これは昭和34年の話。
……何ともいえない気持ちになった表現が多々あったという。
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(……)階上には二つの部屋がある。一つは照世のそれ、その隣は横浜から娘の美枝が泊りに来た時に使う部屋だった。
その二つの室の間に瓦斯ボイラーで沸かす浴室と水洗便所がある。そこにフランスでプッティ・シュブー(小馬)と隠語で称する白い陶器の洗滌器も取り付てある。
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昭和34年発行の長篇小説『風のうちそと』からです。
週刊朝日『読売新聞』に昭和33年3月から12月まで連載されたものですが、あ゛~個人的にはあまり好きじゃあないです。
つかツッコミどころ多すぎです。
群像劇なんで何がどうしたと一口で言えないのが何ですが、まあ実にごちゃごちゃしております。
とりあえずここに出てくる照世さんは女実業家です。
そんで年下の彼氏持ちです。
ですのでこの小馬――まあビデですね――に関しても、こんな意図があります。
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(……)娘の美枝には大人の女性の清潔のためと説明してあるが――照世はこれを避妊にも効果ありと認めている、不用意とものぐさをして生んではいけない子を持って慌てる女には照世は絶対になりたくなかった。
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避妊のためだそうです。
ちなみにビデに関してウィキ では「効果なし」と出てましたがw
うん、無理でしょ絶対。そう考えていたことが怖い。
まあ昭和34年ですし。女の側からの避妊方法ってのは今でも色々苦労しますしねー。
あ、時々今の感覚だととげとげしい表現もありますが、吉屋信子は結構そういう言葉、たぶん無意識に使ってしまうことが多いです。はい。
そんで、
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(……)男女のもっとも原始的本能の発動のたびに女がいちいち子を生まされてたまるものかと照世は思っている。子は美枝だけでたくさん、その子一人育てるにも戦後の悪戦苦闘は身に染みているのだ。
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「男女のもっとも原始的本能の発動」ですか。時代が(略)
さてこの照世さん、登場早々彼氏から別れを切り出されます。
会社のお偉いさんのお嬢さんの再婚相手に見込まれたからです。
ちなみにお嬢さん、品子さんには男の子一人います。夫は同僚女性と浮気して追い出された形です。けどお嬢さんにはまだ未練たらたら。で、こう思う訳です。
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(……)この人の子を生めば、まことの父のない靖が可哀そうだ、父のちがう子の母になりたくないと――品子はここへ立つ前に靖の傍に寝てはっきり決心してしまったのだ。
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さらに品子さん、こう切り出します。
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(……)「ですから手術受けて下されば……、お友だちのお宅、お子さんがたくさんで、とうとう旦那様がそうなすったわ」
手術というからには精管切除手術であろうか、寛一はその品子の要求に驚ろかされた。
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そんな訳でこの品子さん、結婚してもなかなかお嬢さんであることにしがみついてます。
最終的には、義父との裏取引wで実家を離れた遠くに三人で住むことによって色々何かいきなり解決してしまうんですが。
靖くんは寛一さんになついて実の父なんて忘れてしまうし、品子さんはあらまあ妊娠してしまいます。
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(……)――小さい新しい生命が体内に宿ったのでは……彼女はこれもみごとに寛一に足をすくわれた気がした。
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とは言いつつまあ仕方がない、とその時ようやく前夫の面影が胸から去っていくという次第。
してやられた、というより、確認しなかった品子さんの負けなんですよね。避妊を男任せにした女という、先の照世さんとは逆だという。
まあそう考えればこの話、対照的な女の話とも言えるんですが。
だけど精管切除手術、まあこの時代には類似の手術が結構行われていたのですが。
だけどなあ。さすがにまだ二十代の男に頼むなよ……
つかマジで吉屋信子、そう思ってたんじゃねえかと思うと怖すぎます。
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ちなみにこの話、手放してしまったので記憶でしか何なんですが、この女実業家さんと、お嬢さんの元夫の奥さんになった女性が組んで、養毛剤を開発するんですが。
……新幹線のビュッフェでお嬢さんの父親である社長に売り込みするんですよねえ。
何だろうこの生理的に何だろなと思うやりかたは。
メシ食ってるとこでそれかい、と。