周辺一帯には遮るものなど何もなく、あるのは固められた鉄くずの山。このせいもあってか、上空からは陽の光が容赦なく降り注ぐ。とはいうものの、時おり吹き抜ける風は心地よく、そっと頬を撫でるように優しく通り過ぎてゆく…………。
こうして目的の場所に辿り着いた凛は、寄せ集めた残骸の高さに唖然と空を仰ぐ。
「よいしょっと。やっぱり近くで見ると機械の山は凄いね。――って、いけない、いけない。のんびりやってると、また紅蓮に怒られちゃうよ」
残骸を眺めながら言葉を失い、しばらく見入ってしまう凛。といっても、時間にして数秒。紅蓮の不貞腐れた態度でも思い浮かべたに違いない。瞬時に我に返り、慌てて光の正体を探る。
「だけど、この中から探すのは至難の業だよね。でもこれも紅蓮のため、今日こそは美味しいものを食べさせてあげるからね」
双方の小さな掌を握りしめ、凛は心の想いを呟きかける。果たして、この言葉にはどのような意味が込められているのであろう。それはもしかしたら、決まり事のことを言っているのかも知れない。
――それは紅蓮の提案で決められた二人だけの約束事。仮に動物を捕えても分配は平等である。つまり食料はいかなる理由があるにせよ、仲良く分けるのが鉄則。であるならば、狩りをしていたのは互いに協力しての事と思える。
しかしながら、決してそんな事はない。どちらかと言えば獲物を捕えていたのは紅蓮の方であった。一方、凛はといえば、狩りに出かけたとしても一匹すら仕留めること叶わず。というのも、この混沌とした世界にあるまじき考えが原因。どうやら動物を殺すことに抵抗があるらしい。
紅蓮はこうした気持ちを察していたのだろう。凛が遠慮しないようにと、全ての事柄にルールを決めていた。とはいえ、獲物が捕れない日もあったに違いない。そんな時は、洞窟内に滴る水を飲み空腹を紛らわせていた。
当然のことながら、食べ物がなければやむを得ない行為といえる。けれども、辛くひもじい思いは自分だけで十分。紅蓮はこう感じていたに違いない。それ以降は分配した食料を少しだけ口にし、残り全ては手提げ袋にしまい込んでいた。
これにより、いざという時はそこから分け与え、当面の間は飢えを凌ぎきる。では実際、この事を凛は知らなかったように思えるも、じつのところは知っていた。ところが、紅蓮の想いに水を差す訳にはいかない。
こう考えた凛は、快く好意を受け取っていたという。そんな想いからか、恩返しをするためにも必死になって瓦礫の山を掻き分ける。
「確か、この辺が光ったように思えたんだけど?」
先ほど凛の瞳に差し込んできた輝く光。宝石の類に違いないと願い、残骸を手に取り確認しては投げ捨てる。何とも気が遠くなるような地道な作業。やがて時は過ぎ、気がつけば頂上まで到達していた。
「はあ……やっぱり気のせいなのかな? とりあえず、どうしようか。威勢のいいこと言っちゃったから、がっかりするだろうな」
凛は気落ちした面持ちで、残骸下にいた紅蓮を見つめ残念そうに呟く。けれども、先ずは宝のことよりも食料が優先。どれほど貴重な品を手に入れたとしても、腹の足しにならなければ意味がない。
からといって、周辺は見渡す限り瓦礫の山。荒れ果てた土地に食べ物などあるはずもなく、絶望的な状況下。ところが、このような時代でも高価な品であれば、食料と交換が可能であった。
というのも、ここから少し北へ行った場所に、複合した大型の建物がある。そこには、ひと通りの攻防装備や傭兵などの斡旋場所。これら以外にも、物品の交換や酒場を含めた飲食店。ところ狭しと、多種多様な店舗が存在しているという。
したがって、商業施設へ宝を持ち寄れば貨幣と交換ができ、そのお金を利用して食事を行うことが出来る。またこれら以外でも食料を調達することは可能。それは言わずと知れた、働いて賃金を得るということ。
ゆえに、ここには職の斡旋場所が多くあり、請け負う仕事によっては報酬も様々だ。その中でも、危険を伴うが見返りがよい任務。紅蓮と凛が、やつらと呼ぶ存在の討伐である…………。