食事の間、カイラと彩菜はさらに会話に花を咲かせていた。
お互い何かドラマや映画、アニメや漫画を観て読んでるか、学生時代でどんな嫌なクラスメイト・ムカついた奴がいたか、学校で一人の時はどう時間を潰していたか、カイラの陸上競技における全盛期のこと、彩菜の投資の成功例をそれぞれ教えたりと、時間が経つにつれて二人は会話を楽しむようになり、意気投合していった。
「はぁ~~~……。久々によく食ったし、よく話しもした。本当に俺、一銭も出さなくていいのか?けっこう頼んで食っちまってんだけど」
「大丈夫です。私がそうしたいだけですので。それよりもあの……楽しかったです!凄く、凄く…。誰かとこんなにお話し出来て、いっぱい喋れて、こんなにも話が弾んだのは、本当に久しぶりで……!」
彩菜は興奮した様子で声を上擦らせながらも、久しぶりに誰かと会話したことへの喜びをカイラに伝えた。
「あー……俺も。こういうのすごく久しぶりな気がする……いや久しぶりだ。
仕事してた数年間も、それを辞めてからの一年間も……てか大学4年生くらいからずっとだな。誰かとこうやってまともに、楽しく会話したのは、今日以外だと数年ぶりになるわ。
真部さんとは話が凄く合ってばかりだから、話しがどんどん弾んでいって、時間が経つのも忘れてたくらいだ」
「え、えへへ……。私も、時間が経つの忘れてました。桐山さんとお話しするのが段々楽しくなってましたから……」
あどけない笑みを浮かべてそう話す彩菜に、カイラはまたしても心を躍らせる。年下の異性…それも美女といえる彼女にそう言われてしまって、有頂天になるなと言われてもカイラにとっては無茶なものだった。
「あのぉ、私のいきすぎた思い込みになるかもしれないですけど……私と桐山さんは、話のうまが合う仲なんじゃないでしょうか」
「いや、思い込みじゃないと思うぞ。俺も真部さんとは話が合うし、話しやすい仲になれると思った。漫画やアニメだけじゃなくて、ラノベの話までイケるとは思わなかったし」
カイラがそう肯定すると彩菜は嬉しそうに照れ笑いをこぼした。
それからしばらく会話の心地よさの余韻に浸った後、カイラから真面目な話が切り出される。
「あのさ、これからのことなんだけど……」
カイラがまず話したのは、数日後に彩菜のもとを訪ねてくるかもしれない警察の対処のことだった。今日の出来事に大きく関わってた彼女のことの調べがついていないはずはなく、早ければ明日にでも警察が動くことだろう。
カイラが提案したのは、彩菜のもとに警察が訪ねてきた時は自分のところにすぐ連絡してほしいとのこと。カイラ自身が彩菜は無実だと証言する役を買って出るというのが狙いだった。
それともう一つ、カイラ自身の用も済ませるという狙いもあった。彩菜の無実を証明すると同時に、自分が殺人犯だと警察に自白するつもりでいる。
さらにその場で「殺人許可証」を見せることで、色々起こり得るであろう面倒事をまとめて消し去ることも企んでいた。
どうせ後々に自分が殺人事件の犯人だという事が明らかになって、逮捕状を持って押し入ってくるのならば、自分から出向いてさっさと片付ける方が鬱陶しい思いをせずに済むだろうと、カイラが考えたことだった。
「俺の携帯電話番号がこれだから。それかラインでも良いけど……あ、全く使ってないからアプリ消してら…。再起動っと」
「い、良いんですか…!?電話番号を教えてもらったりライン交換してもらったりして……」
「別に何も問題無いだろ。連絡先を交換してればまたこうやって雑談したり、都合良ければ食事も一緒したりなんかも……(金全然無いから無理だと思うけど)」
「う、嬉しいです…!誰かから連絡先をもらえるのは、子どもの頃親に携帯電話買ってもらったその日に親の番号を登録してもらった時以来です…!」
「そ、そうなんだ……。俺もまぁ、最後に登録したのは大学1~2年の時だったかな。後は働いてたところくらいだったけど、あれはノーカンでいいだろ」
感激した様子で連絡先を交換する彩菜に、カイラは苦笑してしまう。
「よし。これであんたがめんどくさいことに巻き込まれることは無くなるはずだ。
それで、次に話したいことなんだけど―――」
「あ、あの!私からもいいでしょうか…?」
カイラが次の用件を話そうとするところに、彩菜が手を挙げて切り込んできた。カイラは少し目を丸くさせたが、話す順番を譲った。
「桐山さんは……今後も今日みたいな人を殺し続けていくんですか?」
「ん……まぁそうなるだろうな。これからもその場でムカついた奴をぶち殺すっていう、突発的な殺人ばかりになってくと思う。
けど――それだけに止まるのは勿体ないと思ってる」
そう言ってカイラは悪い笑みを浮かべる。常人であればまず思いつかないようなことを、彼は口に出すのだった――
「これまでの人生の中で、過去に俺をクソムカせた奴らを見つけ出して、ぶち殺してやろうって考えてる。ちょっとした復讐ってやつだな…!」
邪悪な笑みを見せ続ける桐山カイラは、「殺人許可証」を更にとち狂ったことに利用するつもりでいた。