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第8話 手に握りしめたものとは……。

 りんは残骸の頂上で身を低くすると、パラサイト・オーガの動向を目を凝らし眺める。その光景は何とも気味悪く、両手を前に突き出し体を左右へ揺れ動かしていた。それはまるで意志を持った野生動物のように、何かを求め彷徨い歩く。


 このような光景から1時間が過ぎた頃、りんは残骸の上に立ち周囲を何度も確認する。というのも、紅蓮ぐれんがいない状況下で、もし見つかってしまえば今度こそ命はないだろう。従って、慎重になりながらも脱出の機会がないか様子を窺っていた。


 とはいえ、頂上からは辺り一面を見渡す事ができる。これにより、いざという時は残骸に身を隠し、陽が高くなるのを待てばいい。何故なら、パラサイト・オーガの習性は夜行性ではないものの、炎天下ともなれば動きが鈍る。そのため、特別な事情がない限りは、闇夜は身をひそめ日中に行動するのが利口であろう……。



 ――こうして状況を確認するため、残骸の上から周囲を一望するりん


「とりあえず、もう大丈夫だよね」


 紅蓮ぐれんが引き付けてくれた甲斐もあってか、周辺を見渡せど奴らの存在はどこにもなかった。ゆえに、残骸から身を乗り出すりんは、ほっとした表情で胸を撫でおろす。


「っていっても、これからどうしようか。待ち合わせの街までは半日。僕の足だとそれ以上かも……」


 りんがため息交じりに発した言葉には理由があった。この場所から街までは徒歩で半日、着いた頃には夜中になっているかも知れない。そうなれば、活発化する奴らにとっては獲物を仕留め易い時間帯。さすがにそれは不味いと策を考えるも、全くといっていいほどアイデアが思い浮かばない。


「まあ、僕の足でもフローティングボードがあれば、街まで行けたんだろうけど」


 りんが呟くボードというのは、簡単にいえば板状の浮遊する乗り物。前後には小さな二機のプロペラが取り付けられており、内部には超小型のインジェクションが搭載。これを更に創りかえ、大気中の粒子をエネルギーに変換。そして吸気と排出によって、浮上を可能なものとさせていた。


 そんなボードを創り出したのは、メカニカルと呼ばれたりん。自然の力を応用した未知なる発明化。好きなものは機械の塊、得意なことは機械いじり。夢中になると、よく周りが見えなくなるという。


「とにかく、考えても仕方ない。今日はここで野宿の準備をしよう」


 りんは俯きながら呟くと、悲しそうな表情を浮かべ残骸から降りようとする。その瞬間――、足を滑らせ周辺の物を掴もうとした。けれども、残念なことに勢い良く一気に下まで転げ落ちる。


「――つぅ、いたた、たた。もう――、今日はほんと散々な日だよぉー」


 背中を押さえながら仰向けになった体を起こそうとするりん。滑り落ちる時にでも残骸を握りしめたのだろう。手に吸い付くような感覚に、掴んだものを確認するため目を向けた。


 ――が、そこで見かけた光景というのは、信じられない物であった…………。


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