さてここからは2024年12月以降の書き下ろしとなります。
今年は実家を処分して海越えて北の大地に移住、という超特大イベントがあったわけですが、吉屋信子関係にしても、個人的大イベントがありました。
それが、「蝶」の復刻同人誌発刊ですよ!
「蝶」は前述してますが、昭和12年の「新女苑」から発掘した吉屋唯一の戦前ホラー長編です。
それでもって「単行本が見つからないー!」「つかこれ隠されてないかー!」と色々12年前に走り回ったシロモノです。
それで当時から既に色々Web上で書き散らしていたワタシとしましては、「蝶」って作品があるよー! 見てー! という主張はしてたし、あらすじは載せていたんですが、いかんせん、「学術論文」ってのは、本当! に! 読むのは限られた層なんですね。
ワタシがアカデミア界隈にいたのはたった2年ですが、「あ、こら広めるにはあかん」と思わされました。
そら無論、きっちり調べた「現時点でわかっていること」+「考察」が近現代文学系論文ですが、まず読むまでにだいたい皆様たどりつけない。
そんでなおかつ特有の言葉つかいがあるので、まー読みにくいったらありゃしない。……特にワタシが居た2010年代はまだ何というか、くどくどしいというか、「ここまでは分かってるんだろうなぁ?」的な何かを常に感じられる文章ばかりでイライライライライライラしておりましたからね。
だから当時もできるだけ分かりやすく分かりやすく! 平易な言葉万歳! で修論も書いたし、ワタシ個人的にPDFで読めるようにしましたし、自費で校正受けてKindleでも出しましたわい。ええ、当時指導受けた時の「こういう言い回しはしびれるねえ」とかいう奴は全部カットですよカット! 知らんがな! って感じで。
そもそもワタシがしたかったのは、「こんなんあるんやで!」なんですよ!
この女文豪と言われた人が、花物語や他ちょいちょいとした少女小説しか知られていないのが腹立ってしゃーないから活動したんですよ。
それこそ現在のメロドラマ系エンタメのお手本な人ですよ!
当人が男女恋愛好きじゃないのに、想像力と構成力で家も建てた馬主にもなった人ですよ!
だからできるだけ、特にエンタメ系創作やる人には知って欲しいってのがあるんですよ!
閑話休題。
で、「蝶」出そうと思ってます、解説書いてくれませんか? という話が来たのは去年。
その時点ではまだ、どういう形で出すのか、お誘いしてくれた嘉川薫さんも色々あたっていた状態で。
一応出版社数社に声はかけたんだそーです。あの方の本業は編集者ですから色々伝手はあって。
ただそこでネックとなったのが「解説」。
あ、よーすんに、今回出たあの解説書いたのワタシですよ。あれが本名で、ぐぐれば論文も幾つか出てきます。
ただ、ホントに零細研究者にすぎないので、ワタシのそれではネームバリューがない。
例えば河出が現在綺麗な表紙で、20年くらい前に単行本で出した奴を、百合ブームにのっかって、ネームバリューのある作家さん達に「解説」書いて文庫を出している訳ですが。
この解説自体も、かなり「売る」ための要素になる訳です。
ただし! この「文庫の解説」というのは、我々多少なりとも研究した奴らにとっては、「解説」じゃないんですよ。あれは感想文なんです。
今回我々は、この知られていない作品に関しては正確なデータや解説をつけて出したかった。
結果として、出版社から出すのは無理でした。で、嘉川さんの持ち出しですよ全部。
それでさすがの編集ですわ。……ワタシが翻刻(この場合は、元の「新女苑」のマイクロフィッシュから印刷したものを目で見ながら改めて打ち込んでいく、という作業。その上に、現代仮名遣いにするとかの作業も入る)担当すればもっと向こうが疲れないで済んだのになあ、と今になって思いますわい。
で、ワタシはワタシで、前々から思っていたモデル小説に関しての部分を前に書いた論文に足し、あと、10年ちょいで考えついたことも付け足したという感じでした。
そんで文学フリマ東京の目玉になってくれまして、第一刷、あっという間に消えてしまい!
後で名古屋の研究者城戸さんから指摘いただいたところとか修正かけての第二刷もはけましたよ!
正確な総数は分からないですが、「1000部は無理」が第一刷に関しての言葉でしたから、それでも数百、全国からの需要があった訳ですよ。ほとんど口コミで!
加えてまた持ち出しの二刷。
ぱったん様の表紙画、ものがたちデザイン様の流麗なロゴも相まって、出した側の手前味噌抜きで美しい本になりましたよ!
国会図書館にも寄贈したというので、ともかくこの小説が行方不明になることはこの先ない訳です。
そして城戸さんという「蝶」という作品を深く研究してくださる方も新しく出てきた訳ですし、ワタシが12年前にしたことは無駄ではなかった訳です。
おかげでこっちの研究からは、ワタシが手を引いてもよいな、とほっとした次第。
何せまだ、ワタシには由利聖子という、吉屋以上! に知られていない作家、作品が散逸しまくっているこの状態を生きてる間に何とかしなくちゃ、というのがあるんですわ。
作品がそこに無い、というのはまず何より消滅の危機ですもん。
全くもって、今回1000人くらい? の人の手に「蝶」が渡ったことは嬉しい限りですよ。
何たって、本当に偶然が重ならなくては埋もれていた作品なんですから。