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春のアップルパイ事件簿

 春は眠い。



 それは誰もが陥る春の罠である。




 暁の国――城内では慌ただしく使用人たちが動き回っていた。春は一番忙しい季節だ。それは王であるルシュラも例外じゃない。



 気分転換にと場所を変え庭園で書類を広げていた。空気は美味しいし、庭師のオッドが育てた自慢の植物たちに囲まれて文句なしと言いたいところだが、一つだけ問題がある。




 テラスのテーブルの上でうたたねをする人物が約一名。




「――僕についてくるなと散々言ったのに」




 一旦手を止め、なんの躊躇いもなしに手を思いっきりつねる。




「い、いってー!!!」




 赤茶色の短髪の少年があまりの痛さに悲鳴をあげる。




「何しやがる! ロリコンルシュラ」


「誤解を招くような言い方をするな。……そもそも聞きたいんだが」


「うん?」


「お前を構う暇もつもりもないんだが、どうして当たり前のように正面に座ってる」


「えー俺とルーくんの仲じゃん?」


「そんな仲になった覚えはない。で、今日はなんなんだ」



 まさか何もないはずはないだろう。さすがに、いや絶対に。期待と祈りをこめてルシュラは少年の言葉を待つ。




「そうそう大事な話があるんだった!



――アップルパイがなる木を向こうで見つけたから、リアも誘って一緒に食しにいこうぜ。もちろんアップルティーとジャムも持って!!」




 長い沈黙の果てに、ルシュラは。





「………………は?」




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