……とその前に、前項に書き忘れたことを。
「女の教室」の東方社刊「再刊のあとがき」において吉屋信子はこう書いてるんですね。
>(……)東方社の再刊に当っては戦争の巻も入れて初版と同じにした、それも私たちの忘れてはならぬ辛かったあの時代の記念のためである。
「初版と同じ」。
これがまあ気になるとこでして。
吉屋信子というひとは、22年の書き換えをこの時点で知っていたはずなんですな。
その上で、キメラ的に(22年修正版の前2章+修正なし3章)つないだとしたなら、
・知ってたけど、本文の修正までしたことは忘れてた
・知っていた上で確信犯的にそう書いた
前者ということも、無くはない。けどもし後者だったら、
・自分の戦時下の発言はなかったことにしたい
という意図が見え隠れするのね。不完全だとは思うけど。
だって「家庭日記」「花」は戦前版が「朝日版全集」に入っているのだもの。
ただ、その後の作品は「朝日版全集」から相当外されるわけだ。その間にも沢山作品は出してる。
んだけど、戦中の「花」の次が「花鳥」。
次が「安宅家の人々」「女の年輪」、で「徳川の夫人たち(正・続)」「女人平家」という、朝日連載系のもので〆てしまうわけだ。
あ、ちなみこのかたは朝日新聞に大正時代にデビュー作とその次の作品を連載してるんだけど、二作目の「海の極みまで」は「朝日版全集」には入ってないんだよな、何故か(笑)。面白いんだけどね。
もっとも、「朝日版全集」は当人の没後のものだから、誰が選んだのか判らないのだけど。遺族でパートナーの千代さんかもしれないし。
「傑作集」が一番似合う「全集」だしな!
……長くなった。ともかく戦時中発言については一旦ここまで。
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ちなみに。
このかたについて「首をかしげた」のは静大在学中だな。
ただそれをちゃんと読んで更に疑問になったのは豊橋在住中でな。一人暮らしやら趣味で飛び回りつつ、ネットのあんまり発達していない時代だ、古本で見つけるとキープしていた。
実家に戻ってからは、まあストレスもあってか、ともかくネットで探してこれでもかとばかりに集めたなあ。
で、「朝日版全集」の最終巻に載っている年表と重ね合わせる作業とか始めてだな。
色々眺めてると「版で違う?」とか、「何か内容が奇妙?」とか思うことが多くなってだな。
で、院にいた時代、大学図書館もずいぶん利用させていただいたが、ほとんどは自分のストックで調べてみたわけだ。
で、とりゃず長編のみのリスト。
https://plaza.rakuten.co.jp/edogawab/diary/201805310008/
全仕事リストというわけにはいかない。ずらずらならべたのはpixivにおいてあるが……
https://www.pixiv.net/artworks/44405384
ちなみにこの大きさだと、ブログだとファイルが大きすぎると出るので、絵が主体のpixivにしか置けないという。
ともかく分割したのでずれてるのと小さいのは申し訳ない。
2013年に作った、もともとA3横でもう少し情報が多い。が、まあ長編小説のリストなので勘弁してくれい。
とりゃず問題にしたのは戦前のものね。4分割のうちの上3つ。
戦後は「知られてないだろーがこんだけあったんたぜ」という見せびらかしどす。
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ちなみに版を問わなければ「薔薇の冠」以外は手元にあったり図書館で借りたりして読んでる。
「硝子の花」が豊橋市立図書館にあったのは奇跡。
図書館検索要領を覚えてから探し回ったけど、殆ど無いんだよなあ。
名古屋市の鶴舞図書館にはかなり現存している。少女小説も相当残っていた。戦前からある図書館は強い。
さて何からはじめようか。
修論の執筆時、たぶんこんな考えだったと思うんだけど。
戦争に関する部分を削ったり意見をさらっと変えたりしたあたり、書き手としてこの人いったい何考えてたんだ?
→(百歩譲って当人は根本的には戦後同様反戦的な考えをもってたとしよう)
→じゃあどう使われて小説がああいうテンプレ的なものになったんだ?
→そもそも「どういう役割を上からは期待されていたか」?
となっていったんだけど。
そこでまあ、一応文系院生だったし、図書館にはいろーんな本があるし、という中でこういう興味深い資料がある、ということを見つけたわけだ。
それを当時、近代政治史を講義してくれてる先生が東京で資料を取ってくるついでにコピーしてくれた! ありがとう! ということがあったのさ。
ということで論文から軽く引用。
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>昭和十六年七月に纏められた情報局第一部による輿論指導参考資料『最近に於ける婦人執筆者に関する調査』は当局が婦人執筆者に対する評価と利用法をまとめた資料である。陸軍大佐長勇のサインが表紙に記されたこの文書には、本文前に以下の前置きがある。
昭和十五年五月号より同十六年四月までの八大婦人雑誌に於ける主なる婦人執筆者に就き量的質的方面より考察し余録指導上の参考資料として調査せるものである。
凡例
一、本書は長期戦下銃後の一端を担ふ婦人に対し或程度の指導力を持つと認めらるゝ婦人執筆者群の動向に関して調査し、輿論指導上の参考資料として編纂したものである。
二、本書の内容は可成広く利用せらるゝ事を希望するが取扱上敢て部外秘とした。
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大東亜戦争の年に情報局は女性の執筆者について調査していたわけだな。
プロパガンダにどのように今決して多くない女性の書き手が使えるか、と。