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第4話 危険な存在

 周辺一帯には遮るものなど何もなく、あるのは固められた鉄くずの山。このせいもあってか、上空からは陽の光が容赦なく降り注ぐ。とはいうものの、時おり吹き抜ける風は心地よく、そっと頬を撫でるように優しく通り過ぎてゆく…………。


 こうして目的の場所に辿り着いたりんは、寄せ集めた残骸の高さに唖然と空を仰ぐ。


「よいしょっと。やっぱり近くで見ると機械の山は凄いね。――って、いけない、いけない。のんびりやってると、また紅蓮ぐれんに怒られちゃうよ」


 残骸を眺めながら言葉を失い、しばらく見入ってしまうりん。といっても、時間にして数秒。紅蓮ぐれん不貞腐ふてくされた態度でも思い浮かべたに違いない。瞬時に我に返り、慌てて光の正体を探る。


「だけど、この中から探すのは至難のわざだよね。でもこれも紅蓮ぐれんのため、今日こそは美味しいものを食べさせてあげるからね」


 双方の小さな掌を握りしめ、りんは心の想いを呟きかける。果たして、この言葉にはどのような意味が込められているのであろう。それはもしかしたら、決まり事のことを言っているのかも知れない。



 ――それは紅蓮ぐれんの提案で決められた二人だけの約束事。仮に動物を捕えても分配は平等である。つまり食料はいかなる理由があるにせよ、仲良く分けるのが鉄則。であるならば、狩りをしていたのは互いに協力しての事と思える。


 しかしながら、決してそんな事はない。どちらかと言えば獲物を捕えていたのは紅蓮ぐれんの方であった。一方、りんはといえば、狩りに出かけたとしても一匹すら仕留めること叶わず。というのも、この混沌とした世界にあるまじき考えが原因。どうやら動物を殺すことに抵抗があるらしい。


 紅蓮ぐれんはこうした気持ちを察していたのだろう。りんが遠慮しないようにと、全ての事柄にルールを決めていた。とはいえ、獲物が捕れない日もあったに違いない。そんな時は、洞窟内に滴る水を飲み空腹を紛らわせていた。


 当然のことながら、食べ物がなければやむを得ない行為といえる。けれども、辛くひもじい思いは自分だけで十分。紅蓮ぐれんはこう感じていたに違いない。それ以降は分配した食料を少しだけ口にし、残り全ては手提てさげ袋にしまい込んでいた。


 これにより、いざという時はそこから分け与え、当面の間は飢えを凌ぎきる。では実際、この事をりんは知らなかったように思えるも、じつのところは知っていた。ところが、紅蓮ぐれんの想いに水を差す訳にはいかない。


 こう考えたりんは、快く好意を受け取っていたという。そんな想いからか、恩返しをするためにも必死になって瓦礫がれきの山を掻き分ける。


「確か、この辺が光ったように思えたんだけど?」


 先ほどりんの瞳に差し込んできた輝く光。宝石の類に違いないと願い、残骸を手に取り確認しては投げ捨てる。何とも気が遠くなるような地道な作業。やがて時は過ぎ、気がつけば頂上まで到達していた。


「はあ……やっぱり気のせいなのかな? とりあえず、どうしようか。威勢のいいこと言っちゃったから、がっかりするだろうな」


 りんは気落ちした面持ちで、残骸下にいた紅蓮ぐれんを見つめ残念そうに呟く。けれども、先ずは宝のことよりも食料が優先。どれほど貴重な品を手に入れたとしても、腹の足しにならなければ意味がない。


 からといって、周辺は見渡す限り瓦礫の山。荒れ果てた土地に食べ物などあるはずもなく、絶望的な状況下。ところが、このような時代でも高価な品であれば、食料と交換が可能であった。


 というのも、ここから少し北へ行った場所に、複合した大型の建物がある。そこには、ひと通りの攻防装備や傭兵などの斡旋場所。これら以外にも、物品の交換や酒場を含めた飲食店。ところ狭しと、多種多様な店舗が存在しているという。


 したがって、商業施設へ宝を持ち寄れば貨幣と交換ができ、そのお金を利用して食事を行うことが出来る。またこれら以外でも食料を調達することは可能。それは言わずと知れた、働いて賃金を得るということ。


 ゆえに、ここには職の斡旋場所が多くあり、請け負う仕事によっては報酬も様々だ。その中でも、危険を伴うが見返りがよい任務。紅蓮ぐれんりんが、やつらと呼ぶ存在の討伐である…………。

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