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「多人数相手との実戦」②

 「(ヘイ!お前らいつまでビビってやがんだ!?拳銃持ってるとはいえ相手は一人だけだろが!お前らも武器持ってんだろ、さっさと取り出せ!!)」


 仲間の死にまだ動揺している仲間たちに、ひげ面のヤニカスは再度そう怒鳴りつけると、右手に持つ刃物をカイラに向けて睨みつける。


 「(銃持ってるからって、イキってんじゃねぇぞクソ野郎!!)」


 そうしてひげ面のヤニカス男は「ファッキュー!!」と叫んで低い姿勢で走り、カイラを刺しにかかった。


 「いや遅ぇよ。足遅すぎて、よゆーで狙えるわ」


 刃物を持った凶漢がこちらに走り迫ってくるのを見ても、カイラは全く動じることなく、走ってくる相手に照準をしっかり定める。そして、男の脚を正確に撃ち抜いた。


 「グ、グガッ……!?」


 左脚を撃たれたひげ面のヤニカスは盛大に転倒して地面に激突してしまう。遅れてやってきた激痛に苦悶の声を上げて地面でのたうち回りはじめる。彼の手にあった刃物は、転倒した拍子に離れたところへ落としてしまっていた。

 その刃物をカイラが拾い上げると、邪悪な笑みを浮かべながら刃物を手に、ひげ面のヤニカス男のところまで移動する。


 「さっきの……明らかに殺しにきてたよな?だったら俺が今からてめぇをブッ刺しても、正当防衛ってことになるよな?

 まぁ、それが通らなかったとしても、俺の殺人はみんな、合法になるからどうでもいいんだけどな」


 刃を下の方…首元のところに向けた状態で刃物の柄部分を持って残酷な笑みを浮かべるカイラを見たひげ面のヤニカスは、激痛に苦しみながらも顔を真っ青にさせる。


 「(た、頼む……。見逃して、くれ)」


 自分の生殺与奪の権利を相手が完全に握っていることを把握したひげ面のヤニカスは、英語で命乞いの言葉をカイラにかけるが、


 「何言ってんのか分かんねぇよ、クソヤニカスが。死んどけ」


 と無慈悲な返答の後に刃物が振り下ろされ、そのうなじ部分に深く刺さった。


 「――カ、カ……プ、ァ………」


 口から血の泡を吹き出すと、ひげ面のヤニカスはばたりと倒れて、そのまま息絶えた。うなじから噴き出た血で、ひげ面のヤニカスの周りに血だまりが出来上がっていく。

 二つの血だまりが出来たことに、彩菜は息を呑んで凝視し、柄の悪い男たちは全員顔を真っ青にして戦慄する。


 「(ウ、ウソだろ!?アイツ、人を二人もやりやがった!?)」

 「(あのジャパニーズ、銃の扱いに慣れてもいるぞ!?狙いがどれも正確だった……)」

 「(おい、これヤバいだろ……!アイツその気になれば、ここにいる俺ら全員も撃ち殺しにくるんじゃあ…っ)」


 カイラの銃の腕が優れてること、彼が人殺しに躊躇しないことを理解した男たちは、数的有利であるにも関わらず完全に消沈していた。最初は余裕たっぷりでいきり立っていたのに、人二人を簡単に殺してみせたカイラを前にして、その勢いがすっかり萎れてしまっていた。


 「まだ五人以上残ってるなぁ。ここから狙って順番に撃ち殺していくか、接近して一人ずつ刺し殺していくか。どちらにしようかな~~」


 右手に刃物を、左手に拳銃を持って、それらをフリフリ動かしながら、カイラは男たちを挑発する。とはいえ多人数との喧嘩・殺し合いが初めてである為、内心十分に注意を払っているカイラだった。


 「カイラ、本当に大丈夫?まだあんなに残ってるし、一人で全部やるのは危ないと思うよ。私も拳銃使う?」

 「いや、それだと彩菜が捕まるかもしれないだろ。殺し関連の罪を犯すのは俺一人でいい」


 彩菜を下がらせると、カイラは男たちに向かって駆け出していった。その予想外の行動に、男たちは戸惑うばかりで、一番近くにいた男が拳銃のグリップでぶん殴られた。


 「おらおらどうしたぁ!?そんだけ数揃えておいて、どいつもこいつも何ビビってんだ!?人殺したくらいでビビってんじゃねーよ、ゴミカスども!!」


 そう怒鳴りながら、カイラはそのまま拳銃のグリップで男たちを次々殴り倒していく。


 「(ふ、ふざけんな……!一人のくせに、調子乗ってんじゃねぇええぇええ!!)」


 しかし一人の男が我を取り戻し、そこから怒りで発狂しながら、カイラに突っ込んでいった。


 ガッ、ドガッ 「ぅお!?ってえ……っ」


 死角からどつかれた為、カイラは不意を突かれてよろけてしまう。


 「(し、死ねぇえええ!!)」


 その隙を突かんと、男はポケットから刃物を取り出して、カイラの体目掛けて刃を突き刺しにいった。


 「あ、危ない!!」

 「――っ!(こ、この女ァ……!)」


 しかし彩菜に突き飛ばされたことで追撃は失敗に終わる。さらにカイラを刺すのを邪魔されたことで、男の怒りの矛先が彩菜に向けられてしまい、彼女に襲い掛かかる。


 「ひっ……!?」

 「(オマエも、死ねやクソアマ!!)」


 怒りで我を忘れたのか、男は躊躇なく刃物を彩菜に向けて、振り下ろしていった。


 グサッ 「い~~~ったい……!」


 咄嗟に身を捩って回避行動をとった彩菜だったが、刃物からは逃れられず、右腕に刺さってしまった。


 「彩菜……!?」


 彩菜が刺されたのを見て、カイラはまず硬直してしまった。彩菜という「大切な人」を傷つけられたことにショックを受けたこと、自分がここまでショックを受けたことに対する驚きが最初だった。


 「――てめぇえええええええ!!」


 次いで、彩菜を傷つけられたことに対する怒りが、さらには彩菜を傷つけた男への猛烈な憎悪と殺意が。

 それらがカイラの中をぐちゃぐちゃに侵食していき、彼に一つの行動をとらせた。


 「ぶっ殺してやる!!」

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