永住しない、滞在期間もそう長くはしないということで、二人暮らしが可能かつそれなりにしっかりした賃貸物件をおさえて、そこを我が家としてしばらくアメリカ滞在することになったカイラと彩菜。
幼少期に家族と海外での生活を経験したことから、色んな手続きは全て彩菜が済ませてくれた。資金の出所も当然彩菜からで、資産の一部をドル貨幣に変えることでアメリカでの生活の資金を補充した。
二人が滞在する地域は、銃を扱う訓練や資格を取得することも出来る施設へすぐ通えるところを選んだ。ただそこの治安はそんなに良くないところとなっており、彩菜のような女性が油断しているとすぐ犯罪に巻き込まれるようなところとなっていた。
そんな治安の悪さを気にしないで選んだのは、カイラが彩菜を守ると誓ったのと、彼の荒事に対する解決方法に自信があったからだ。
「俺の予想が正しければ、日本国外で人を殺しても、俺は許されるはずだ」
根拠のない推論だがいざという時は殺人で解決を図ることにしたシュートだった。
日が暮れる前に滞在先のそこそこ上等なアパートに到着した二人は、寝具や家具は明日買い揃えようとのことで今日は何も無いところで寝ることにした。
翌日は、予定してた通り寝具や必要最低限の家具・家電製品を買いに出かけたり、その後は一番の目的である銃の所持のライセンスを取得する施設の下見をしたりなど、生活の準備等に時間を費やした。
カイラは資格取得する為の訓練がどんなものかの調査を、彩菜はアメリカの株投資はどんなものかとアメリカにいる知り合いの投資家たちから情報収集をと、それぞれ必要な準備をして過ごした。
そしてアメリカ滞在開始から三日目、カイラは銃所持のライセンスを扱う施設…ハンティングライセンスの取得・銃の訓練施設へ通い始めた。
どのようにして銃を購入・所持する資格を取ろうかと彩菜と一緒に探した結果、狩猟免許証を取ることががいちばん早くて簡単に銃が手に入るという結論になり、ハンティングライセンスの取得を目指すことにした。
訓練施設にて合計10時間もの講習を受けた後、必要書類とパスポートおよび住民票の写しなどを提出することで、通い始めてからわずか三日でカイラはハンティングライセンスを取得した。
しかしそれで終わりということにはならず、同施設にて銃の扱いに関する更に細かな講習を受け、銃を実際に扱う訓練を何日も行うことを要された。
カイラは講習には辟易していたが、銃を撃つ訓練は嬉々として行っていた。まずは動かない標的を中距離・長距離とで狙い撃つ訓練を、それが上手く出来るようになってからは動く標的を撃って当てる訓練に移っていった。
鹿から狐といった様々なサイズの動物を仕留める…といったシミュレーションとのことだが、銃初心者のカイラはそこで大変苦労する羽目となった。
それでも一か月間訓練し続けることで、動く標的も楽々と撃ち抜くことが出来るようになった。
「………よし。銃の扱いはこれくらいまでいけば通用するだろ。殺す相手はどうせ素人ばかり。銃なんて目にしない環境でしか生きてない奴らだろうし、動物よりも鈍いだろうし。撃ち殺すのは絶対簡単だ」
教官からも腕前を褒められるほどに上達したカイラは、銃の訓練はこれくらいでいいだろうと判断した。
「彩菜も銃の訓練してるんだっけ。調子はどう?」
「わ、私は……全然まだまだだよ。いちおう、発砲時の衝撃には耐えられるようになったけど……。カイラはもう訓練所へ通うのは止めるの?」
「ああ。銃の訓練はもう終わりにする。けど、鍛錬自体はまだ続ける。体をもっと鍛えようと思う」
「喧嘩で勝つ為?」
「そう。スタミナもつけないとな。どんな状況にも対処する為に、強い肉体と無尽蔵…に近いくらいのスタミナを、ものにしたい。どれも殺人を簡単なものにするための必要なことだと思ってるから」
そうしてカイラは次に、肉体を極限まで鍛えることにした。肉体を鍛えるとは言ったものの、誰もがすぐに思いつくようなジムでのトレーニング…ではなかった。カイラが選んだ鍛錬法は、陸軍・海軍式のトレーニングだった。
体を酷使し続けることでアスリートやボディビルダーとは違う性質の筋肉をつけること…つまり実戦に長けた肉体を目標に立てた。
軍隊式のトレーニング法は動画サイトを見て参考にして、人気が無い場所でカイラは一人、トレーニングに励んだ。
錘を入れたリュックを背負いながらの長距離ランニング(慣れれば手にも負荷をつけて走る)、軍隊式の筋トレ、徒手拳闘の訓練(ボクシングジムのトレーニングも行った)、短距離走を何本も(学生時代の陸上部と同じもの)…などを、休息日を入れつつ毎日行った。
さらに、カイラがやる鍛錬は何も一人でやるトレーニングだけでは止まらなかった。彼は一人トレーニングの他、実戦も行っていたのだ。
実戦と表したものの、正しく言うなればストリートファイト――喧嘩である。
カイラと彩菜が滞在している地域は、他の地域と比べて治安が良いとは言えない。日常的に殴り合いの喧嘩が見られるし、窃盗や強姦、殺人まで一歩手前の傷害事件といった犯罪も多発している。
賃貸物件を扱ってる者も、この地域はお勧めしないとカイラたちに忠告したくらいだ。それでも彼らはこの地域の賃貸物件を寝床とした。それには理由があった。
「ここで色んな奴らと喧嘩する為だ!喧嘩で強くなりたいなら一人でトレーニングするだけじゃ足りない。実際に誰かと戦って経験を積まなければならないと思ってる。だから敢えて、こういう治安が悪い地域を選んだ。ここなら喧嘩相手に困らないだろうからな」
そういった理由で喧嘩による鍛錬をする意思を胸に、シュートは夜の街路をさまよい歩いて、向かいから歩きタバコをしている柄の悪いひげ面の男に、水が入ってるペットボトルをその顔面に投げつけて、その後は相手の体に跳び蹴りをかました。