び伸び寝られないよね…



ソファで寝ようか、それとも帰ろうか…と、体を起こしかけたら…


突然目の前に吉良さんの胸が迫ってきて驚いた!



え?抱きしめられてる?


そのうえ、おでこにチュッって。

頬にもチュッって…。




「…モネち…」




小さい声で言ったの、聞こえちゃった…!



何なんだこの甘い展開は…。

これまでほとんど無かったこと…



何度も口づけられる。

唇以外に…。



ニヤけそうになるのを必死にこらえて、モネモネ言う吉良さんのささやきを聞きながら…意外な幸せの中、眠りにつく。




朝起きるともう吉良さんはいなくて、昨日の意外な幸せに1人包まれていた。


ただ、美麗ちゃんとの2人だけの飲みと連絡先交換の件は…結局聞けなかった。


と、いうより…吉良さんと一緒にいられる喜びのほうが強くて、聞きたいことなんて完全に忘れちゃってた…




そこで、手紙を残して帰ることにする。



『話したいことがあるから週末会いたいです』



悩んでることを打ち明けて答えをもらおう。





…………


その後、1度家に帰って大学に行くと、遠くに美麗ちゃんを見かけて駆け寄る。



「美麗ちゃん…!昨日は急に1人にしてごめんね…」


「…ううん、いいよ。あの後綾瀬先輩にも慰めてもらったし!」



ほら…っと、メッセージアプリのトーク画面を見せてくれた。


確かに…昨日の夜吉良さんが返信したらしいトークがあった。


時間はかなり遅め。

…昨日私が寝てからのことみたい。


…美麗ちゃんが送ってる文章は長めでよく見えないけど、それに対して吉良さん…ビックリマーク付きの文章に、グッドポーズのうさぎスタンプまで送信してる…。



…私にはいつも短くて味気ない一言だけなのに…。


昨日モネモネの甘々だった吉良さんを思い出す。

私を腕に抱いて、別の人とメッセージのやり取りするなんて…。



苛立った私は、吉良さんが使ったのと同じうさぎスタンプの『激おこプンプン丸!』を選んで、吉良さんに唐突に送信した。


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