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第12話 謎の女性

 暫く沈黙した後、意を決したように球体内へ足を踏み入れるりん。ポッド内の状況及び、女性の容体を確認するべく近づいていく。そこから窺えたのは、人間と同じ体つきをした風貌。肉体に腐敗した様子はなく、意識を失い眠っているように思える。


 しかし、瓦礫がれきの山に埋もれていたということは、数百年は経過しているに違いない。だとするならば、目の前にいる人物は一体なんなのであろう……。


「少し驚いたけど、瓦礫に埋もれてたって事は人間じゃなく機械ってことだよね?」


 球体内はうっすらと霧が漂うも、目の前の光景は意外にもはっきりとしていた。これにより、りんは状態を確認するべく、恐る恐る女性の掌へ軽く触れる。


「――えっ⁉」


 女性の掌に触れた瞬間、突然にも声を発するりん。一歩後ずさりをしながら、驚愕の表情で呆然と佇む。


「温かいって……どういうこと?」


 周りの光景から判断すれば、人の型をした機械のようにも思える。ところが、触れた感触からは温もりがあり、どうやら生きている様子である。


「状況が呑み込めないけど……もしかして、この人はコールドスリープによって眠らされているの?」


 コールドスリープとは、人体を低温状態に保ち冷凍睡眠させる処置のことである。このように特殊な装置を用いることで、数百年もの間眠り続けることが可能とされた。


 ただ、これには高額な費用が必要であり、一般人が簡単に行えるものではなかった。ましてや、このような惑星にコールドスリープを行う施設があるとも思えない。


「いや……まてよ、それだと肌から温もりは感じられないはず」


 りんの脳裏には一つの疑問がよぎっていた。それは人間や動物であれば体温を感じられるもの、機械であるならば固く冷え切っているに違いない。だったらなぜ、柔らかな皮膚から温もりが伝わるのだろう。 その謎を確かめるべく再び近づき女性の表情を窺った。


「ひょっとして、この霧は……」


 りんはポッドの周辺を見渡しながら、霧の正体を突き止めようと試みる。この現象から察するに、脱出ポッド内に充満している気体が関係しているとみて間違いない。


「これって……コールドスリープじゃなく、停滞フィールドだよね!」


 りんの発した言葉の意味。それは、高濃度のナノマシンを散布し時間を極度に遅延させたシステム。限定された空間の領域を停滞させることにより、人体に影響を与えないよう制御した技術。元々は医療目的で使用されていたが、今では軍事目的である可能性が高い。


 つまり目の前の女性は、何かしらの理由で意図的に時間遅延させられていたのである。その証拠に、ポッド内の空間には特殊な装置が配備されており、そこから微弱な電磁波が発せられていた。


「ということは……この女性は機械じゃなくて人間?」


 りんはおもむろに、女性の顔を覗き込み思わず息を呑む。こうして球体の扉が開かれてから、どれくらいの時が経過したのだろう。ほどなくすると、周辺に優しい風が吹き抜けポット内部の霧をかき消していく……。


 ――と同時に、ゆっくり開かれる瞳。やがて徐々に晴れていく霧とともに、女性は虚ろな表情で辺りを見渡す。


「どうして、ここにいるのですか?」


 女性はりんの存在に気づくや否や、小さな声で意味深な言葉を囁く。これに驚く二人は、顔を見合わせ呆然と佇むのであった…………。


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