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第15話 思い出の記憶

 避難艇の上部に映し出された映像は、あいと仲良く会話をしている場面。紛れもなく自分によく似た風貌がそこにはあった。ゆえに、この光景に驚くりんは、思わず言葉を失い呆然と立ち尽くす……。


 しかし、この人物が本当に転生前の自分なのか確かめたい反面、真実を知ることが怖いという葛藤。このような心情に悩まされながらも、意を決した様子で口を開く……。


「これが……転生前の僕?」

「そうです、これで理解していただけましたか」


 信じられないといった表情を浮かべているりん。それもそのはず、容姿が似ているだけなら、まだ可能性はあるかも知れない。ところが、身体に刻まれた黒子ほくろの位置、右手の甲にできた火傷の痕。この常識を覆す光景には、偶然の一致として捉えるには難しいといえる。


 そんな中――、またしても避難艇から聞こえてきたBOTボットの音声。


《登録者情報より、個体名:リン シロツメ・リン クロバ、双方の個体一致率 99.9%。同一人物と判定いたしました》


 BOTボットの音声により、りんは自分が転生者であることを認めざる得ない状況に陥ってしまう。けれども、まだ腑に落ちない部分があった。それは、なぜあいと一緒に旅をしていたのかということ。こればかりは悩んでも仕方なく、本人に聞いて見るのが手っ取り早いだろう。


「まあ、何となくだけど、状況は理解したよ」

「本当ですか? 分かって頂けて嬉しいです」


 りんは納得した素振りで頷いて見せると、あいは嬉しそうに満面の笑みを浮かべた。


「ところで、あいさんって言ったよね。ほかに何か着るものって、持ってないの?」

「着るもの?」


「いや、だから……そんな露出の多い服装だと目立つでしょ」

「露出とは、どういう意味でしょうか? 因みにこれは、私の戦闘スタイルでして、とても動きやすく丈夫なんですよ」


 服装に問題があると指摘されるも、あいは何のことだか分からない様子。それどころか、得意げな表情で説明を始める始末。その格好というのは、胸元が大胆に開き肩も露出した状態。


 街ではあまり見かけることがなく、目のやり場に困るようなデザインである。こうした発言に、流石のりんも納得がいかず思わず頭を抱えて大きな溜息を吐く……。


「あのね、あいさんが良くても僕が困るの。そんな格好で街を歩かれたら、男達がいやらしい目で見てくるでしょ」

「いやらしい目? それは、りんさまのことですか?」


「違うよ、僕は女‼ ――じゃなくて、街の男って言ったよね。ちゃんと、人の話を聞いているの?」

「はい、聞いています。私はてっきりりんさまのことかと。でも、おかしいですね?」


 何かを言いかけたりんではあるも、突然にも声を裏返らせ誤魔化ごまかすような素振り。この発言を変に思うあいは、首を傾げながら意味合いを考える。


「おかしい?」

「ええ。先ほどりんさまは、ご自身のことを女と言いませんでしたか?」


「なっ、何かの聞き間違いじゃないの」

「そうですか……? 確かに、女と聞こえたはずなんですけど。でも、そう考えたら不思議ですよね」


「なっ、なにが不思議なの」

「だって、私と旅をしていた時は女性だったんですよ。それが今は、男性として生まれ変わっている。とても不思議なことじゃありませんか?」


 どうやらあいは、性別が変わっていることに疑問を抱く。しかしながら、当の本人であるりんは、この話題に触れられたくないようで視線を逸らして口籠る。


「とっ、とにかくね、そんな格好じゃ目立つから、他に何かないの?」

「そう言われましても……私が持っているのは、これ一着です」


 動揺した顔つきのりんは、露出した服装をどうにかするよう催促した。とはいえ、他には着るものがないと、あいは困り果てた口調で答える。


「うーん……だったらね、ここで少し待っててくれる」

「それは嫌です!」


「嫌? ……って、どういう意味?」

「意味も何も、あの時のりんさまは同じことを言って、二度と私の元には戻って来なかったじゃないですか‼」


 りんは何かを思いついた様子で、この場を一旦離れることを伝える。けれども、一人取り残されるのではないかと、あいは咄嗟に腕を掴んで呼び止めた。


「戻って来なかったって言われてもねぇ……それは僕じゃないでしょ。ちょとかばんを取りに、ここを離れるだけだよ」

「――といいながら、置き去りにするつもりじゃないですか?」


 あいの疑心暗鬼な様子は変わらない。それどころか、腕を離そうとせず更に強く握り締める始末。


「そんな事なんてしないよ。安心して、ね」

「本当……ですか?」


 今までずっと避難艇の中で孤独な時間を過ごしてきたのだろう。あいは不安そうに、瞳を潤ませ上目遣いで訴えかける。そんな状況を察したりんは、これまでの経緯を思い返しながら残された彼女の気持ちを考えるのであった…………。


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