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第17話 諸悪の根源である種の支配者

 紅蓮ぐれんの優しさに心を打たれるも、りんは気持ちを押し殺し胸の高鳴りを落ち着かせる。そして、鞄から服を取り出すと、浮遊ボードに跨りあいが待つ場所まで戻ることにした。


 こうして、髪を靡かせ移動すること数十分。目の前に見えてきたのは、球体状の避難艇。そこには、瞳を潤ませながら佇むあいの姿。彼女はりんが戻ってくるや否や、勢いよく駆け寄り両手で抱きついた。まるでその光景は、子供が甘えるかのような素振り。


りんさま…………」


 愛する人を失った哀しみからか、あいは待っている間中、不安だったのだろう。そんな様子を目にしたりんは、安心させるように優しく微笑み語りかける。


「ごめんね、待たせちゃって」

「いえ、それよりもりんさま。その格好は?」


「どう? 似合うでしょ」

「……というよりも、それは救命胴衣ですか?」


 あいりんの格好を見て、目を丸くさせながら尋ねてきた。というのも、どこからどう見ても身につけているのは避難時に羽織る胴衣。とても戦闘に向いている服装とは思えない姿だった。


「ふふっ。これはね、救命胴衣じゃなくて、ハンティングベスト」

「ハンティングベスト?」


「そう。収納が沢山あってね、とても便利なのよ。それに、すごく暖かいの」

「なるほど……今の世界は、こういったものが流行っているのですね」


 りんからベストがどのようなものかを聞いたあいは、納得いった様子で頷きながら呟いた。どうやら彼女の時代にはなかった代物のよう。


「多分、サイズは大丈夫と思うから、着てみてくれる」

「はい、分かりました」


 りんから手渡されたベストを羽織るあいは、嬉しそうにその場でくるりと回る。


「どう……ですか?」

「うん、とってもイイ感じ。よく似合ってるよ」


「そう言ってもらえると嬉しいです。りんさまからのプレゼント、生涯大切にします」

「ふふっ、大げさね。でも良かった。そんなにも喜んでくれるなら、危険を冒してまで取りに行った甲斐があるってものよ」


「危険?」

「ええ、この場所には特殊な生物がいてね、早く逃げないと危ないの」


 あいの喜ぶ姿を見て思わず頬を緩ませるりん。けれども、今はのんびりと会話をしている場合ではない。なぜなら、日が傾きかけたことにより、奴らの活動時間が迫ってきているからだ。


「逃げるって、どこに?」

「決まってるじゃない! 街へ行くのよ、街へ!」


「えっ⁉ こんな荒れ果てた場所に、街なんてあるんですか?」

「あるにはあるけど、今日中には無理そうね。だからいい場所を見つけて、隠れないといけないのよ」


「別に隠れなくても、討伐すればいいじゃないですか」

「討伐なんて出来る訳ないじゃない。相手はパラサイト・オーガよ。見つかってしまったら、食べられて一巻の終わり」


 りんは状況を説明すると、あいの手を引き浮遊ボードに乗り込もうとする。


「――ちょっ、ちょっと待って下さい! それって、寄生生物のことですか?」

「寄生生物?」


「はい。憑依されると角が生え、鬼のような風貌になってしまうという」

「まあ、そんな感じかな? ていうか、眠っていた割には、よく知っているのね」


 パラサイト・オーガの生態について、あいは詳しくりんに話してみせる。


「知っているもなにも、ずっと追いかけてきた存在です」

「追いかけてきた?」


「そうです。私たちは鬼生体といい、諸悪の根源だった種を支配者。つまり、ロードと呼んでいました」

「それが、パラサイト・オーガと関係していると?」


 確かな証拠はないが、パラサイト・オーガとロードは同じ存在に違いない。というのも、この生物の特徴は夜行性であり、人肉を好む習性がある。これは動物の捕食では存続できず、人を喰らうことで生き延びることが出来るらしい。


 そのためか、一度取り憑かれてしまうと元の姿には戻れず、亡者のように彷徨い歩く。それだけ危険な種族であり、元凶を断つために追いかけていたという。


「はい。ロードというのは、一度に沢山の卵を産み落とします。ですから、その存在は厄介であるため、本体を打ち砕かなくてはならなかった。といっても、本来ならこの惑星にいるはずのない存在。それが何故、ペンタスに生息しているのかが不思議なんです」

「いるはずのない…………存在?」


 あいの話す内容に疑問を抱き、思わず驚愕の表情を浮かべるりん。それもそのはず、物心ついた頃には、すでにこの化物は存在していたからだ。よって、この謎を解明しない限りは、人類に安息の地はないといえるだろう…………。


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