怒りの叫びの直後、発砲音が路地中に二・三発鳴った。
「ノ、オオォオオオッ!?」
彩菜を傷つけた男は肩・腕・脚を撃ち抜かれて、悲鳴を上げながら地面に転んで、のたうち回る。
「ヤニカス仲間のクズが、ゴミクズが!俺の彼女によくも、傷をつけやがったな、血を流させたなぁ!?死ね殺す、ぶち殺してやる!!」
そう怒鳴りながら、カイラは倒れた男の腹を刃物で突き刺した。上がる血しぶきと男の苦悶の絶叫。カイラは返り血を気にすることなく、相手の腹部を滅多刺しした。
「人に害しかもたらさない人間のクズの分際で!社会のゴミカスの分際で!ゴミはゴミらしく、誰にも迷惑かけないところでひっそり死んどけよ!!
死ね、死ね!死にやがれぇええ!!」
肉を突き刺す音、その後に血がグジュグジュと噴き出る音、男の悲痛に満ちた絶叫が何度も響く。
滅多刺しされてる男の悲鳴は徐々に弱くなっていき、やがては刃物を突き刺されても声が上がらなくなった。刺された箇所と口と鼻から赤い血を流したまま、男は事切れてしまった。
「はぁー、はぁー、はぁー………。最初から俺らの前に現れずどこか引きこもってりゃ、こんなに苦しんで死なずに済んだのによ………。マジで下らんカスだわ」
刃物を持つ手と服の袖、そして着ている服の大部分が返り血で真っ赤に汚れてしまったカイラ。両手が血で濡れている為、拭うことも出来ない。
そんなカイラと彩菜とまだ生き残ってる柄の悪い男たちのもとに、この辺りで住んでる住人たちが駆け寄ってきた。カイラたちの怒鳴り声や拳銃の発砲音があったのだから、当然何事かと思い、ここまで様子を見に来たのだ。
そしてその惨状を目にした住人たちはこぞって悲鳴を上げて騒ぎ始めた。まず目に移ったのが、刃物を持ち体中返り血で汚れてしまってるカイラだった。誰がどう見てもカイラがヤバい奴に見えたことだろう。
それに加えてカイラのすぐ傍には、ひげ面のヤニカスをはじめとした柄の悪い男の死体が三人も転がっている。誰がどう見てもカイラがやったものだと思い、彼が凶悪な殺人鬼として映ったことだろう。
この地域は治安が悪く、殺人事件も度々起こるようなところではあるが、こんな日中の時間でしかも大胆に何人も殺害する場面に遭遇することはさすがに無い。それ故に事件現場を目撃した住人たちは皆、動揺し、恐怖し、すぐさまカイラから離れて、逃げていった。生き残った柄の悪い男たちも殴られたダメージでフラフラしながらも、住人たちに紛れて一目散に逃げていった。
「はぁ、はぁ………住人たちにけっこうバレちゃったな。これじゃあすぐ通報されるだろうな。いやそれよりも、彩菜大丈夫か!?」
「う、うん……。血が出てて痛いけど、そんなに深い傷じゃないよ。でも、あーあ、服が破けちゃってる……気に入ってるものだったのに」
「そうか、深い傷じゃなくてよかった。でも病院には行っとこうな。手当てしてもらおう」
「だけど、大丈夫かな…?警察がすぐ来ると思うけど。その“殺人許可証”って、外国でも通用するの?」
「このカードには世界のどこにいても、所持者の殺人の合法化が適用されるって記載されてるから、大丈夫だと思う。思いたい。もしダメだったら、彩菜にはホントに申し訳ないけど……」
「あ、ううん!ごめん、変なこと聞いて!絶対大丈夫!そのカードにそう書かれてるんだったら、ここで殺人犯しても大丈夫だよ!じゃあ、病院に連れてってくれる?」
そうして三人もの悪漢を殺害したカイラは、彩菜を連れて病院へ移動していった。彼の服には血がべっとりついてるのだが、本人がそれを気にする素振りを見せることなく、市街地の中を普通に歩いていく。
当然だがカイラたちとすれ違う人々は、おぞましいものを見る目を向けたり悲鳴を上げたりと、大変な騒ぎを起こすことになった。街中で騒ぎになれば当然人目につくことになり、やがて警察官にも目をつけられてしまう。
しばらくしてシュートと彩菜のところに警察官たちがやってきて、二人に職務質問をしてきた。
「(その服についてるのは、血なのか?どうしてそんな格好をしている?)」
日本語以外の言語には疎いカイラは、英語で質問されまくって困ってしまう。しかし傍にいる彩菜のお陰で、どうにか翻訳してもらった。
「(ちょっと、そこの路地で人を三人くらい、殺してきました。この服に付いてる血はそれでついたものでーす)」
カイラが軽い調子でそう答えた途端、警察官たちは険しい形相でカイラを取り囲んで、拳銃を構えて威嚇してきた。
「うぉお!?アメリカの警察って躊躇なく銃を向けてくるのな!?」
拳銃を向けながらハンズアップ!と警告してくる警察官たちにたじろぎながら、カイラは素直に手を挙げる。その間カイラは彩菜に目を向けると、自分のポケットから「アレ」を取り出すよう合図する。
カイラの意図を読んだ彩菜はその通りに動いて、カイラのポケットから白いカードを取り出して、彼の手に渡した。
「(――そこの女!何をしている!?お前も殺人に加担してるのか!?)」
「(待て待て、待てよケーサツども!その子は殺人なんか全くしてねーよ。全部俺がやったことだ。後で現場行って、指紋でも確かめてこいよ。
それよりホラ、これ!これを見てくれよ!)」
彩菜への注意を再び自分に戻させると、カイラは警察官たちに「殺人許可証」を見せつける。すると彼らははじめは訝しい視線を向けるだけだったが、段々と顔を曇らせていき、ついには構えていた拳銃を下ろしはじめた。
「(………。くそっ!殺人が起きたところへ行くぞ!)」
一人の警察官がそう吐き捨てると、残りもそれに続いてカイラたちから離れていった。
(――アメリカポリスにも、この許可証が通用した!これマジで、世界中のどこでも効果があるカードなんだぁ……最高じゃん!!)
アメリカでも殺人による逮捕を免れると知ったカイラは、自分はもう無敵だという気分になっていた。