「……何か用かなぁ君たちぃ~~~?そこで大勢立たれると通行の邪魔になるんだど?」
行く手を遮ってきた柄の悪い男集団を前にしても、カイラは臆した様子を全く見せることなく、耳をほじる仕草を見せながら相手にそう問いかける。反対に、傍にいる彩菜はさすがに怯えを見せて、カイラの背の後ろへ身を隠す。
「この子を怖がらせてんじゃねーよ。何か用があるのかって聞いてんだよ」
彩菜を自身の後ろへ隠して、カイラは高圧的な態度のまま相手集団に日本語で問いかける。
「(この野郎、女の前だからって余裕かましやがって!)」
「(泣いて謝っても許さねぇ!動けなくなるまで甚振ってやる!)」
「(その後は、あいつの後ろに隠れてるエロい体した同じ日本人のメスを、あいつの前でブチ犯してやろうぜ!)」
ヤニカスのひげ面男の仲間たちは英語で口々にそんな下衆な発言をする。カイラに対して切れたり、殺意を向けたり、彩菜に邪な視線を向けて厭らしく笑ったりなど、敵意と悪意が混ざった感情・視線をぶつけてきた。
そんな男たちの邪悪さに触れて、彩菜はさらに怖がってしまう。それをみたカイラは、頭をプッツンさせた。彩菜を怖がらせ続けてる男たちを明確な敵とみなし、排除する姿勢をとりはじめる。
「………何か見た顔の奴がいるなと思ったら、てめぇはだいぶ前にエンカウントしたヤニカス野郎じゃねーか。水をかけたら、路上喫煙してたてめぇが悪いにも関わらず逆切れしてきたんだよな。だから死なない程度くらいまでぶん殴って蹴りまくったんだけど。
なるほど、その様子だと全く反省してねーと」
数か月前に遭遇した路上喫煙者のことに気付いたカイラは、彼が何しにきたのかを大体察した。
相手の男たちの何人かが拳を鳴らしながらカイラに近づいてくる。威嚇のつもりだろうがカイラには全く効いてない。
「やっぱりお前みたいな人間のクズは、あの時殺しとけば良かったんだな。ダメだなぁ、一回だけ改善する機会なんか与えるんじゃなかった。ヤニカスなんかが改心するわけなんか無いもんなぁ…!?」
段々語気を荒げていき、カイラは買い物袋…つまり先程購入した拳銃を取り出すと、慣れた手つきで整備していく。前に出てきている男たちは、カイラが拳銃を出したのを見ると驚愕して足を止めてしまう。
「こいつ、拳銃を出してきたぞ!?」と前にいる男たちは動揺をむき出しにし、それ以上カイラへ近づこうとはしなかった。
「……丁度いいや。外で初めての銃撃は、こいつらで試させてもらおうか。
どうせこいつらは社会のゴミで人間のクズ……そして俺を嫌な気分にさせるだけのクソ野郎共だ。
何よりも、さっきから彩菜を怖がらせてばかり……もう死ねよ」
そこから先のカイラの行動は、まるでごく日常的な動作を思わせる程に、流暢なものだった。
息を吸って吐くかのように、拳銃のリボルバーを動かして、そして――引き金を引いた。
拳銃の銃口から銃弾が撃ち出されると同時に発砲音が響き、銃弾が銃口から完全に出ていくと真っすぐな軌道に沿って空中を進んでいき、やがて一つの障害物へ着弾する。
その障害物は猛スピードで放たれた銃弾を跳ね返すような硬さは用いておらず、その身に銃弾が深く抉り入ることを許してしまう。
――障害物…つまり、前に出ていた柄の悪い男の一人の胸部分に、カイラが撃ち放った銃弾が深く抉って入った。
「ワ……ワッツ……………?」
胸を撃たれた男は自分の胸元に目を落として呆然と呟き、胸部分に血がジワリと噴き出てきたと同時に、盛大に吐血した。やがて糸が切れた人形かのように、地面にどさりと倒れた。
「ヘ、ヘイ……?」
傍にいた男は倒れて動かなくなった男を呆然と見下ろした後、声をかけるが、返事は返ってこなかった。撃たれて倒れた男の胸からは血がどくどく流れ出てきて、彼の周りの地面に血だまりが出来上がる。
自分の中にも流れている赤い血が大量に噴き出ていて、倒れた男から生気が感じられなくなったのを見て、柄の悪い男たちはカイラが本物の拳銃で仲間の一人を撃ち殺したということを理解した。
「「「「「~~~!!」」」」」
途端に男たちは激しく動揺し、驚愕し、戦慄しはじめる。カイラの後ろにいる彩菜も思わず息を呑んで、彼を見つめていた。そして当の本人は、銃口から出てくる硝煙を無表情で見つめるだけで、自分がたった今その拳銃で人を一人撃ち殺したことに対する狼狽や焦燥などは、微塵も見られなかった。
「うわ、すげぇ……撃たれた人間の体から、血があんなにも……」
それどころか、撃ち殺した男の体から出続けてる血の量に感心すらしていた。
「(オイ、あいつ……ひ、人を、撃ち殺しやがったぞ!?)」
「(しかも、殺しといてケロッとしてやがるぜ!?)」
「(や、ヤベーよ!マジヤベーってあいつ!)」
柄の悪い男たちは英語でパニックった発言を連発して、すっかり烏合の衆となってしまった。
「(へ、ヘイ!?お前ら狼狽え過ぎだ!!こうなったら俺らも殺しにかかるぞ!奴からやったことだ、俺らが殺しても罪は軽くなるに違いねぇ!ほらさっさとやるぞ!!)」
ひげ面の男は仲間たちに発破をかけると、ポケットから刃物を取り出して、カイラに明確な殺意を向けた。