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第7話 パラサイト・オーガ

 周囲の残骸を搔き分け、死にもの狂いで光の痕跡をたどるりん。指先が傷だらけになろうとも、紅蓮ぐれんのためを思い気にせず探し求める。何度も何度も諦めることなく夢中になる姿。小さな掌、背が低く華奢きゃしゃな体系、頬を赤らめた表情。そこから窺えた光景は、さながらのようであった……。


「やっぱり……どこを探しても何もないや。どうやら僕の勘違いだったようだね」


 幾度も残骸の山を確認するも、目的の物はやはり見つからない。そのため、時間をかけても無駄と判断したのだろう。りんは探すことを諦め、頂上からゆっくり降りようとした。


 ――そんな時だった。周辺で待機していた紅蓮ぐれんが鬼気迫る声で叫ぶ。


「やばい――、りん‼ 奴らが現れた!」


 紅蓮ぐれんの声に驚くりんは、すぐさま残骸の上から見下ろす。すると、奴らが傍まで差し迫っているではないか。


「――紅蓮ぐれん、ちょっと待って‼ 急いでそっちに行くから」


 りんは慌てて伝えるも、足場は悪くすぐには降りられそうもない。こうしている間にも、奴らは少しずつ近づき状況は一刻を争う。


「駄目だ――、りん‼ お前を待っていたら追いつかれちまう。俺がひきつけるから、その間にお前は逃げろ!」 

「でも紅蓮ぐれん!」


「心配するな、落ち合う場所はいつもの街だ。だから安心しろ、俺は決してりんを一人にはしない!」

紅蓮ぐれん……」


「――じゃありん。お前の方こそ、気をつけるんだぞ!」

「うん」


 心の想いを伝えた紅蓮ぐれんは、前輪ブレーキを握りしめアクセルを吹かす。その瞬間、後輪タイヤが勢いよく風を切りながら回転を始めた。やがてタイヤは砂を巻き込み、粉塵となり周囲を覆いつくす。こうしてその場から離れると、奴らを惹きつけるべくバイクを走らせる。


紅蓮ぐれん、絶対に生きて帰ってきてね。約束…………だよ」


 残骸頂上から動向を眺めるりんは、切なそうな表情でそっと呟いた……。



 このように、先ほどから二人が奴らと呼んでいる存在。それは人間に寄生したパラサイトが、脳の思考回路を書き換え自由を奪っていた。本来ならば意識を失った体は動くことはない。ところが、奴らに支配されてしまうと、操り人形のように街を徘徊し彷徨い歩く。


 といっても、寄生虫には様々な種が生存しており、ハリガネムシはカマキリなどの昆虫に寄生しては脳を支配する。一方でエキノコックスなどの生物は、キツネや野生動物を宿主として体から栄養分を吸いあげる。これらの種は完全に支配するといった事は出来ないが、人に感染すると死に至らしめる生物ではある。


 ――特に危険な寄生虫は、りん達が奴らと呼ぶ未知なる異種の存在。


 そんな奇妙な生物が突如現れ出したのは、隕石が衝突して間もなくである。その寄生虫は中間宿主の動物を経由して、最終宿主の人間を求め人々を襲う。そうして寄生生物は新たな体に乗り移ると、脳を支配して操ろうとする。


 あいにく大衝突によって、体が不自由な人間はそこらじゅうにいた。これにより、中間を経由しなくとも簡単に体が手に入る。ゆえに、パラサイトにとっては選り取り見取りの好都合な惑星であった。


 要は、パラサイトに体を乗っ取られてしまうと、人間としての姿も変化する。風貌は額から牛のような角が生え、口からは野獣のような牙が鋭く伸びた。目に瞳孔はなく赤い血のような色をした瞳が虚ろに光る。


 この野獣と化した生物を人々は、パラサイト・オーガと呼んだ…………。


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